画像編集ソフトウェアとして有名な「Adobe Photoshop」は、上手く使えば画像の原型をとどめないレベルのスーパー魔改造が行えるほど有能なソフト。素人目で写真がPhotoshopで加工されているかどうかを見抜くのは、非常に困難なレベルにまで進化しています。そんなPhotoshopで加工された画像を、ニューラルネットワークを用いて判別するという試みをAdobeが自ら行っています。

Adobe Research and UC Berkeley: Detecting Facial Manipulations in Adobe Photoshop | Adobe Blog

https://theblog.adobe.com/adobe-research-and-uc-berkeley-detecting-facial-manipulations-in-adobe-photoshop/

Photoshopの開発元であるAdobeは、1990年にリリースされたPhotoshopが創造性と表現を民主化するための大きな一歩につながったと主張。それ以来、Photoshopが視覚表現の分野で大きな影響を与えていたことを誇っていますが、同時に、画像編集で生み出された偽の写真やコンテンツが数多くの問題を引き起こしてきたことも自覚しているとしています。

そこで、Adobeはデジタルメディアにおける信頼性を高めるために、人工知能(AI)などの新技術を用いて問題を解決する方法を模索してきたとのこと。そして、Adobeの研究者であるRichard Zhang氏とOliver Wang氏、そして共同研究者としてカリフォルニア大学バークレー校のSheng-Yu Wang博士、Andrew Owens博士、Alexei A. Efros教授の5人が、国防高等研究計画局(DARPA)のMedia Forensicsプログラムのスポンサードのもと、Photoshopの「ゆがみ(Face-Aware Liquify)」フィルターを用いて「Photoshopで加工された画像」を検出することができるツールの作成に成功しています。



by Eftakher Alam

Zhang氏らの研究は、画像・ムービー・オーディオ・ドキュメントなど幅広いデータが「加工されていないかどうか」を検出するための取り組みの一部であるとのこと。

Adobeはこれまで特に画像加工の中でも多い、「表情の調整」や「顔の一部の加工」といった局所的な画像加工を検出することに精力的に取り組んできたそうです。そして、今回の研究では「人間よりも確実に画像加工が行われた部分を識別できるツール」と、「画像加工された部分を元に戻すことができるツール」の開発に取り組んでいます。

研究チームは畳み込みニューラルネットワーク(CNN)が「画像加工された人間の顔」を識別できるようにするため、インターネット上の何千もの顔写真に、Photoshopのゆがみフィルターを適用して「顔の一部が加工された画像」のデータセットを作成。さらに、データセットの中の画像の一部を実際の人間がPhotoshopを用いて加工することで、画像加工に用いられるテクニックの幅を広げ、CNNが「画像加工された人間の顔」を識別する精度を向上させることに成功しました。

研究グループの一員であるOliver氏は、「我々は顔の一部が変更されたことを知っている人に、オリジナルの画像と加工した画像のペアを示すことから始めました。我々のアプローチが有用であることを示すには、『加工された画像の識別』において、我々のニューラルネットワークが人間の目よりもはるかに優れたパフォーマンスを発揮しなければいけません」と語っています。

調査によると、「加工された画像」を見分ける際の正解率は人間が53%であるのに対して、研究グループの開発したニューラルネットワークを用いたツールはなんと99%という高い正解率を示したそうです。加えて、ツールは加工された画像を元の状態に戻すことにも成功しており、Adobeによればその精度は「研究者たちが感動するレベル」とのこと。



by Alexandru Zdrobău

研究に参加したEfros教授は、「人間の顔には幾何学的に非常に多くのバリエーションが存在するので、加工された画像を戻すことは不可能なように思えます。しかし、我々のツールの場合、ディープラーニングがゆがんだ部分などの『低レベルの画像データ』と、全体のレイアウトのような『高レベルの画像データ』の組み合わせを調べることができるため、不可能かに思えた加工された画像を元に戻すという作業が実現可能となります」と語っています。

ただし、加工された画像をワンボタンで元に戻すような魔法の機能をPhotoshopに実装するというアイデアの実現は、「まだまだ現実にはほど遠い」とZhang氏が補足しています。

Adobeの研究部門でリーダーを務めるGavin Miller氏は、今回開発されたツールについて「特定の種類の画像編集を検出するための重要なステップであり、元に戻す機能は驚くほど上手く機能します。このような技術を通し、コンテンツを操作することができることを一般の人々が知ることが、意図的に編集された悪意あるデータから身を守るための最善の防御策となるでしょう」とコメントしています。