取材・編集:木村衣里 文:文月 撮影:堀内彩香 取材場所:仁岸湯

 

「裸の付き合い」という言葉があるように、お風呂を通じたコミュニケーションは人間関係をなめらかにし、心の距離を縮めるものとされてきました。
この企画は、「東京銭湯 - TOKYO SENTO -」編集長の木村が、「はだかのおつきあい(お風呂でインタビュー)」を通じて銭湯好きのみなさんと仲良くなろう! という試みです。

今回は、モデルのアリスムカイデさんと一緒に江戸川区にある『仁岸湯』さんにお邪魔しました。アリスさんと銭湯の出会いや、銭湯の楽しみ方、さらには「実は水風呂に入ったことがない」というアリスさんの水風呂デビューの様子もお届けします!

 

仲良くなりたいから、家にも呼ぶし銭湯にも行く

▲この日の取材は江戸川区『仁岸湯』で行われた。赤富士のペンキ絵がかっこいい!

――今日は「裸の付き合い」ということで、一緒にお風呂にはいりましょう。よろしくお願いします! さっそくですが、アリスさんはいつ頃から銭湯に行くようになったんですか?

上京してすぐの頃ですね。地元の北海道(札幌市出身)にいるときは、温泉が身近にたくさんあったので週末ごとに温泉に行っていました。
東京に出てきたばかりの時は、お金がないのでワンルームの部屋で一人暮らしをしていて、お風呂もユニットバスでした。
だから家でお風呂を溜めて入りたいとは思わなくて……。「家の近くに銭湯があるし、とりあえず行ってみよう」と思ったのが銭湯デビューのきっかけですね。

 
――わたしも銭湯デビューのきっかけはアリスさんと同じで、「ワンルーム・ユニットバスでお風呂に入れないから……」という理由でした。上京や一人暮らしがきっかけで銭湯デビューする人は案外多いのかもしれないですね。
はじめての銭湯は、どうでしたか?

もともと温泉にはよく行ってたから、そこまで目新しい感じは無かったですね。ただ、銭湯特有の空間がすごく好きだな〜と思いました。

 
――銭湯特有の空間というと?

東京にいるはずなんだけど、銭湯だけはどこか地方っぽいコミュニティ感がある。なんだか懐かしいような空気が流れているというか。

 
▲ジェットバスの勢いに驚くアリスさん。「このまま流されそう〜」

――うんうん、とってもわかります。ホーム感ありますよね。どれくらいの頻度で銭湯に行きますか?

その時住んでいる場所によって変わりますね。
今は家から銭湯まで徒歩1〜2分なので、週一くらいのペースで行ってるかな。
コンビニよりも銭湯のほうが近いし、駅からの帰り道にあるという最高の立地で(笑)。

 
――それいいなあ。わたしも以前は銭湯にめっちゃ近いところに住んでたから、週一とかで通っていたけど、今はちょっと歩かなきゃいけないから頻度が減っちゃいました。やっぱり家から銭湯までの距離は大事ですよね。

そうですね。私の家は友だちが遊びに来たり、泊まりに来たりすることが多いんです。そういう時に「銭湯行こうよ!」って、みんなを誘って行くことが結構あります。

 
――わ! それはめちゃめちゃ楽しそう!

私は友だちと銭湯に行くのも、家で遊ぶのも好きなので、それを受け入れてくれる人とはすごく仲良くなれる気がするんです。
東京で遊ぶとなると、どこかに一回集合してそれから移動して遊んで解散して……って流れが多いけど、それよりも家で遊ぶと一気に距離感が縮まるから、そのほうが好きなんですよね。

 
▲ぬるめの炭酸泉はじっくりおしゃべりするのにピッタリ

――なるほどな〜。初めて遊ぶ人を家に呼ぶこともありますか?

もちろんあります!
地元にいる時や10代の頃って、誰かの家で遊ぶのが普通だったじゃないですか。それを東京でもやっているだけで、私にとっては普通のことなんですよね。
みんなでご飯を食べて、なんとなく「まだ帰りたくないな〜」って時に「じゃあうちで遊ぼうよ! ついでに近くの銭湯も行こうよ!」っていう、同級生みたいなノリが大好きで(笑)。

 
▲地元の友だちと「意味もなく家に集まってダラダラする」感じが好きだと話すアリスさん

――都会的な雰囲気からは想像できないアットホームさが最高ですね。

「鍵開けておくから好きに使って!」って感じですね(笑)。
たまに会ってご飯だけ食べて、近況報告して解散するっていう友だちよりも、本当に付き合える仲間がほしいんですよね。だから友だちには本音を言うし、喧嘩もしょっちゅうする。でも、誰かが困っている時にはいつでも駆けつけるし。そういう「義理人情」みたいなマインドが強いから、本当に仲良くなれる人と一緒にいたいんです。

 
――義理人情……(笑)! アリスさんの口からその言葉が聞けるとは思ってなかったです。

そうですか(笑)? だから、誰かと仲良くなりたいなって時には家に誘って、一緒に銭湯に行く。お湯に浸かっていると自然といろいろな話ができるし、お互いの深いところまで知れる気がして。

 

――銭湯だと、普段話さないようなことまで話しちゃうことある。あれ、不思議ですよね〜。

恋愛の話とか、最近の悩み事とか、食事中にはちょっと話しづらかったことも話題にあがりやすい気がする。
考えてみれば不思議だなあ……。

 

銭湯の鏡は「中立」である

▲このあたりから、じんわり汗をかきはじめる二人

――アリスさんの友だちの中には、銭湯に抵抗がある子とかはいないですか?

今のところは、あんまりいないですね!
初めて銭湯に一緒に行った友だちには「アリスがバーン!って脱いで先に行っちゃうから、恥ずかしがる隙がなくなった」と、言われたことがあります(笑)。

 
――あはは! アリスさんの豪快な脱ぎっぷりに圧倒されたんですね(笑)。

実際、銭湯にいる人は周りの人たちの裸なんてほとんど見てないと思うんですよね。
体については、みんなそれぞれコンプレックスに思うことがあるかもしれないけど、どれも他人からしたらそんなに大したことじゃないと思うんです。
それなら隠すよりも逆に、どんどん出していくことで「あまり気にしなくていいのかも」って思うようになる気がして。

 
▲「ゆ〜っくりでいいからね〜。はい、息吐きながら〜〜」と声をかけつつ、アリスさんの水風呂デビューを見守る

――銭湯に行くといろんな人がいて、いろんな裸がありますからね。

あとは、自分の家の照明と違うところで自分の裸をみるって結構発見がありますよ、「あれ……?」って(笑)。
自分の部屋の鏡で顔を見た後に、外出先のトイレに写った自分の顔を見ると全然違うように感じることってよくありません?

 
――あるある! 「味方の鏡」と「敵の鏡」ですよね。家の鏡は味方だからよく写るけど、一歩外に出ると敵ばかりで「こんなんだったっけ?」ってなるやつ。

それでいうと、銭湯の鏡はまさに中立ですよね(笑)。銭湯の鏡って平たいし照明も白色だから、時に残酷だけどあれが真実なんだろうな……。
でも、スーパー銭湯とか大きな施設は別ですね。

 
――みんなにいい顔してる(笑)?

スーパー銭湯で撮る写真はかわいいですもん。お風呂上がりは顔が火照ってるし、照明も明るくて綺麗だし。
あれはもはやSNOWと一緒ですよ! 銭湯はノンフィルター(笑)。

 
▲ついに入れた〜! 「入っちゃえば意外と平気かも」と言いつつ、この表情

 

銭湯はいちばん身近なエンタメ

――ほかに銭湯の好きなところってありますか?

お風呂って毎日入るものだから、銭湯に行くことって日常の延長線上の行為なんですよね。だけど、銭湯にはエンタメ感がある。そこが好きですね。

「今日一日なにもしてないなー」って日でも、近所の銭湯に行くだけで「良い一日になった」と思えるし、大きなお風呂にも入れて気分もよくなるし、一石二鳥!

あとは、銭湯ってほとんどが住宅街にあるじゃないですか。家と並んでても違和感がない見た目なのに、一歩中に入ると人がたくさんいて単純に面白い空間だなって思いますよ(笑)。住宅地でそんな場所、ほかにないですよ!

 
▲お風呂上がりは「フルーツ牛乳派」だというアリスさん。お風呂上がりに体を涼ませる時間も、たのしいものだ

――たしかに銭湯に行くだけで一日の充実感がガラッと変わってしまう感じ、わかります!

もともと私はすごく面倒くさがりなんですよ。だから家で浴槽を洗って、お湯を溜めてっていう行為がものすごく面倒で。
もっといえば銭湯に行くために外に出るのすら面倒なんですけど、だからといって部屋にずっと篭っているのもよくないなと思って、外出する動機になるんです。
銭湯に行けばどうしたって人に会うし、出かけるスイッチも入るから自分の中で切り替えができるんです。同じ近所への外出でも、コンビニに行くのとは全然違う。

 
――なるほど。アリスさんにとっての銭湯は、一人の時はダラけすぎてしまわないストッパーのような役割の場所で、友だちと行く時はコミュニケーションの媒介になっているんですね。

 

お互いに北海道出身ということもあり、とてもニッチで地味なあるあるトークで盛り上がる場円もあり一気に親近感が湧きました。
お会いするまではとてもクールな人という印象だったアリスさん。だけど、実際に会ってみると義理人情に厚くて、「人が好きなんだな」という印象に変わりました。

みなさんも「仲良くなりたい」と思う相手がいたら、ぜひ思い切って銭湯に誘ってみてください。相手の意外な魅力が見つかるかもしれないですよ!

それでは、また次回お会いしましょう!!

 

※今回は撮影のため、特別に許可をいただいてタオルを着用しています。

アリスムカイデ

北海道から高校卒業とともに何のアテもなく上京。事務所に所属しドラマ、映画を主とした芸能活動を開始するがモデルの活動がしたかったためフリーに転身、再始動。独自のキャラクター性とスタイルを自らプロデュースして売り込み、現在では日本のファッション、カルチャーに携わるモデルを軸に、20本を超えるミュージックビデオへの出演やDJ、MC活動など、さらには「モードとファンタジーとロックミュージック」をテーマにプロデュースブランドを立ち上げるなど活躍の場を広げている。ニューエイジ・ヒロイン。

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