貴乃花親方(写真:日刊スポーツ/アフロ)

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25日、角界を揺るがす大事件が起きました。平成の大横綱・貴乃花親方が日本相撲協会に「引退届」を提出し、角界から去ることを発表したのです。その理由について貴乃花親方は、貴ノ岩に対する傷害事件にあたって内閣府公益認定等委員会に提出した告発状の内容が事実無根な理由に基づいてなされたものであることを認めるよう有形・無形の要請を日本相撲協会より受け続けたからであると述べています。貴乃花親方にもかたくなな面があったとは言え、「傷害事件の被害者側の人物が最終的に職を追われる」という結末は、極めて不条理なものとなりました。

しかし、協会を去ることで手に入るものもあります。

貴乃花親方が引退を選ぶに至った最終的な分岐点は、告発状が事実無根であることを認めることはできないからでした。自身の抱える弟子たちのため、部屋の運営をつづけるために告発状を取り下げこそしましたが、告発の火種はいまだ貴乃花親方の手の内にあるのです。そして、それを事実無根なものとは認めていないのです。弟子たちがプレッシャーを受けることを避けるために現時点では「(協会と)戦う姿勢はございません」としているものの、弟子たちが不利益を被ったり、日本相撲協会に新たな問題が起きたとき、貴乃花親方はその火種をいつでも投げることができるのです。協会を去ることによって、むしろ「自由」を手に入れたのです。

件の記者会見では、貴ノ岩に対する傷害事件に関して第三者委員会が設けられなかったことなどを挙げ、日本相撲協会のガバナンスの不備を指摘した貴乃花親方ですが、今後は貴乃花親方こそが協会の新たな問題に関する「第三者」となります。協会の構成員ではなくなり、しかし協会の内情に極めて精通した人物が、告発の火種を持ったまま大相撲の行く末を見守っています。弟子や部屋といった「人質」でコントロールすることができない、自由な「第三者」が厳しい目で大相撲を見守っています。それは日本相撲協会にとっては背筋がのびる想いでしょう。

角界を去った人物が協会の内幕を暴露するという事例はこれまでも数多くありました。8月に亡くなった元小結の板井圭介氏など、現役当時以上に暴露記事の情報源として名を知られる人物も生みました。もしも貴乃花親方が告発の火種を手に、外から協会を律しようとすればその反響は大変なものとなるでしょう。協会に残った誰よりも強く、誰よりも有名な人物が火種を投げてきたなら、黙殺では済まない騒ぎとなります。そのことは、この1年に渡る騒動で協会側も痛感しているはずです。

日本相撲協会には、そうした恐れをもって健全な協会運営を目指していってほしいもの。そして貴乃花親方には、角界を去ってもなお大相撲を愛する「第三者」として、厳しく角界の行く末を見守ってもらいたいもの。腹に据えかねることがあったら第三者・貴乃花を頼る、そうした駆け込み寺としても機能していくことになれば、貴乃花親方が手にした「自由」の価値も高まっていくのではないでしょうか。

旧い体質を変えるのは「外圧」や「黒船」であるとすれば、自由を手にした貴乃花親方こそがまさに「外圧」や「黒船」となり得る存在なのですから。不撓不屈の外圧、不惜身命の黒船に。・文=フモフモ編集長