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もくじ

ー 50周年を迎えたジャガーXJ
ー 乗り心地とハンドリングを両立
ー デウィスのXJシリーズ1
ー 今でも色褪せない乗り味
ー 次世代型XJへ
ー ジャガーXJ 歴史に残る5台
ー XJの電動化の将来
ー ジャガーV8の終焉

50周年を迎えたジャガーXJ

クルマの昔話の中には奇妙な皮肉ともいうべきものが潜んでいる。このクルマのように。ジャガーXJの50周年を祝うわたしは、誕生から今日までに作られた多くのモデルを前に立ちすくんでしまう。将来光があたるであろう最良のセダンというべきクルマたちだ。

歴史を通じて、われわれが回顧したくなるようなクルマは未来を見据えたクルマばかりである。ジャガーは退職のご褒美に買うといったステレオタイプなイメージが昔からあるが、ジャガー自身はそのイメージを壊そうとしてきた。

今日でもこのジャガーXJR575は過去のしがらみを破壊しようとしているように感じられる。このクルマが戦いを挑むホットなメルセデスやBMW、アウディは、コンセプトとしては実際にはそんなにクラスを外れてはいない。

強力な加速やあごが外れるようなスピードも、混雑した駐車場では無用の長物、気付かれることもない。しかし、5000ポンド(71万円)もするサテン・コリス・グレーのペイントを別にしても、XJRは常に人の関心を引くクルマである。すべての最良のジャガーがそうであるように、最良のXJはいつも主張のあるクルマだった。

クルマの中身も同様。ドイツ人が好む工業的な上辺の清潔さといったものはジャガーにはない。XJRのインテリアにはときどきダッシュボードを拳で殴りたくなるような一面もある。その筆頭は使い物にならないナビゲーションとインフォテインメントシステムだが、それを除けば、わたしには快適至極である。

乗り心地とハンドリングを両立

運転感覚もとても素晴らしい。もし主だったライバルを集めて多くの比較をしたとしても、最下位にならないことは保証する。変化の急な現代において、この最新世代のXJがデビューしてすでに9年が経つが、ジャガーは手抜かりなくクルマを進化させており、576psを得たこのクルマも速いこと痛快この上ない。

優れたところは他にもある。このクルマが最新版モデル(後輪駆動車は電動パワステとなった)なのかどうか知らないのだが、今まで運転したことのあるXJよりも一体感と落ち着きが増し、ステアリングも正確になった。このクルマがもうすぐ販売終了になるなんてと心の中で呪っている自分に気づく。もし最初からこうであればもっと売れただろうし、いま販売終了となることもなかっただろう。

このXJの初期モデルも息の長いスーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載していたが、素晴らしいハンドリングは、ラグジュアリーカーとしてはショッキングなほど貧弱な乗り心地と引き換えだった。

しかし、このクルマの乗り心地は素晴らしく、一方でコーナリングも粘り強く、アンダーステアも滅多なことでは顔を見せない。これは伝説のテストドライバーでエンジニア兼開発者である驚異のノーマン・デウィスが、今を遡る1950年代に決定したすべてのジャガーに共通のキャラクターである。

デウィスのXJシリーズ1

そのデウィスのクルマがこれだ。正確には彼の親方のクルマの1台である。セーブルグリーンのシリーズ1 XJ6 4.2で、インテリアはシナモン、製造番号は370だ。新車価格は2258ポンド(32万3000円)。誰あろう、ウイリアム・ライアンズ卿(英国産業への貢献により1956年にナイトに叙せられた)が自分のカンパニーカーに選んだクルマだ。すべて標準仕様でまったくオリジナルのままである。

今日でも1960年代のクルマには見えない。当時、メルセデス・ベンツのような会社はサイドの厚い角ばったクルマを作っていたことを考えると、XJ6は信じられないほどすらりとして美しい。これはウイリアム卿がそのデザインに実際に積極的にかかわった最後のクルマであり、その後のクルマを見れば唯一無二の存在だといっても過言ではないだろう。

面白いことに、ライアンズは「最低7年」市場で生き残るためにはクルマは十分に進歩的で未来的でなければならないと考えていた。実際にはもっとうまくいった。基本的には同じクルマといっていい最後のシリーズ3は、1992年まで生産された。実に24年間である。

当時もさまざまな賞賛を受けた。間違いなく市販車中もっとも美しいセダンであり、乗り心地はロールス・ロイスのシルバー・シャドーを凌駕し、ハンドリングはいくつかの点でEタイプよりも優れていた。ささやきも聞こえるほど静かで、例外的に速く(覇気のない2.8ℓバージョンを選ぶという間違いを犯さない限りだが)、そして当時のジャガーはみなそうだが、例外的に格安だった。

今でも色褪せない乗り味

このクルマは今ドライブしてもなかなか素晴らしい。乗り心地の素晴らしさひとつ取っても、この50年間の進歩がすべて正しかったわけでなないということを雄弁に物語っている。

現代のエアサスペンションのクルマのように、特定のスピードレンジで乗り心地がいいだけではない。駐車場のバンプや高速道路のでこぼこの衝撃も同じようにしっかりと吸収するのだ。そして、リコリッシュの細いハンドルの軽さに慣れて指先でクルマを操縦するようになれば、驚くほど速いクルマでもある。

ターンインではボディがロールするが、そろそろ危ないと感じるようになるとボディの動きはチェックされ、コーナリングは安定してダンロップSPスポーツが許す限りの速さで駆け抜ける。XJ6のサスペンションはこのタイヤ向けに設計されたのだ。

エンジンは1950年代にル・マンで5回優勝したユニットと同じで、ちょっとがっかりする代物だ。車重1500kgちょっとのクルマに248psであり、現代のXEとパワーは同じで車重は少し軽い。XEは0-100km/hを6.5秒で駆け抜けるが、このXJで同じことをするには崖から突き落とすしかない。思うに、このパワーはグロスの値でちょっと誇大表示なのではないか。それに3速ATがかなりパワーをロスしているのではないだろうか。

0-100km/hを4.4秒で加速するXJRのV8にはそのような問題はない。まもなくこのエンジンがなくなるなんて、考えただけでも悲しい。確かに最新のメルセデス-AMGのターボエンジンの持つ暴力的パワーはないかもしれないが、程よく強力なパワーをどの回転域でも遅延なく発生させるエンジンなのだ。

次世代型XJへ

おかしな話だが、古いXJはV8(とV12)を搭載して発売されるはずだった。しかし製造の遅れによりこれがご破算になり、結局V12がXJ12としてデビューすることとなった。計画通りいっていれば、古い直6と同じようにV8はジャガーの技術的アイコンになっていただろう。

共通するものは何か? それは他と違おうとする勇気、態度だけだ。今のXJはデザイン的にクラスの標準に従おうとしないから、欧州のライバルたちと比べいつも端役に甘んじているのだという人も多いだろう。50年前、XJ6に大成功ももたらし、それまでのラインアップが細かく枝分かれしたビジネスを盤石なものにしたのは、まさしくこの他と違うという個性なのだ。

少なくともレイランドがなくなるまでは。しかし、現代のXJが失敗作などではないことは事実だ。今日では違っていることなど誰も望まないからである。それどころか、多くの人は4ドアセダンには見向きもせず、その代わり図体のデカいSUVを買いに行くのだ。1968年にはなかったことである。

わたしは現行型XJの特徴的なエクステリアや素晴らしいキャビンを名残惜しく思うだろう。その優れたバランスやスーパーチャージャー付エンジンも。わたしの考えでは、すべての世代のXJの中でこのクルマが勝てるのは初代のモデルだけだ。疑問の余地はない。

しかしXJの名前が今後も残るというのは朗報だ。後述する話からわかるように、次世代XJはこれまででもっとも野心的なモデルになるかもしれない。わたしにとっては素晴らしいことだ。外観や走りで時代の先を行かないようなXJなど、本当のXJではないのだから。

ジャガーXJ 歴史に残る5台

1972年 XJ12

遅れても出ないよりはずっといい。このXJは1968年に搭載されるはずだった5.3ℓV12を積んでデビューした。最高速は225km/hに届き、当時、世界最速の4シーター4ドアセダンだった。

1975年 XJクーペ

世評によれば、ウイリアム・ライアンズ卿お気に入りのクルマだ。この豪華なクーペは、ブロードスピードのレーシングバージョンとニューアベンジャーズのジョン・スティードによって歴史に名を留めることになった。

1986年 XJ6(XJ40)

XJ初のフルモデルチェンジ。デザイン的にはきちんとした感じになったが、魅力は薄れた。製造品質の問題もあり、AJ6と呼ばれる新型エンジンは個性に乏しい。

1997年 XJ8(X308)

X300の進化形であるこのクルマは、XJ初のV8エンジン搭載車だ。本当は30年前に計画されていたのだが。406psのXJRは美しいが暴れん坊でもある。

2003年 XJ8(X350)

外観からは想像できないが、おそらく最も過激なXJだろう。落ち着いたデザインの裏に隠されたモノコックとボディは総アルミ製だ。今日でもXJのクラスではユニークなデザインである。

XJの電動化の将来

2021年にデビュー予定の新型ジャガーXJは、ポルシェ・パナメーラやメルセデスAMG GT4ドアクーペと同じく、XJ始まって以来初めての5ドアモデルとなる予定だ。だがそれだけではない。ジャガー・ランド・ローバーの次世代PLAモジュラーアーキテクチャを使ったピュアな電動モデルになるのだ。

これは途方もなくエキサイティングな開発である。電動化されたパワートレインは長年にわたり最良のXJの核であったパワーと洗練とをもたらしてくれるからだ。

しかしそれ以上にわたしは、50年を過ぎてもなおXJというクルマが革新し続けていることが好きなのだ。そしてXJが革新を続ける限り、わたしにはXJが100年続かない理由を見つけることができない。

ジャガーV8の終焉

わたしがXJR575に搭載されていた「AJ-V8」エンジンに初めて出会ったのは20年以上前だ。当時の新型ジャガーXK8に搭載されてデビューしたエンジンである。以来このエンジンはスーパーチャージャー付あるいは自然吸気エンジンとして、ランドローバー・ディフェンダーやアストン マーティンV8ヴァンテージなどさまざまなクルマに搭載されてきた。

ジャガーやランドローバー、アストンによってさまざまな改良が施されてきたが、基本デザインは共通で4.0、4.2、4.3、4.7、および5.0ℓの排気量が選択可能だ。パワーは290ps(初代XK8)から600ps(XE SVプロジェクト8)まで。

アストン マーティンのレーシングカーのフロントに搭載されてル・マンで複数回優勝している。他の多くのV8、もっと言えばデトロイト設計のエンジンと同様、このエンジンはとてもフレキシブルだ。

しかしながら、このエンジンは拡大中のインジニウム・ファミリーの直6に置き換えられるようだ。ジャガーには4、6、8、そして12気筒のエンジンがあるが、このブランドですぐ頭に浮かぶのはおそらく直6だろう。これは1949年から1992年までの間、ル・マン優勝車から霊柩車までおよそあらゆるクルマに使われた「XK」6気筒エンジンのおかげである。歴史上もっとも用途の広いエンジンだろう。