ロイターは新しいアプリにおいて、「レス・イズ・モア(less-is-more:より少ないことは、より豊かなこと)」のアプローチを取っている。

5000にも及ぶトピックをカスタマイズして、ユーザーごとにフィードを管理できる、このアプリ。トピックには国、マーケット、そして人などさまざまなな分野が存在している。それぞれの記事は四角いカード型のフォーマットで表示されており、内容の要約も表示。全文を読まずして内容を把握できるわけだ。アプリは各ユーザーの行動に徐々に適応。利用を重ねれば、ユーザーが何時によく記事を読むのか、をアプリが把握して通知を送ってくれる、といった具合だ。

アプリとして成功しているかどうかは、ページビューではなく、月間にどれだけの時間をユーザーがアプリ上で費やすかで測られることになる。読む記事の量が減ったとしても、時間さえ多ければアプリとして成功だと見なされるのだ。

「人々がより良いビジネス上の判断をするための情報を与えること。それが我々の仕事であり、それを達成できるのであれば、ユーザーがコンテンツを5つも消費する必要はない。ページビューの数字に影響は出るだろうが、究極的にはエンゲージメントを改善するだろう」と、ロイターコンシューマー(Reuters Consumer)のマネージングディレクターであるアイザック・ショウマン氏は言う。

新しいアプリの肝



ロイターは毎日、平均して5500本のニュースコンテンツをパブリッシュしている。この膨大な量のコンテンツを読みやすくすることがアプリの目的だ。ユーザーテストでは、73%の回答者が速報ニュースがもっとも重要な機能で、45%が記事のヘッドラインが読みやすいことが重要だと回答した。ショウマン氏によると、ユーザーのセッションはすでに2倍になっており、週間エンゲージメントは18分へと拡大しているという。

経済・情報関連のパブリッシャーであるロイターにとって、この新しいアプリ開発は大きな投資だった。60人ほどのスタッフが12カ月に渡りアプリ開発に携わった。コンテンツストラテジスト、プロダクトスペシャリスト、デベロッパー、営業チーム、と関わった人材も多岐に渡る。アプリのユーザー性質を分析するデータ科学者6人を抱えており、これらの科学者たちをエンジニアたちが支える形だ。エンジニアたちはロイターコンシューマーが制作するプロダクトすべてに関わっているスタッフとなる。

ユーザーごとに対応したカスタマイズは、やり方次第で気持ち悪いと感じられることもある。ユーザーの(アプリ体験における)文脈に沿った広告表示がアプリでは行われるが、エディトリアルのコンテンツが便利である限りはユーザーは気付く可能性は低いだろうと、サイモン・クッチャー・アンド・パートナーズ(Sion-Kucher & Partners)の戦略・マーケティングコンサルタント部門ディレクターを務めるグレッグ・ハーウッド氏は言う。「使い心地が改善された、という感想を持つだろう」。

「ユーザーの習慣となること、そして適切なコンテンツを表示すること、アプリ上でゲームを20分プレイしてもらう、というような滞在方法ではなく2回、3回とアプリを開いてもらうことが重要だ。これまで、アプリでもっとも長い時間を費やすユーザーのコンバージョン率が高いと捉えていた。けれどもただのエンゲージメントではなく、意義のあるエンゲージメントを最大化することでコンバージョンは高められるのだ」と、彼は言う。



滞在時間にフォーカスする、ロイターのアプリ

ターゲットの変更



ロイターが一般的なニュース読者全体ではなく、ビジネスプロフェッショナルへと意図的にフォーカスを移したことも、今回のアプリ開発は示唆している。

「オーディエンス規模を最大化することにパブリッシャーたちは専心してきた。それが広告販売の価値とつながっていたからだ。広告収率が減ってきている環境では、クオリティの高いオーディエンスへとフォーカスが移行してきている。そして広告主たちはそこへマーケティングをかけている」とハーウッド氏は語った。

Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)