日曜劇場『この世界の片隅に』小さな描写にもこだわり抜く現場のウラ側
アニメ映画などに映像化されている120万部突破の人気コミックを初めて連続ドラマにして描く。広島を舞台に戦火を生き抜いた人たちのヒューマン作品。オーディションで選ばれたヒロイン、オリジナル版の見どころや猛暑の撮影現場の舞台裏をプロデューサーが明かした。
3000人から大抜擢
決め手はアンバランスさ
太平洋戦争の戦時下、広島市江波から呉に嫁いだヒロインの日常風景や市井の人々との交流が、史実を交えて丁寧に描かれている。
原作は、こうの史代の同名コミック。過去に単発ドラマ、アニメ映画で映像化された話題作だが、連ドラは今回が初めて。
脚本は『ひよっこ』などの岡田惠和、音楽は民放連ドラは24年ぶりの久石譲、監督は『逃げるは恥だが役に立つ』『コウノドリ』などの土井裕泰が手がける。
「戦争を経験した方が減っていき、どんどん戦争の記憶が薄れていく昨今。私は祖父母が戦争を経験しているので、折に触れて話を聞いていました。体験者の話を直接聞いた最後の世代として、いつか戦争を題材にしたドラマを制作したいと思っていました。原作は広く深く愛されているので、映像化はハードルが高いと感じましたが、思った以上に受け入れられていると感じています」
と、佐野亜裕美プロデューサー。ヒロインのすず役はオーディションを行い、約3000人の中から松本穂香が選ばれた。
「イメージなどのついていない、まっさらな人に演じてほしかったんです。決め手になったのは、松本さんの思わず応援したくなるようなアンバランスさ。原作のすずは芯が強い女性だけど、どこか間の抜けたアンバランスなイメージがあったので、リンクするところがあると感じて松本さんに決めました」(佐野P、以下同)
すずの夫・北條周作は松坂桃李、姑は伊藤蘭、義姉を尾野真千子、奇縁で心を通わせる遊女を二階堂ふみがそれぞれ演じている。
猛暑に冬シーン撮影
撮影の合間も広島弁
撮影は5月初旬にスタート。時間をかけて、丁寧に撮り進んでいる。
「ほぼ初対面で夫婦になったすずと周作が、時間を積み重ねていくなかで感じる日常のかけがえのなさを描いた人間ドラマと同じように、撮影の日数を積み重ねていくことで(キャスト、スタッフの)絆が深まっているようです。
大変なのは冬のシーン。本作は、昭和19年の3月から昭和20年の年末までを描いているので、真夏に外套を着込んだ雪のシーンなどを撮らなければなりません。軍艦大和入港はじめ史実に基づいて物語が進んでいくため、季節に嘘をつけないんです。暑さ対策では、オープンセットにエアコンを設置し、氷水で冷やしたおしぼりで首筋をぬぐったり、休憩を多めに入れたりしながら撮影しています」
松本は役と真摯に向き合い、松坂は撮影の合間もずっと広島弁という。
「できるだけ使って耳になじませようと、広島出身の土井監督やいろんな人に広島弁で話しかけたり、方言指導の方と積極的に読み合わせをしたりしています。今後は空襲のシーンなども登場しますが、戦闘機が爆弾を落としていくのではなく、空から爆弾が落ちてくるというように生きている人の目線を大事に描いています」
第4話(8月5日放送)では、体調不良のすずが妊娠したのではないかといわれ病院へ。喜ぶ一方、すずは周作が前に結婚を考えていた相手の存在が気になってならない。また、義姉が婚家から連れて行くのを拒まれていた長男が北條家を訪ねてきて─。
「戦争というと、とても遠いものと感じがちですが、彼らの日常は、現代に生きる私たちと変わるものではありません。同じようなことで悩んだり、喜んだりしています。
当時は戦争という不条理で日常が奪われましたが、私たちの日常も災害などで失われることはあります。だからこそ、かけがえがないんです。時代が変わっても変わらない、大切なものがあると感じていただければと思います」
■ドラマオリジナルの現代版
2年ぶり同局連ドラにレギュラー出演の榮倉奈々と古舘佑太郎が恋人役に扮した現代版が登場するのは、ドラマのオリジナル。73年前の広島との橋渡しをすることで、戦争や当時の人たちの暮らしが現代と地続きであることを表現している。
「現代版について賛否ありますが、最後には“これを見てよかった”と、原作ファンの方にもお楽しみいただける内容になっていますので、信じて見届けてほしいです」(佐野P)
■戦時中の暮らしをリアルに再現
戦時下での暮らしを描く作品ならではのこだわりも。
「水汲みや風呂の沸かし方など日常生活の小さな描写にもこだわりを持っています。食事は時代考証に基づいて、食べるものがなくなっていくなか、どう工夫して炊事をしていったかを描いていますので注目して見ていただければ」(佐野P)
<作品情報>
日曜劇場『この世界の片隅に』
TBS系 日曜夜9時〜