『あんしんみーちゃん』はコードの先についたマイクを電話機本体のスピーカーにつければすぐに使える

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 静岡県警と玩具メーカーのパートナーズ(本社=東京都新宿区)が共同開発した詐欺電話対策人形、その名も『あんしんみーちゃん』が、オレオレ詐欺撃退にひと役買っている。

【写真】高齢者をそっと見守るみーちゃん

おしゃべりしながら詐欺を撃退

 おさげ髪の6歳の女の子の人形で、電話がかかってくると「お金がすぐに必要って言ってきたら詐欺ですよ」「すぐに信用しちゃだめ、警察に相談してね」など、9種類のメッセージで注意を呼びかける。

 パートナーズが昨年、みーちゃんを設置した約405世帯を対象にアンケートを取ると、詐欺被害はゼロ。オレオレ詐欺の電話だと見破り、被害を防いだケースも14件あった。みーちゃんのメッセージが生かされた結果だ。

 静岡県警の担当者は、

「オレオレ詐欺被害がなくならず悩んでいたところ、日常会話が楽しめる『おしゃべりみーちゃん』という人形をテレビで見た警察官が“変な電話に注意してね”と、人形が高齢者に話しかけてくれれば注意喚起になるんじゃないかと考えたんです」

 静岡県のNPO法人『丸子まちづくり協議会』は、6月1日から地域に『あんしんみーちゃん』の導入を決めた。同協議会の近藤武理事長は、

「“俺は大丈夫”“お金がない”とみなさん言いますが、それでもだまされます。『みーちゃん』のことが地域の話題になればオレオレ詐欺にも関心を持つきっかけになるのでは」と期待する。

 静岡県在住の安間すみ子さん(85)は、1年前からみーちゃんと暮らしている。

「かわいい声がすることで、ひとりじゃないって感じます。私の癒しになっています」

 と、すっかりメロメロ。

 電話の横にちょこんと座り、高齢者を守るキュートな存在。安間さん以外の利用者からも「孫から注意されているような気がする」「家族が1人増えた」などの反響があった。

 警察庁によると、今年1〜3月末までで全国で約45億円のオレオレ詐欺の被害が出ている。昨年は174件、2億7000万円以上の特殊詐欺被害(架空請求なども含む)が出たという東京・杉並区。警視庁高井戸署管内での、みーちゃんの配布を決めた。

 同署の担当者は、

「高齢者の世帯が増え、高額所得者が住んでいる地域もある。しかし、ご近所付き合いがなくて、相談する相手がいない人も少なくありません」

 と、高齢化する地域の特殊性を、配布の理由にあげる。

 しかし、人形に詐欺を未然に防ぐ力など本当にあるのか。

精神安定剤としての役割も

 敦賀市立看護大学で人形療法を研究する畑野相子教授は、

「人形を抱きしめたり、撫でることで癒し効果のある脳内物質が分泌されると推測します。そして目が合うことで“この子は私を見てくれる”と思うようになります。名前をつけると愛着が生まれ、特別な存在に変わります」

 と、説明する。

 温かみのある人形と接することで精神的な安定が得られ、いたずらに動揺しにくくなる。自分を心配してくれる存在から声をかけられることは、身内から注意されるのと同じような心境になるという。

 オレオレ詐欺を未然に防ぐのは、みーちゃんだけではない。

詐欺撃退アイテム、進化中 

 長野県長水防犯協会連合会は、詐欺撃退アイテム『詐欺バスター』を開発した。ボタンを押すと“家族に相談してからかけなおします”という声やパトカーのサイレン、ほら貝の音色などの12種類の音やメッセージが流れる。

 とっさのときにボタンを選ぶ必要はなく、相手のペースにのまれてなかなか電話が切れない高齢者は適当にエイッとボタンを押すだけでいい。

 一般社団法人『シニア消費者見守り倶楽部』(神奈川県相模原市)の岩田美奈子代表理事は、

「電話がかかってきたとき“この電話は録音されています”というメッセージが流れる機械の貸し出しなどを行っています。70〜80代の利用者にアンケートを取ったところ、設置後は勧誘の電話などがかかってこなくなったと、100%の人が答えました」

 みーちゃんもランドセル(別売り)の中に警告音を流せる録音機を背負っている。

 録音の効果については、立正大学心理学部の西田公昭教授も太鼓判を押す。

「犯人は録音されることを嫌がりますし『この電話は録音されています』という装置を導入していると、この家は防犯意識が高いぞ、とアピールにつながります」

 ただし、みーちゃんの機能については注文をつける。

「声かけそのものは悪くありませんが、単純すぎるのはよくない。単純な声かけの繰り返しは、すぐに風景と化してしまいます」(前出・西田教授)

 高齢者が集まる東京・巣鴨の地蔵通りでもみーちゃんについて聞いた。

「いつも詐欺について気にしているわけではないので、電話のたびに教えてくれるのはいいことだと思います」(80歳主婦)という声の一方、「自分のような男ひとりの家にぬいぐるみはいらない」(68歳男性)という声も。

 パートナーズの盛田愼二代表取締役はこうすすめる。

「ボタンもなし、シンプルであえてローテクで作っています。息子さんや娘さんが親にプレゼントすることが多い。安心のプレゼントです」