尾上右近、うさぎを飼うも「僕が近づくと命の危険を感じるみたいで…」
現代劇に挑戦したい
気持ちが強くなって
昨年、スーパー歌舞伎II『ワンピース』でケガで降板した市川猿之助さんに代わって、主役のルフィを務めあげ注目を集めた尾上右近さん。人気上昇中の歌舞伎界の新鋭が、翻訳現代劇の舞台に初挑戦する。
その注目作は、’12 年にピュリッツァー賞戯曲部門賞を受賞した『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル〜スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ〜』。G2による翻訳・演出で7月に日本初上演となる。現代劇に挑戦したかったという右近さんに、熱い思いを聞いた。
「いずれ出させていただきたいなとは、ずっと思っていたんです。『ワンピース』や新作ものに出演させていただいたことで、テレビに出させていただく機会もぼちぼち増えて、歌舞伎以外の世界に触れるなかで、いろいろな要素が今後、必要になっていくと感じて。自分の引き出しを増やしていくことも考えたうえで、現代劇に挑戦したいという思いが強くなっていた矢先に、この機会をいただいて渡りに船でした」
インターネット時代におけるドラッグの問題を扱った社会派の人間ドラマ。右近さんは台本を読んで「劇的じゃない劇」だと思ったという。
「激しく起承転結があるわけではなく、日常がそのまま劇化されたような作品という印象を受けました。薬物の問題や戦争の問題など、現代アメリカの問題を抱えながら向き合っていく人々の話で、すごくリアルな演劇だなと思いましたね。翻訳劇ですから日本人の話じゃないけど、自分が共感できるっていうのは、演劇って人の心について共感したり考え直したりとか、そういうものなんだなというのを実感しました。いつの時代になっても、人の心のつながりが人を支えていくっていうことこそが、何よりこの作品のいちばんの見どころだと思いますね。初現代劇として挑戦しがいがあります」
右近さん演じる主人公エリオットは、幼いころに実母からネグレクトを受けて育ったトラウマを持ち、成長してイラク戦争に参加したときに負った負傷が原因で、モルヒネ中毒になった過去を持つ青年。
「僕と同い年の25歳なんですけど、なんか大人な部分と子どもな部分のバランスの悪さみたいなものを感じます。あまり自分のことを話さず、問題を表に出さないで抱えて生きているところは大人だけど、母親に対する当てつけのような態度や従姉にはすごく甘えるところは子どもで。僕も歌舞伎という世界の中ですごく大人になっている部分もあると思いますけど、それだけをやってきたから社会的な常識に欠ける部分もあるし、偏っているなと自分でも感じる部分はたくさんあるので。つい甘えちゃうんで、そこは共感する(笑)」
鎧がない状態だから
怖さもすごくある
現代劇出演で楽しみなことは?
「すべてが素に近い状態でお芝居するという経験が、まず単純だけどいちばん楽しみかな。でも怖さも同じくらいありますけどね。(市川)猿之助さんからも“帰りたくなると思うよ”と言われました(笑)。歌舞伎はカツラや衣裳やお化粧でまったく違う人物になれますので。その鎧がない状態でいくのは、自分の中では逃げ場のない状況だから、それを経験したあとの自分が楽しみですね」
歌舞伎では女形を演じることも多い右近さんだが、今作でエリオットの実母を演じる篠井英介さんは、以前から尊敬する存在だそう。
「すごく好きな俳優さんです。現代劇の俳優さんが女形で自分のお母さん演じられるっていうのが、すごく不思議な感じですけど、歌舞伎をやっている身としては、ある意味、助かるなっていう感覚もあります。
初めてのことだから何しろ不安だし、周りの助けを必要としていますので、力強い心強い共演者に恵まれてよかったなと思ってます」
友達とも半年以上会っておらず、「夢の中でも芝居の話をしている」という仕事漬けな日々の癒しを聞いてみると、右近さんのおちゃめな素顔が発覚。
「この間、久しぶりに丸1日休みになったので、マザー牧場に行ったんですね。自然と動物にふれあいたくて。そこの子ヤギがすごくかわいくて、テンション上がりました(笑)。マザー牧場では羊のほうが圧倒的に人気なんで、ヤギに餌をくれる人の比率が低いんですよ。そのぶん、懐き方のポテンシャルが高いんで。ヤギとのふれあいが最近ではいちばん楽しかったことですね(笑)。
実は、自宅でうさぎを飼っているんですけど、僕だけふれあえないんですよ。ピーターラビットのモデルになってるドワーフって種類の女の子で名前はルビーっていいます。見てるともうかわいくて少しでもいいからふれあいたいんですけど。最初にふれあいたがりすぎたのがいけなかったようで、僕が近づくと命の危険を感じるみたいで、1度声を出して鳴かれたこともあって。両親と兄にはすごく懐いているんですよ。兄貴なんて一緒に寝てますからね。うらやましいけど、遠く及ばない。ヤギには大人気でしたから、いっそヤギを飼えばいいのかな〜(笑)」
では、最後に読者にメッセージをお願いします。
「等身大のエリオットを等身大の僕自身が、全身全霊で演じるところを、どうか見届けに来ていただきたいと思っています」
<出演情報>
『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル 〜スプーン一杯の水、それは一歩を踏み出すための人生のレシピ〜』
なぜ人は薬物に救いを求めてしまったのか、彼らが求めていたものは本当は何なのか……。バーチャルな空間で出会った、さまざまな問題を抱えた人たちが、サイトを通じて心を通わせながら、それぞれが自分の人生を取り戻していく愛と希望の物語。7月6日(金)〜7月22日(日)@紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA ほか大阪公演あり
【公式サイト】http://www.parco-play.com/
プロフィール◎1992年5月28日生まれ。東京都出身。歌舞伎役者。江戸浄瑠璃清元宗家七代目清元延寿太夫の次男。自身も今年1月に浄瑠璃方の名跡「七代目清元栄寿太夫」を襲名。踊りに定評のある歌舞伎界の新鋭。8月26日〜8月27日に尾上右近自主公演 第四回「研の會」開催。