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舞台の出演依頼を受けて浮かれていたところ、プロデューサーから「チケットノルマとして3500円のチケット20枚分、合計7万円を先に払って」と電話があったーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに「こんな大金を一度に用意できないので困っている」と相談が寄せられた。

このノルマを達成できなかった場合には、売れ残った分のチケット代金を出演者が負担させられるという。まだ契約を交わす前で、出演者と制作側との間にチケットノルマについての明確な取り決めもないが、なかなか断りづらいようだ。

相談者は、ノルマ分のチケット代金を負担しなければいけないのか。田村ゆかり弁護士に聞いた。

●請負契約と買取条項がセットになっているのか、確認しよう

「まず、舞台に出演するということの法律関係を考えてみましょう。出演者は舞台に出演する義務を負い、これに対して主催者は報酬を支払う義務を負う請負契約だといえます。要式の定めはありませんので、契約書を作成せず口頭だけでも契約は成立します。

次にチケットノルマの法律関係を考えてみましょう。出演者は7万円支払ってチケット20枚を受け取るという売買契約と言えます。同じく要式の定めはありませんので、契約書を作成せず口頭だけでも契約は成立します」

今回のケースについてはどう考えればいいのか。

「現在、プロデューサーからは、チケット買取りについての条項を付加した請負契約の申込みがある状態だと言えます。

問題となるのは、請負契約と買取条項との関係です。買取条項とセットでなければ請負契約も締結されない、つまりチケットノルマを果たさないと出演依頼自体がなくなるものなのか、そうでないのかです。

この点、チケットの買取りを求めてきたプロデューサー以外の主催者に確認したいところです。できればチケットの買取りをしてもらいたい程度で、しなくても出演依頼はされるのであれば、それがベストです。

なお、法律的には、出演者は『消費者』、主催者は『事業者』と言えるため、『消費者の利益を一方的に害する条項であり無効である』(消費者契約法第10条)という争い方が可能ではないかと思います。強く出ることでチケット買取りの提案を撤回しそうであれば、このような交渉もいいのではないでしょうか」

●それでも主催者が主張を変えない場合の対応

もし、チケットの買取りをしないと出演依頼を撤回すると主催者が言い切った場合はどうすればいいのか。

「それでも出演するか否かを判断することになるでしょう。出演料の金額もこの判断に必要な材料かと思います。そして、チケットの買取りをしてでも出演したいという場合には、次善の策として買取枚数を20枚から10枚にできないか、代金支払時期を後ろにずらせないか等の交渉が考えられます。

さらに、出演後にチケットの売れ残りが出た場合には、チケット買取条項は消費者契約法第10条の規定に反して無効であるため、売れ残りのチケットを返還するので代金を支払うように請求することが考えられます。

いずれにせよ、相談者としては、主催者側との今後の付き合いも視野に入れつつ、しかし過度な負担には応じられないという繊細な交渉が必要になるかと思います。一度お近くの弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
田村 ゆかり(たむら・ゆかり)弁護士
沖縄県那覇市において、でいご法律事務所を運営。平成26年度沖縄弁護士会理事。平成25・26・29年度沖縄県包括外部監査補助者。経営革新等支援機関
事務所名:でいご法律事務所
事務所URL:http://www.deigo-law.com/