積水ハウスが地面師にだまされた舞台となった東京・西五反田の旅館「海喜館」。株主総会では詐欺事件に関する質問も飛び出た(記者撮影)

「(マンション分譲用地取引の詐欺被害に関し)会社を代表して私よりお詫び申し上げます」。お詫びの言葉を阿部俊則会長が口にすると、すかさず会場から「お詫びは冒頭にするもんや」「最初に謝れ」「あんた現場を見に行ったらしいじゃないか」などと厳しいヤジがとんだ。

過去最長となった今年の総会

東京・西五反田の土地取引に絡んだ詐欺問題や和田勇前会長の退任などをめぐる問題で、昨年から世間を騒がせてきた積水ハウスが4月26日、大阪市内の高級ホテルで定時株主総会を開催した。

午前10時から始まった総会が終わったのは12時1分で、所要時間は2時間程度。昨年の定時総会が1時間17分であり、近年は1時間30分もかからず終了していたことからすると、今回の総会は長丁場となった。同社広報によれば、会社法が改正されてからは最も長い総会だったという。

一方、出席した株主数は1326人と、前年に比べ280人も少なかった。長時間の総会とはなったものの、個人株主の関心は低かったようだ。

それではなぜ冒頭のように阿部会長はやじられたのか。それは総会が監査役による監査報告の読み上げから淡々と始まり、阿部会長がメッセージを伝えたのが、総会が始まって30分も経過してからだったからだ。


大阪市の高級ホテルで開催された株主総会。会場の前には多くの報道陣が駆けつけた(記者撮影)

その後、ほどなくして始まった質疑応答では、述べ18人の株主が質問に立った。1人で複数の質問をする株主をいたため、20数個の質問と6〜7の意見が寄せられたという。

「私たちは何の不満もないから」と総会の感想を語ってくれない人が多い中、大阪市内から参加したという30代会社員の山本さん(仮名)は、召集通知書にびっしりと書き込んだ詳細なメモを見ながら、総会の内容を教えてくれた。

詐欺事件に対する株主の反応

山本さんによれば、目立ったのは詐欺事件にかかわることだったという。たとえば、「55億円の特損を計上したが、これを発行済み株式数で割れば1株あたり9円の増配ができたはず」であるとか、「これだけの損害を与えておいて前年と同じ役員報酬を受けるのは納得できない。カットするのが当然」という厳しい意見が耳に残ったという。

また、数人が和田相談役の取締役退任に関して、「阿部現会長を社長に引き上げたのは和田相談役。和田さんを辞めさせるのは裏切りだ」「解任された格好になっており、世代交代を進めるためという理由では納得できない」という意見も出ていたという。

ただ、冷静にメモを読み返してみると、実は詐欺事件に関する質問は半分にも満たず、取締役選任に関する質疑もほとんど出ていない。

最初は顔がややこわばって見えたという和田相談役。だが、株主優待のおコメの量をもっと増やしてくれと訴える株主がいたようで、繰り返し同じことを訴えるその様子に、和田相談役の顔にも笑みがこぼれる場面があったそうだ。

和気あいあいとした雰囲気だった

今回の株主総会に先立ち、議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、積水ハウスの取締役選任議案について反対を推奨。阿部会長と稲垣士郎副会長の選任を問題視していた。ISSは役員賞与支給の議案も支持しないと表明していたこともあって、波乱の株主総会になるのではないかとの憶測も流れていた。


今回の株主総会に先立ち、議決権行使助言会社からは阿部俊則会長の取締役選任について反対が推奨されていた(写真は2016年11月のもの、撮影:今井康一)

だが、ふたを開けて見れば機関投資家など大口株主の意向を反映し、すべての議案がすんなりと可決された。株主代表訴訟に関する意見や質問も出ることはなく、何らかの株主提案が提起されることもなかった。

山本さんによれば、議場内は積水ハウスOBと思われる株主が多く、半ばOB会の様相を呈していたという。それだけに5〜6個のかなり厳しい質問を除くと、「一種、和気あいあいとした雰囲気が漂い、何か不穏なことが起きる要素はかけらも感じられなかった」(山本さん)。

積水ハウスは現在、5期連続で最高純益を更新するなど、業績は好調を維持している。株価は2018年1月に2000円台を割り込んだとはいうものの、2000年以降でみると高値圏内に踏みとどまっている。配当も連続で積み増すなど株主にとっては居心地のよい状況だ。こうした背景がなければ、もっと荒れた株主総会になっていたかもしれない。