パンドラの箱を開いたFacebook、閉めるのに悪戦苦闘:「問題のユーザーデータは消えたわけではない」
Facebookではその昔、ユーザーが外部企業への共有に直接同意しているかどうかに関係なく、ケンブリッジ・アナリティカ(Cambridge Analytica)のような企業が、ユーザーのフルネーム、誕生日、信仰している宗教、政治観、職歴などの情報を入手できていた。ケンブリッジ・アナリティカが不正に入手した5000万人を超えるFacebookユーザーデータの山に、こうしたデータが何種類含まれているのかは、はっきりしない。その件について、Facebookにコメントを求めたが、締め切りまでに回答はなかった。しかし、Facebookが開発者に提供していた、ケンブリッジ・アナリティカが入手したデータの収集に使われた各ツールのドキュメントによると、Facebookを通じて企業がそうした個人情報を簡単に集められたことは、はっきりしている。Facebookは外部からのユーザー情報へのアクセスを禁止することにしたが、これまで提供されていたデータはまだ存在している可能性があり、その価値はむしろ禁止によって高まっている。「データの大半をまだそのままにしている人たちがいる」と、コロンビア大学のトウ・センター・フォー・デジタルジャーナリズム(Tow Center for Digital Journalism)のリサーチディレクター、ジョナサン・オルブライト氏はいう。「データが消えたわけではないのだ」
Facebookが開発者にアクセスを許可していたこうしたデータは、信用調査会社などが収集して広告ターゲティングに使えるようにしているデータと、さまざまな点で似ている。たとえば、データプロバイダであるエクスペリアン(Experian)のマーケティング部門は、政治観、年齢層、教育レベルなどでグループ化したオーディエンスセグメントをブランドに提供している。ただ、ひとつ大きな違いがある。こうした会社が提供するデータは、ブランドがアクセスする前の段階で集計され匿名化されているのだ。一方、FacebookがGraph APIでアクセス可能にしていたデータは、そうはなっていなかった。あるエージェンシー幹部は、「個人に直結するレベル(の個人情報)のアクセスは、エージェンシー内でも求めない」と語った。Facebookは2013年6月までに、本人の友達の情報を外部の者がとても簡単に入手できるようにした。開発者が情報を入手できるのは本人の友達までで、友達の友達はできないということが、制限として挙げられたほどだ。Facebook開発者向けYouTubeチャンネルに2013年6月にアップロードされた動画では、プロダクトマネージャーだったサイモン・クロス氏が、「アクセス可能な、現行ユーザーの友達に関するデータはとても限られている。たとえば、友達の友達までは行けない」と語っている。この動画では、開発者のアプリやサイトにFacebookアカウントを使ってサインインした本人だけでなく、その友達についても、Graph APIを使えばFacebookのプロフィールの情報を引き出せることが説明されている。Facebookは、この動画のアップロードから1年足らずで、ユーザーの友達に関するアクセス可能な情報の量を制限することに決めた。ユーザーのプライバシー保護の不履行を巡る連邦取引委員会(FTC)との和解から3年後だ。2015年4月30日からは、アプリやサイトにFacebookでサインインしても、本人の友達のリストがデフォルトで開発者に渡ることがないようになった。サインインした当人が友達リストへのアクセス許可をアプリやサイトに与えることに同意した場合も、アプリが収集できるのは、名前や性別といった友達の公開プロフィール情報のみになった。
いかにFacebookのユーザーデータにアクセスできたか
2010年4月、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOが発表した「Graph API(グラフAPI)」。開発者がFacebookからデータを受け取り、自分のアプリやサイトに組み込むためのツールだ。たとえば、音楽レコメンデーションサービスのパンドラ(Pandora)では、Facebookのアカウントを使ってサインインすることで、友達たちの音楽の関心にもとづいたおすすめを受け取ることができた。しかし、Facebookは、パンドラなどにユーザーデータを開放することで、人々の個人情報というパンドラの箱も開いていた。コーディングのノウハウが少しあれば、アプリやサイトを運営することで、誰もがユーザー本人とその友達のFacebookプロフィールからのデータを収集できる状態が、約5年にわたり続いていた。アプリまたはサイトにFacebookアカウントでサインインをした人の、本人のフルネームや性別といった個人情報に加えて、Facebook上の友達のフルネームと性別がアプリまたはサイトの手にわたるように、デフォルト設定されていた。さらに、本人のメールアドレスや関係性の詳細のほか、その友達たちの誕生日や政治観といった情報も、アプリやサイトは要求できた。この情報提供に同意しなければ、アプリやサイトのログインや利用はできなかった。これでは、バーに入るのに運転免許証を見せる際に、友達全員の名前と性別のリストがそのバーに渡るようなものだ。さらに、友達の誕生日、職場、政治観、出生地といった情報をバーは要求できる。こうした情報共有を断ることはできるが、そうするとバーに入る許可が出ない。Facebookがアクセス可能にしていたデータ
次のふたつの画像には、開発者がアカウントにサインインする人に要求できた、名前や性別といった公開プロフィール情報以外のFacebook情報が並んでいる。最初の画像は、YouTubeのFacebook Developersチャンネルへ2013年6月にアップロードされた動画、ふたつ目の画像は、オライリー・メディア(O’Reilly Media)が2013年10月に発行した書籍『Mining the Social Web, 2nd Edition』(邦訳『入門 ソーシャルデータ 第2版』)から引用している。Source: YouTube/Facebook Developers
Source: Safari Books Onlin