最近、全国の経営者を集め、3日間かけて「人手不足問題」について話し合う機会を持った。結果、地方を中心にわが国の人手不足が、本当に洒落にならない状況になっていることが理解できた。
 特に失業率が「完全雇用」に達している島根県の状況は、まるで「違う世界」のようだ。島根県の2017年第3四半期の失業率は、モデル推計値で1.1%(!)。1.1%という失業率は、高度成長期を上回るほどの、完全雇用状態を意味する。

 筆者が日本の人口構造の変化を受け、
 「生産年齢人口比率が継続的に下がっている以上、今後、日本の人手不足は“毎年、深刻化”するという状況になるのでは?」
 と考え始めたのが'13年頃になる。'11年の東日本大震災をきっかけに、デフレという「人手過剰」に苦しめられてきたわが国において、建設現場を皮切りに、次第に人手不足が深刻化していった。

 筆者が「人手不足問題」に気付いたのと同じ頃、超大手企業T社が、愛知県のみならず、岐阜県や三重県まで手を伸ばし、若者を「青田買い」しているという話を耳にした。さらに群馬県太田市では、地元の巨大企業F社が高校生をやはり軒並み「青田買い」していた。当時は、中小企業に人が来ないとの嘆きを、経営者たちから聞かされたものだ。山形県米沢市では、
 「三橋さん、募集をかけてもヒトが来ないんじゃない。ヒトがいないのです」
 と、人手不足の現実を知らされ、愕然とした。

 岐阜県では、今や行政(市役所など)と中小企業が、人材の奪い合いをしているという凄惨な話も知った。
 '18年2月20日、あまりのヒト不足に耐えかねた岐阜県の経済同友会が、知事に対策を求めるとの報道が流れた。具体的には、若者が他県(愛知県など)の企業に流出してしまう現実を受け、小学生や中学生、高校生が地元の企業を見学する機会を増やす、あるいは生産性向上の投資を進めることを盛り込んだ提言を、古田知事に提出するとのことである。
 最近では、高崎の講演の際に、中小企業の新卒に対する有効求人倍率が、何と「6倍」に達していることを知り、驚愕した。有効求人倍率6倍ということは、中小企業で新卒を採用できるのは、6社に1社ということになる。もはや中小企業は新卒を「採用できない」と考えるべきなのだろう。

 相対的に見ると日本の人手不足は、地方の方が深刻な状況に陥っている。何しろ地方は少子高齢化で生産年齢人口比率が低下していることに加え、都市部(主に東京圏、名古屋圏、大阪圏、福岡圏)に若者が流出してしまうのだ。
 最も人口は流出しているが故に、日本で最初に「完全雇用」に達したのが、島根県というわけだ。島根県は、日本で最も人口が流出している県の一つになる。とはいえ、それは「悪いこと」なのか。ただし、島根県など人口流出県から東京などに向かう人口は「若年層」なのである。少子高齢化、若年層流出により、島根県は若い生産者が極端に不足する状況に陥った。
 分かりやすく書くと、いわゆる「担い手」が減っているのだ。とはいえ、高齢化の影響で、需要、仕事が大きく減ったわけではない。高齢者は島根県に残るため、各種サービスの需要は、それなりに存在し続ける。とはいえ、需要を満たすためのサービスを生産する担い手は減った。結果、島根県は総需要が供給能力を大きく上回ることとなった。厳密には、総需要も減っているわけだが、それ以上に供給能力の縮小が激しかったわけである。
 需要と供給能力のバランスが「逆転」した結果、島根県は完全雇用に至った。島根県では、もはや「地元で新たに雇用する」など全く不可能で、高卒で働く若者が「金の卵」と呼ばれている状況なのだ。本来、金の卵とは未成熟ではあるものの、高い潜在的能力が見込めるものへの比喩表現だ。もっとも、現在の日本では単純に「大変、貴重な存在」というニュアンスで使われているように思える。