日本国内でネット関連企業と大手スーパーなどが相次いで提携し、困難とされてきた生鮮食料品分野も含めてのネット通販が活発化し始めた。その背景には、ネット通販大手のアマゾンの大攻勢がある。これに対抗し、ソフトバンク、ヤフー、イオンの3社共同で通販事業に乗り出す計画を検討するという。
 「ソフトバンク、ヤフーという国内IT業界のトップランナー2社の顧客の動向やデータ分析を活かし、イオンの店舗、流通網を駆使して、お茶の間で手軽にモノや食べ物を提供するというもの。ソフトバンクやイオンがこうした動きに出たのは、『アマゾンフレッシュ』に対抗するためです」(経営コンサルタント)

 『アマゾンフレッシュ』とは、昨年春からアマゾンジャパンが始めた生鮮食料品の宅配業務だ。
 「米アマゾンでは2007年に生鮮宅配を試験的に開始し、'13年から本格的にスタートした。昨年は、その品質とスピードを上げるため、米8位の高級食料品スーパー、ホールフーズを1兆5000億円を投じて買収し、生鮮食料品販売にさらに大きく比重をかけだした。同時に、日本でも生鮮分野は商売になると見込み、サービスを開始したのです」(同)

 『アマゾンフレッシュ』のサービス範囲は、現時点ではまだ都内一部と関東の一部に限られている。また、会費月額500円で、1回の利用トータル金額が6000円以下では配達料に500円かかるなど、決して安くはない。
 「それでも利用者はジワジワと伸びているという。理由は、野菜、果物、鮮魚、精肉、乳製品といった品数1万7000点以上という豊富さにある。質のよさとスマホで簡単に注文できる手軽さが、共働き世代を中心に受けているようです。当然、生鮮を利用すれば他の商品もアマゾンで購入するという相乗効果も期待できる」(商業専門誌記者)

 この動きに危機感を抱いたのが、年間8兆円の営業利益を誇り625店舗、274モールを持つ国内最大級の総合スーパー、イオンだ。
 「昨年12月、イオンの岡田元也社長は、今後の中期経営計画会見で'20年度の営業利益目標を10兆円としたが、それを達成させるためにはアマゾンの伸びにストップをかけることが必至。そのため、今後3年間でIT、デジタル、物流分野に、新たに5000億円を投入すると宣言したのです」(前出・経営コンサルタント)

 その延長が、今回明らかになったソフトバンクなどとの連携話だ。ただ、アマゾンの攻勢に戦々恐々とするのは、イオンだけではない。
 「セブン&アイHDとアスクルは、昨年7月に業務提携し、11月からネット通販の『IYフレッシュ』を開始。アスクルが持つ通販サイト『LOHACO』とセブン&アイHDの生鮮食品通販サイトをドッキングさせ、'20年秋頃までに首都圏全体にサービス網を広げる計画を打ち出している」(同)

 加えて、ネット通販の雄、楽天も、生鮮食品やモノ通販にさらに力を入れ始めている。1月26日には、西友の親会社である米ウォルマート・ストアーズ・インクと提携し、今年夏頃には『楽天西友ネットスーパー』を立ち上げるという。
 「楽天は日本のEC(電子商取引)市場のシェアではトップ企業だったのですが、一昨年、わずかながらアマゾンに首位の座を奪われたのです」(同)

 楽天の収益のベースはECと金融。特に9300万人の会員を抱えるEC市場は屋台骨だが、このままいけばそれがアマゾンによって完全に駆逐される可能性さえ指摘されている。
 「その危機感が、昨今の楽天の国内携帯事業への本格的参入や、野村HD系列の朝日火災海上保険買収、大手家電量販店ビックカメラとの家電通販など、次々に発表する事業展開にも表れている」(経済紙記者)

 また、EC関係者はこう言う。
 「確かに生鮮食料品に一定数の需要はあるものの、日本はまだ、“生モノぐらいは自分の目や手で確かめて購入したい”という客が大半を占めている。各種市場調査でも、“ネットでも可”というのはまだ1〜2割程度。それでも各社力を入れるのは、間近に迫る超高齢化社会へ向けての市場拡大があるからです」

 そうした中、ネットではないリアル市場で手をこまねいていると、アマゾンに総取りされるという危機意識があるためだ。
 「ソフトバンク、ヤフー、イオンの提携話については、それぞれがアマゾンに出遅れたことによる苦肉の策とも取れるが、ビッグデータやAIを駆使することで相乗効果が生まれる可能性はある。ただしアマゾンは、ホールフーズを買収したように、ここへ来て実店舗にも力を入れ始めている。今後はこの逆張りへの対応も考えなければならない」(前出・経済紙記者)

 アマゾン包囲網はどこまで効果があるのか。