上場を狙うDropboxの価値とは?
2018年2月26日にクラウドストレージのDropboxが、サービス開始から10年を目前に米国証券取引委員会(SEC)にForm S1(上場申請書)を提出し、IPO(新規株式公開)の準備にとりかかりました。サービス設立当初からDropboxの潜在能力を高く評価してきたStratecheryのベン・トンプソン氏が、ライバルサービスのBoxと比較しつつ、上場目前のDropboxの価値を分析しています。
FORM S-1 Dropbox, Inc.
The Dropbox Comp - Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2018/the-dropbox-comp/
DropboxはライバルのBoxと常に比較されてきましたが、それは両社のコアなサービスが「クラウドストレージ」という同じ内容であることだとのこと。ただし、同じサービスでありながら比較される両社は常に異なるビジネススタイルが多くある点も強調されてきました。
一つの大きな違いは、Boxは初期から企業向けのビジネスであり、Dropboxは一般消費者向けのサービスであるという点。2014年の時点で「BATTLE OF THE BOX」という記事の中でトンプソン氏は、消費者はゲームアプリ内の課金コンテンツ以外でソフトウェアに金を使うのを望まないため、Dropboxは企業をターゲットにする必要性があると指摘し、当時はBoxに投資するのが賢明だと結論づけました。Dropboxによると、1100万人の有料ユーザーがいるなかで、ビジネスプランのユーザーの実に80%が有料会員だとのこと。4年の間にDropboxは見事に戦略を修正したというわけです。
しかし、5億人という圧倒的なユーザーを抱えるまで成長したDropboxとはいえ、有料利用者は全体の2%にとどまっており、ユーザー数は5700万人とDropboxより小規模なBoxは全体の17%が有料会員であることと比べると、有料ユーザーが少ないという特徴はあいかわらずのようです。これらの違いは、「誰にどのようにサービスを売るのか」という戦略において、大きな違いとして反映されるとトンプソン氏は述べています。
Boxは販売拠点を利用して大企業に営業をかけるという伝統的な方法で、無料アカウントは有料アカウントに引き継がせるための一時的な利用や「お試ためし」として位置づけられています。これに対してDropboxの場合、「セルフサービス」が最も重要な販売チャンネルになっているとのこと。Dropboxは、アプリやウェブサイトを通じて無料で利用するユーザーが、自分の意志で有料会員になるというパターンが圧倒的に多いことを誇っています。両社のアプローチの違いは、顧客獲得に必要なコストに反映されており、2017年第3四半期にBoxは8170万ドル、Dropboxは7470万ドルのマーケティング費用を支出しましたが、この金額はBoxの収益の63%を占めるのに対して、Dropboxの収益の26%しか占めていないという事実に反映されています。
以下のグラフは、無料会員として登録したユーザーが、有料会員になるまでにかかった時間(月)を示すもの。2015年1月に登録したユーザーを示す青色のグラフをみると、1カ月後に有料会員になった人数の2倍の有料会員を獲得したのは27カ月目であることがわかります。これに対して、2017年1月に登録したユーザーを示す緑色のグラフをみると、10カ月足らずで2倍の有料会員を獲得するのに成功しており、Dropboxの有料会員獲得のペースが年々上昇していることがよく分かります。
売上に占める利用開始時期別ユーザーの割合を示すグラフは、すべての層が右に向かって広がっており、古参ユーザーが離脱せず、着実に売上に寄与していることを示しています。
ただし、トンプソン氏は、5億人のユーザーの大多数が潜在的な顧客(有料会員)という点を評価しつつも、有料会員の割合は時間の経過によってもほとんど変化していない点について指摘しています。さらに、有料会員になったユーザーに、より多くのサービスを提供してより多くの対価を得る方法を開発できていない点も指摘しています。Dropboxが勝負するデータ保存の世界は10年前と変わらず大切で、それは今後も変わることがないとトンプソン氏は述べつつも、Amazon、Microsoft、Slack、Googleのようなエンタープライズコンピューティングの未来をコントロールし得る立場にはないと見ているようです。