かつて高性能をうたうクルマのボンネットにはよく穴が空いていましたが、2018年現在、国産車ではスバルのクルマくらいにしか見られません。あの穴はそもそもなにで、そしてなぜスバル車には空いているのでしょうか。

ボンネットの穴、そもそもなんなのか?

 高性能なスバル車の特徴のひとつとして、ボンネットに設けられたダクトを思い浮かべる人も多いはず。もちろん、これは単なる飾りではなく、エアインテーク(空気取り入れ口)として大切な役割を担っています。


2017年7月にマイナーチェンジしたスバル「レヴォーグ」のフロントマスク。ボンネットに穴が見える(画像:スバル)。

 取り入れられた空気は、エンジン上部に収められた空冷式インタークーラーへと導かれ、インタークーラー内部を通り抜ける「ターボチャージャーに加圧された空気」を冷やし、エンジンに送ることで、エンジンの出力向上と燃料効率を高めてくれます。このため、スバル車でも高性能なターボ車にしか、ボンネット上のダクトは存在しません。

 たしか、昔はほかのメーカーのクルマにもダクトがあったと思われた方もいるはず。確かに、WRCなどのラリーで活躍した、5代目と6代目の「セリカGT-FOUR」などは、横置きの直列4気筒ターボエンジンを搭載していますが、同様にボンネットにダクトが存在しました。これは、スバル車同様に、空冷式インタークーラーをエンジン上部に備えていたため。しかし、近年の他社のターボ車は、もちろんインタークーラーを備えているものの、ボンネットに穴はまず見られません。これは整備性の向上や設計思想の変化などにより、インタークーラーがエンジン前方に設置されるようになったことがあります。

 ではなぜ、スバル車はインタークーラーがエンジンの上なのか。その秘密は、スバル車の特徴のひとつである水平対向エンジンが関係しています。

水平対向エンジンゆえの理由とは?

 通常のレシプロエンジンは、縦方向にピストンが配置され、上下に運動をします。一方、水平対向エンジンは、ピストンが水平方向に向かい合うように配置され、左右方向に運動します。構造的には、左右対称に近い。このため、エンジンサイズが、通常のエンジンに比べ、横幅は広くなるものの、高さや全長を抑えてコンパクトに作れるのがメリットとなります。


2017年7月にマイナーチェンジした「WRX S4」のエンジンイメージ。上部にインタークーラーが見える(画像:スバル)。

 スバルでは、この特徴を活かし、重いエンジンを低く、そしてエンジンルーム後方に収めることで低重心化と運動特性向上を図っています。もし、インタークーラーを前置きにすると、車両先端を軽くしたメリットが薄れるだけでなく、さらにエンジン本体から遠くなるため、ターボチャージャーを助ける役割も半減してしまうなど、デメリットを生んでしまうのです。つまり効率や重量バランスを考えると、インタークーラーは自ずと現在のエンジン上がベストとなるワケです。

スバル車でもすべてに空いているわけではない

 ただスバルのターボ車でも、ボンネットのダクトがないクルマがあります。それはクロスオーバーSUVの「フォレスター」。決して、インタークーラーがないわけではなく、エンジン構造も、ほかのスバル車と同様。その秘密はSUVスタイルにあり、フロントグリルからインタークーラーに必要な空気を取り入れることができるからです。


かつてはボンネットにダクトのあった「フォレスター」だが、2012年11月発売の4代目から姿を消している(画像:スバル)。

 スバルの高性能車を象徴するエアインテークですが、空力特性を考えれば突起物はない方が良いわけで、しっかりと効率を考慮して装着されています。現在のスバル車では、「WRX」シリーズと「レヴォーグ」のみ。奇しくもスポーツ性能をウリにするクルマだけなので、ダクト付きスバルは高性能、という伝統は、いまも昔も変わらないといえるでしょう。

【写真】トップエンドモデル「S208」も、もちろん穴アリ


2017年10月に限定450台で発売された、トップエンドモデルをうたう「WRX STI」特別仕様車「S208」。ボンネットに穴が見える(2017年10月、大音安弘撮影)。