(左上から右下へ)京王5000系、東急2020系、都営新宿線10-300系3次車、都営浅草線5500系(左側)。側面窓上のラインが目立つ車両が増えている(撮影:尾形文繁、山内信也、編集部)

今月22日から、京王電鉄で初の座席指定列車となる「京王ライナー」の運転が始まる。この列車に使われる車両は、昨年9月に登場した新型の5000系だ。

5000系はステンレス製の銀色の車体に、京王のシンボルカラーであるレッドとブルーのラインを配したカラーリング。シャープな先頭部のデザインとともに、従来の車両では窓下に入っていた太い赤ラインを窓上に配したデザインは、京王線車両の中でも目立つ。

窓上ラインの目立つ新型車両

最近は5000系に限らず、窓上のラインが目立つ新型車両が多い。たとえば、京王線にも乗り入れている都営新宿線の新型車両(10-300形3次車以降)は、従来の車両では窓下にあった黄緑色の太いラインを窓の上に持っていき、窓下は細いラインのみ。今春デビューする東急電鉄田園都市線の2020系も、これまで東急線の車両ではおなじみだった窓下の赤帯がなくなり、窓上に白と緑のラインが入る。同じく今春から走り始める予定の都営浅草線の新型車5500系も、ピンク色のラインが屋根近くに入ったデザインだ。


東京メトロ千代田線の支線で使われる元東西線の05系電車。写真は東京メトロの総合研修訓練センターで使用されている際の姿(撮影:尾形文繁)

新しい車両だけではない。東京メトロは、南北線の開業以来使用している9000系をリニューアルする際、これまで窓下にしか入れていなかったラインを窓上にも入れた。千代田線の支線(綾瀬―北綾瀬間)用に改造された元東西線の05系も、転用の際にラインカラーを緑に変えただけでなく、東西線時代はなかった窓上にもラインを入れた。同社は、有楽町線や副都心線を走る10000系(2006年登場)以降、新型車両は窓上にラインを入れたデザインを採用している。

窓上のラインが目立つデザインの車両は、確実に増えてきているのだ。

従来、ステンレス製やアルミ製の銀色の車両といえば、窓下にラインを配し、窓上にはラインが入っていても細めというのが定番だった。JR中央線快速や山手線など首都圏の代表的な路線をはじめ、窓下に路線や鉄道会社のイメージカラーを入れたデザインは、特にステンレスやアルミ製の銀色の車両では一般的だ。

ステンレス製車両が普及する以前、旧国鉄の通勤電車は路線ごとのラインカラーで車体全体を塗装した車両が一般的だった。京浜東北線は水色、中央線はオレンジ、常磐線はエメラルドグリーン、総武線は黄色と、ひと目見てどの路線の電車かがわかるようになっていた。


国鉄時代の末期に、山手線に登場したステンレス車両の205系(写真:masamura / PIXTA)

早い時期から導入していた地下鉄や一部の私鉄を除けば、ステンレス製やアルミ製の車両が普及し始めたのは1980年代以降だ。国鉄末期の1985年から、東京の顔といえる山手線にステンレス製の205系電車が導入され、ステンレス車両全盛の時代が到来した。

ホームドアで下半分は見えない

205系はステンレスの銀色を生かしたデザインで、それまでの車両では全面塗装していた山手線の黄緑色(うぐいす色)は、窓下に太め、窓上に細めのラインカラーの帯を張り付ける形となった。窓上にも付けたのは、ホームの混雑時など車体の側面が見えない時でも、ちょっと見上げれば目に入るからである。だが、あくまで太めで目立つラインは窓下だった。JR以外の私鉄や地下鉄各線も、ほとんどは窓下にラインを入れた形だった。

これが変わり始めたのは、ホームドアの導入が進んでからだ。


ホームドアが設置されると車体の窓下に入ったラインは見えなくなるが、窓上のラインは目立つ。写真は東京メトロ東西線のホームドア設置工事の際の様子(撮影:大澤誠)

ホームドアが設置されることにより、窓下のラインカラーは乗客から見えにくくなっている。その状況の中で増えてきたのが窓上のラインカラーだ。窓上のカラーリングが目立つと、車体の下半分が見えないホームドア設置駅でも車両の存在がはっきりし、複数の路線が乗り入れる駅などでは、どの路線の電車がホームに入ってきたのかがわかりやすくなる。

もちろん、窓上にラインを配した車両のすべてがホームドアの存在を意識したわけではないだろう。だが、ホームドアという施設が車両のデザインに影響を与えたのは確かだ。


山手線の新型車両E235系(撮影:風間仁一郎)

窓上ライン以外の方法で、ホームドアがあっても目立つデザインとしている車両もある。山手線の新型車両E235系は、横一線にラインカラーを引いていないデザインだ。側面は、ドアの上部とドアの部分に黄緑色のステッカーが貼られているだけである。

だが、外から見て山手線の車両であることはすぐにわかり、駅でドアが開いているときでもドア上の黄緑色が車両の存在感とドアの位置を示している。E235系のデザインは、最低限の色しかついていないが、それでも山手線の電車であることを利用者に示すことができている。


東急2020系とすれ違う東武50050型(右)。戸袋にオレンジ色を配している(撮影:山内信也)

ドア横の戸袋部分に色をつけ、利用者にアピールしている車両もある。東武鉄道の東上線やスカイツリーライン(伊勢崎線)・日光線を走る50000型・50050型・50070型だ。ドア横のみがオレンジ色になっており、乗り入れ先でもひと目見ただけで東武の車両が来たとわかるようになっている。

「窓上ライン」は今後も増える?

ホームドアのある路線でも、東京メトロ南北線では透明なフルスクリーンタイプのドアを採用しており、窓下のラインカラーを確認することができる。だが、現在主流となっているホームドアは、腰の高さまでの可動式ホーム柵と呼ばれるタイプだ。1路線だけならともかく、複数の路線が同じホームに乗り入れる場合などは、車両の見分けがつくことは重要だ。ホームドアの設置が進む中、見えにくい車体の下半分よりも上半分に重きを置いたデザインの車両は、今後も増えていくことだろう。


東京メトロ日比谷線13000系は、窓上のラインと車いす・ベビーカー用スペースの表示をデザイン的に組み合わせている(撮影:尾形文繁)

最近では、窓上のラインに合わせて車いすスペースなどの情報をわかりやすく表示した車両も現れている。東京メトロ日比谷線の新型車両13000系、同線に乗り入れる東武鉄道の70000系は、車いす・ベビーカーのマークと窓上のラインを組み合わせており、視認性の面でも優れている。デザインのパターンも進化してきている。

列車のカラーリングは、どの路線かを示すためにも大事なものである。車体の素材や駅施設など、列車を取り巻く状況は変わっても、わかりやすさを保つ姿勢だけは今後も変えないでほしい。