台湾出身の元高校球児が語る日本野球の凄さ
現在、WBSC世界野球ランキング1位の日本。全世代で国際大会で顕著な成績を残す日本野球の強さはどこから生まれるものなのか?今回は、野球留学で台湾より来日し2度甲子園出場を決めている呉承達さん(日南学園―鈴鹿国際大―関西独立リーグ)に高校時代を振り返っていただき、日本野球の凄さを語っていただいた。
日本が大事にする基本の徹底は見習う点が多い人懐っこい笑顔でなんとも憎めない雰囲気のある呉承達は野球留学で台湾から日本に渡り2度の甲子園出場経験のある選手である。
呉が日本への野球留学を決めたのは、中学時代の海外大会での出会いがある。寺原隼人を視察に来ていたスカウトの目に台湾代表としてプレーしている呉が止まった。その縁がきっかけで、呉は日南学園の門をたたくこととなった。
興奮、緊張、不安という数々の感情が入り混じって来日した呉が、日本の高校野球に触れて一番初めに感じたことは寮生活ではなく日本流の練習だった。
「寮生活は、厳しくなかったです。台湾でも中学1年から寮に入っていたので、むしろ厳しかったのは練習です」
呉は、練習の厳しさが一番辛かったという。ではどんな練習が辛かったのか?
それは、野球の基礎技術を身につける練習だった。「基本を身につける練習が多く、しんどい、やることが沢山」と話しつつも、
「でも、基本を学ぶからこそ、野球を長く続けることが出来るのだと思います」
呉は日本野球の質は非常に高く、かつ練習量も多いのが特長だと感じていた。そして、何より徹底した基本練習こそ、日本野球の根底になると確信していた。
台湾でも、高校生で140キロを投げる投手はいる。ただ、それが大学生、社会人、プロになってもパフォーマンスを上げ続けていけるか、第一線で活躍できるのか?は別だ。やはり長く活躍できるのは、基礎技術をしっかり身につけている選手というのが結論だ。
そして、練習とともに辛かった点に「日本語の習得」と語ってくれた。捕手の呉は、投手、チームと十分なコミュニケーションを取ることが重要になる。呉はどのようにしていたのだろうか?
「蕭一傑(日南学園→奈良産業大学→元阪神タイガース)とバッテリーを組む時はやはり言語が通じるので組みやすかった。日本の投手とは、言葉以外も体全体を使いゼスチャーで伝えていました」
言葉が拙い状況でもコミュニケーションを取ることを諦めず、常に前向きに考え現在出来る全ての可能性中で意思疎通を行っていたのが分かる。そして笑いながらこう付け加えてくれた。
「上下関係は、あまりなかったです。日本語が通じなかったのもあるかもしれません」こんなユーモアがある呉だからこそ、日本野球に飛び込んできても順応できたのだろう。
台湾と日本、何が違うの?呉は台湾と日本の練習時間や野球環境についても教えてくれた。
「台湾球児の練習時間は、1日、3時間〜4時間ぐらいで、土日が休みが多いです。甲子園のような大会も存在しています。約200校出場する大会です。日本の強豪校にあたるような学校がそのうちの20校ぐらいです」
200校という点がピンとこないかもしれないが、日本は昨年の夏の大会出場チームが3839チーム(連合チームとして参加した高校を校数としてカウントすると3945校)である。約19倍の規模だ。日本の野球の裾野が台湾に比べて大きいのがよく分かる。
呉は、日本の高校野球を卒業した後も、日本の独立リーグ、台湾の社会人野球を経験している。台湾の社会人野球とはどんなところなのだろうか?
「練習は、日本の社会人ように午前中は仕事で、午後から練習というスケジュールではなくて、一日中練習です。例えば午前中に練習をした後は、午後はウェイトトレーニング。まぁプロと一緒ですね。台湾は、プロと社会人のレベルはあまり変わりません。もちろん、プロのクリーンナップはすごいですが、下位打線などは社会人とほとんど変わりません」
『プロと社会人のレベルはあまり変わりません』この言葉の中に2つの意味を感じた。
1つ目が、競技人口の差が、アマチュアだけでなくプロのレベルにも繋がるということ。
そして、2つ目が 一番最初に呉が語った。「基礎技術がしっかりしている日本野球」という点である。基礎がしっかりしているからこそ、伸びしろがある。日本球界だけを見れば頂点にNPBが来る。NPBが高いレベルの野球を維持しているのは、この基礎技術がしっかりしている選手が多数いることで高校卒業後も順調に成長することが出来るのだ。
実際、呉が最後に残してくれた言葉が、まさに上述したそれである。
「日本の高校野球はレベルが高く、将来に繋がる技術を身に着けさせてくれる。他の文化・リーグに目が行くかもしれないが、結果として現在日本が世界野球ランキング1位です。高校時代に基礎を身につけられるからです。日本で野球をすることは、自分に絶対プラスになることを得られる環境にいるということです。日本の球児はその事を信じてプレーしてほしいです。将来、別の国で挑戦するとしても、その時の経験は必ずプラスになると思います」
台湾野球特集、次回もお楽しみに!