知的財産の基本を知っていますか?(写真:wavebreakmedia / PIXTA)

「やめられない、とまらない〜♪ カルビー、かっぱえびせん♪」

もはや説明不要、カルビーのロングセラー商品「かっぱえびせん」のCMコピー。老若男女を問わず、多くの日本人に耳慣れたメロディとフレーズです。そのキャッチコピーをめぐって法廷闘争が巻き起こりました。

『週刊新潮』12月21日号に、「やめられない、とまらない!」のコピー考案者が、カルビーを相手に訴えを起こしたという記事が掲載されました。自身が広告代理店時代に考案したキャッチコピーなのに、カルビーの社員たちが思いついたものだということにされ、精神的な苦痛を被ったという内容です。

東京地裁に訴訟が提起されたのは今年7月。損害賠償金額は1億5000万円とされています。これに対してカルビー側は「係争中につき、コメントは控えさせていただきます」と東洋経済の取材に答えています。訴えを起こしたコピー考案者の主張が通るのか否かは、司法の判断を待たなければならず、予断を許しません。

複雑な知的財産の保護制度

そもそもキャッチコピーとはどんな法律で守られているのでしょうか。特許、実用新案、登録商標、意匠、著作権など、知的財産権を保護する法律はたくさんありますが、キャッチコピーがどの法律で保護されるかということは、専門家でなければなかなかわかりません。

「やめられない、とまらない!」はかっぱえびせんの代名詞ともいえます。一般的にキャッチフレーズを商標登録できないかとも考えられますが、特許庁は原則としてキャッチフレーズを商標としては認めないとしています。

商標とは、自社の商品やサービスを他人のものと区別するためのマークやネーミングであり、「誰の商品か」や「どのサービスか」を認識できないキャッチフレーズ(標語)は保護の対象とはならないということです。

実際、現在カルビーは「やめられない、とまらない/かっぱえびせん」を商品名として、商標登録しています。

【2017年12月20日14時45分追記】記事初出時に「商標として保護されるためには『やめられない、とまらない!かっぱえびせん』を商品名にする必要がある」との誤った記述がありましたので、上記のように修正しました。

そこで、キャッチフレーズが知的財産として保護されるとすると、可能性が残るのは著作権だということになります。

著作権とは、自分で工夫して表現した言葉や音楽などをいいます。

ただし、小説のような長い文章に著作性が認められるのは当然として、キャッチコピーのような短い言葉に著作性が認められるかというとそう簡単ではありません。言葉が短ければ短いほど、ありふれた単語の組み合わせになるからです。

有名な判例として「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」という交通標語の著作性が争われたスローガン事件というのがあります。

裁判所は、標語を5・7・5で表した表現方法に著作性を認めましたが、「ママの胸より チャイルドシート」というスローガンは、共通の言葉を使っているものの異なる表現だとして、このスローガンを使った損害保険協会と広告代理店への損害賠償の請求を認めませんでした(2001年5月東京地裁で判決、同10月東京高裁が控訴棄却)。

ありふれたスローガンには著作性は認められにくいうえ、著作性が認められてもデッドコピーでないかぎり、権利の侵害は認められないということになります。

デジタル時代=簡単にコピーされる時代

デッドコピーといえば、インターネットが発達し、言葉や文章が簡単にコピーできる時代となりました。

弁護士である筆者の元には近年、「せっかく練り上げた文章をホームページに掲載したのに、ほとんど同じ構成でまねされてしまった」というご相談がたくさん寄せられます。

「自分が考えたアイデアなのに、それをパクられるのは著作権の侵害ではないか」と思われるかもしれませんが、実は著作権法はアイデアを保護する法律ではありません。アイデアを保護するのは特許法であり、著作権法は、あくまでそのアイデアを表現したその具体的手法を保護するものだからです。

著作権はなんら登録をせずに権利が発生しますが、特許は審査を受け、登録を受けて初めて権利が発生するという違いがあります。同じアイデアから出たものであっても、表現方法が違っていれば著作権の侵害とはいえません。もちろん模造やパクリなどといったデッドコピーは許されませんが、要所要所がほぼ同じといえないと、著作権侵害とは認めてもらえないということです。

一方で、かっぱえびせんのメロディができた頃には認められなかった表現が、最近知的財産として保護されるようになりました。商標法が改正され、2015年から、メロディなどを音商標として登録できるようになったのです。

音商標の実例を挙げてみましょう。

味の素 あ・じ・の・も・と
大幸薬品 正露丸のラッパのテーマ
伊藤園 おーいお茶
サンヨー食品 サッポロい・ち・ばん
花王 ビオレ
エプソン販売 カラリオ
三井不動産リアルティ みついのリハウス
救心製薬 きゅうしんきゅうしん
大正製薬 リポビタンD ファイトーイッパーツ
久光製薬 ヒ・サ・ミ・ツ

当時からこの制度があれば、かっぱえびせんのトラブルも起きなかったのかもしれません。

法律に触れなければいい、というものではない

当たり前のことですが、法律に触れなければどんなにまねをしてもいい、というわけではありません。本家に「まねをされた」と感じられただけで、相手の恨みを買い、無用なトラブルになりかねません。

消費者からも「この会社はあの会社のまねをした」と思われてしまっては、ファンを増やすことなどままなりません。アイデアや表現は考え抜いてオリジナルの形にし、しっかりと法律の保護を受けることが大切ということです。