今や世界屈指の万能型ストライカーに成長したケイン。コンテをはじめ敵将からも称賛の声が絶えない。(C)Getty Images

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「ストライカーをひとり買えるならば、ハリー・ケインの獲得に動く。わたしの目には、ケインが世界最高峰のストライカーに映るからだ」
 
 手放しでそう絶賛するのは、チェルシーのアントニオ・コンテ監督である。プレミアリーグで2014-15シーズンに21ゴールを挙げたケインは、翌15-16シーズンに25ゴール、昨シーズンに29ゴールを叩き出し、右肩上がりに得点数を伸ばしてきた。直近2シーズンは、プレミアリーグ得点王の称号を連続で獲得している。
 
 とはいえ、イタリア人指揮官がケインを手放しで称賛した理由は、ゴール数だけではないという。
 
「ケインは完成されたストライカーだ。強靭なフィジカルを持ち、ボール保持の有無に関わらず、常にファイトする。空中戦にも強く、右サイドでも左サイドでも躍動できる。彼を獲得するには、最低でも1億ポンド(約150億円)が必要だろう」
 
 コンテの指摘した通り、「万能性」こそがケインの最大のストロングポイントである。ポジショニングの良さとシュート技術を生かし、ペナルティーエリア内にスッと顔を出して正確に枠内へシュートを放つ。当然のようにマークはきつくなるが、敵にガツンと寄せられても、恵まれた体格ゆえまったく当たり負けしない。
 
 両足を器用に使えるのも大きな武器で、プレミア16節までに挙げた12ゴールの内訳は、右足が5ゴール、左足が5ゴールと均等に決めている。さらに残りはヘッドによる2ゴールで、ミドルシュートの精度も高く、空中戦も強い。言うなれば、どんな状況からでもネットを揺らせるのだ。
 
 パターンを選ばず、どんな状況でも何食わぬ顔でゴールネットを揺らす。「クールな点取り屋」という形容詞がこれほど似合うストライカーは、世界中を見渡してもそうそういないだろう。
 そのうえ、ポストプレーや連携プレーで味方を生かす術に優れ、前線からプレスをかける献身性も兼備する。爆発的なスピードやトリッキーな足技があるわけでないが、大きな弱点はなく、しかもすべての能力が高い──。だからこそ、チームメートのクリスティアン・エリクセンも、「ゴールを量産できるし、味方を助ける動きもできる。前線でボールをキープしてタメを作るし、ヘディングシュートも上手い。彼はパーフェクトなストライカーさ」と称賛するのだ。
 
 とはいえ、ケインの評価を最大限まで高めているのは、やはりストライカーとしての能力、つまりゴールを決め切る力だ。持ち味をいかんなく発揮したのが、4節のエバートン戦だった。
 
 右サイドのタッチライン際でパスを受けると、角度がさほどない位置にもかかわらず、約35メートルのロングシュートをゴールに叩き込んだ。そうかと思えば、ペナルティーエリア内のフリースペースに走り込んでクロスボールを上手に引き出し、ダイレクトで合わせて2点目。3-0の勝利に大きく貢献し、『BBC』のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。
 
 また、9節のリバプール戦でも2ゴール・1アシストで4-1の快勝に貢献。今シーズンで4度目となる「1試合・2ゴール」を達成し、大一番での勝負強さを発揮した。この試合でもBBCはケインをマン・オブ・ザ・マッチに選んでいる。
 
 プレミアリーグでの12ゴールは、リバプールのモハメド・サラ―の13得点に次ぐ2位。チャンピオンズ・リーグでの6ゴールも、9得点のクリスチアーノ・ロナウドに続く2位タイの記録だ。
 
 これだけではない。主軸に成長したイングランド代表では、ワールドカップ予選でチーム最多の5ゴールを決めて本大会出場に導いた。最近では、来夏にレアル・マドリーが獲得に動くとの報道が英メディアを賑わせてもいる。飛ぶ鳥を落とす勢いとは、まさにケインのような選手のことを指すのだろう。