すき家は、なぜ「牛丼値上げ」に踏み切るのか
国内店舗数で牛丼チェーン首位のすき家。2018年3月末までに並盛以外の牛丼価格を値上げする方向で検討に入った(撮影:今井康一)
「価格についてはいろいろと検討しており、意思決定をするタイミングにきている」。11月8日、2017年度中間期の決算会見で、牛丼チェーン「すき家」などを運営するゼンショーホールディングス(HD)の丹羽清彦・執行役員グループ財経本部長は牛丼を値上げする可能性について、そう言及した。
値上げは2018年3月末までに実施する予定だ。すき家の場合、牛丼の並盛は350円(税込み、以下同)、大盛470円、特盛580円。今回は並盛以外の牛丼やサイドメニューを中心に値上げを検討する。
人件費の上昇がとまらない
なぜ今、このタイミングで値上げに踏み切ろうとしているのか。理由の1つが人件費の高騰だ。アルバイトの時給は右肩上がりが続いている。東京都の最低時給は2002年に708円だったが、2016年には932円に上昇。この10月には958円に引き上げられた。こうした人件費の高騰に加え、牛肉価格やコメといった食材価格の上昇も追い打ちとなっている。
2015年4月にすき家が牛丼並盛を291円から350円に値上げしたときは、肉やたまねぎを20%増量した(編集部撮影)
牛丼価格をめぐっては、すき家、吉野家、松屋の牛丼3社が駆け引きを繰り返してきた。並盛価格で比べてみると3社が280円で横並びだった時期もあるが、2014年4月の消費増税時に吉野家が300円に、松屋が290円に値上げした。一方で、すき家は1982年の創業以来、最安値となる270円に値下げした。
それからわずか4カ月後、すき家は牛肉価格の高騰を理由に並盛価格を291円に値上げ。2015年4月には牛肉やたまねぎを2割増量して、350円へと再値上げした。現在、吉野家と松屋の並盛はいずれも380円となっている。
吉野家や松屋は値上げについては慎重な姿勢を示す。吉野家の河村泰貴社長は10月上旬の決算会見の場で「現時点で値上げの計画はない」と断言。吉野家は2014年12月に牛丼を300円から380円に値上げしたところ、15%ほど客数が落ち込んだこともあり、価格改定に対して、慎重になっている面もある。
松屋フーズの瓦葺一利社長も10月末の決算会見で「(当面は)現状維持。現段階では値上げの計画はない」と述べた。
値上げで客数減のリスクも
牛丼チェーンの肉として使われるショートプレート(牛バラ肉)は価格が上昇している(撮影:今井康一)
ゼンショーHDが発表した2017年度の中間決算は売上高が2909億円(前年同期比8.3%増)、営業利益が100億円(同5.9%減)と増収減益で着地した。
丹羽本部長は「(当初は中間期が)営業増益予想であったにもかかわらず、減益となった要因は原材料の高騰、人件費の上昇だ。ある程度お客様にご負担いただくときになりつつある」と値上げへの理解を求めた。
ただ、今回の値上げがどこまで利益貢献するかは不透明だ。すき家では牛丼並盛の販売構成比率が高く、大盛などその他のサイズの価格を改定しても、利益貢献は限定的となる可能性が高い。
ゼンショーHDはすき家以外にも、「ココス」「ジョリーパスタ」などのファミリーレストラン、回転ずし「はま寿司」など多くの飲食チェーンを運営している。「さまざまなコスト増はすき家だけにとどまらない。値上げをする方向で、各業態の責任者と商品部が検討している。早いところでは年内もある。入客数や競合他社の動向も勘案して決めたい」(丹羽本部長)。
値上げをすれば当然、客数減のリスクが伴う。影響を最小限に抑えながら、利益を回復軌道にのせることができるか。ゼンショーHDは難しい舵取りを迫られている。