2017.11.07


SFのジャンルを超えた
心を揺さぶる情緒的ストーリー
『ブレードランナー 2049』

先ず一番にお伝えしたいのは、「今作は映画館で観るべき」ということ。美しい映像と音に圧倒されながら作品の世界にどんどん引き込まれていく感覚、そして、『ブレードランナー』(1982年)から引き継がれる、ダークで、ウェットで、閉塞感のある雰囲気は、真っ暗な空間、巨大スクリーン、重低音が鳴る音響設備の中でこそ存分に味わえる気がした。ちなみに、『ブレードランナー 2049』の中で描かれている気候は、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の出身地・カナダの最悪の日々がもとになっているのだとか。



ヴィルヌーヴ監督といえば、アカデミー賞にノミネートされた『メッセージ』が記憶に新しい。WIREDの記事の中で、「ぼくはグリーン・スクリーンが好きじゃない。何もないところで役者たちに演じさせるよりも、リアルなものを彼らの周りに置いてやりたいんだ。(中略) 視覚効果は一切使わずすべて実際につくったものだから、役者たちはその部屋の奇妙さを肌で感じることができたはずだ。もしCGIを使っていたとしたら、間違いなくまったく違う映画になってしまっていたと思う」と話した監督は、最新作『ブレードランナー 2049』でもそのこだわりを追求している。「本物のセットで仕事をするのが好きなんだ。自分や俳優たちが実際に触れることのできる世界を作り上げることがとても重要だ。そうすることで、そこを生きることができるからね。もちろん、多少のCGIでの調整も必要だと思っていたが、とにかく、この映画で目に写るものはすべて本物なんだ」と、制作秘話の中で語った通り、それを具現化している。



荒廃した土地の風景や建造物、湿った空気感漂う街中のネオン……。東京の歌舞伎町や香港のネイザンロードに似た東洋的趣向の電光掲示板や文字などのビジュアルは、前作に続き日本人の私たちにとって馴染み深さと親近感を与えてくれる。

-映画の枠を超え、広く影響を及ぼした
前作を振り返る-

環境破壊が進み、宇宙への移住が始まった2019年の近未来。人間に代わる労働力として開発、製造された人造人間=レプリカント。前作では、人間に反逆するため地球に潜伏中の数体のレプリカントと処分を命じられた特別捜査官、通称・ブレードランナー(リック・デッカード役/ハリソン・フォード)の追跡劇と闘いが描かれている。初めて観た時、ストーリーの奥深さが理解できないながらも、反逆レプリカントのリーダー、バッティ(ルドガー・ハウアー)の白髪とギョロっとした目などの様、動きに恐怖を感じたのを今でも覚えている。また、30年後を舞台にした最新作『ブレードランナー 2049』でも大事な存在となるレイチェル(ショーン・ヤング)の個性的なヘアメイクや衣装なども印象的で、映画界のみならず、アートやファッションといったカルチャーに大きな影響を与えたクリエーション力は本当に凄い。ファッションの話で言えば、故アレキサンダー・マックイーンが手がけたジバンシィの1998年オートクチュールコレクションの中でレイチェルそのもののモデルが登場したり、2006〜2008年のパリコレクションでは、クリスチャン・ディオールやマルタン・マルジェラといったブランドのランウェイで、もう一人の女レプリカント、プリス(ダリル・ハンナ)を彷彿させるモデルに注目が集まったり。また、ファッションデザイナーであり、11月公開の『ノクターナル・アニマルズ』の監督を務めるトム・フォードも過去に好きな映画作品のひとつに挙げている。

-ただ観るだけに留まらない、
SFのジャンルを超えた作品-

SF映画というジャンルの中には、実に様々な作風のものがある。CGを駆使し視覚的に刺激を与えてくれるもの、想像もつかない不思議な世界観を表現したもの、ププっと笑ってしまうコメディ満載のものがあったり。が、しかし、多くのファンを持つ『ブレードランナー』は、ストーリーや映像美の魅力だけでなく、観ている者に対して沢山の疑問と興味を抱かせてくれるから面白い。前作〜今作を通して、大きなテーマともいえる“人間とテクノロジーの関係と考え方”は、リドリー・スコット監督が自らメガホンを取った『エイリアン:コヴェナント』でも描かれている気がする。表現の違いはあるけれど、アンドロイドとレプリカント※が登場するそれぞれの作品には、テクノロジー・シンギュラリティ(人工知能が人間の能力を超える技術的特異点)について深く考えさせられるところがあり、それは、勝手な解釈かもしれないけれど、テクノロジーの進化は素晴らしいが、その反面で人が作り出すものが脅威を産むことにもなりうるという問題提起や人間らしさとは何か?というメッセージが反映されているように思えるからだ。



作中で垣間見る人間とテクノロジーの境界線、現代における気候変動、格差社会、遺伝子工学の要素を取り入れた『ブレードランナー』。SF映画の金字塔として語り継がれるオリジナル作品のファンであることを自認しているヴィルヌーヴ監督が手掛ける『ブレードランナー 2049』は、ストーリーや映像の素晴らしさは元より、前作のDNAを受け継ぎながら、独自の感性とフレッシュな俳優陣、プロフェッショナルな製作スタッフの面々にも注目したいところ。また、大好きなハンス・ジマーとベンジャミン・ウォルフィッシュのタッグが奏でる音楽、前作を彷彿させるシンセサイザーやピアノの音色はとても印象的で、作品の世界観により深みを出している。



<Miyaan’s Check Point>

作品を鑑賞した感想(評価)は、全体的に満足度高め!
映像の素晴らしさ ★★★★(星4)
内容の面白さ ★★★★(星4)
感動&涙 ★★★(星3)


最後に、前作を観たことがないという人へ、「一度は観るべき。観て損はない映画」だと言いたい。35年前に作られた『ブレードランナー』は、当時、他に類をみない作品として称され、観る者に衝撃と感動を与えてくれた。最新作の『ブレードランナー 2049』を初めて観る人にとっても、今作でしか体感できない何かと魅力があるはずだ。ただし、上映時間は2時間43分なので、腹ごしらえとトイレは済ませておくのが賢明かも。

※『ブレードランナー』の原作となった、フィリック・K・ディックの小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の中では、アンドロイドと称されている。共に人造人間である

(Text:Miyaan)

【作品情報】
『ブレードランナー 2049』
LA市警のブレードランナー“K”(ライアン・ゴズリング)は、ある事件の捜査中に、《レプリカント》開発に力を注ぐウォレス社の【巨大な陰謀】を知ると共に、その闇を暴く鍵となる男にたどり着く。彼は、かつて優秀なブレードランナーとして活躍していたが、ある女性レプリカントと共に忽然と姿を消し、30年間行方不明になっていた男、デッカード(ハリソン・フォード)だった。いったい彼は何を知ってしまったのか?デッカードが命をかけて守り続けてきた〈秘密〉―人間と《レプリカント》、2つの世界の秩序を崩壊させ、人類存亡に関わる〈真実〉が今、明かされようとしている。

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 
脚本:ハンプトン・ファンチャー、マイケル・グリーン
製作:アンドリュー・A・コソーヴ、ブローロリック・ジョンソン、パッド・ヨーキン、シンシア・サイクス・ヨーキン
製作総指揮:リドリー・スコット、ビル・カラッロ、ティム・ギャンブル、フランク・ギストラ、イェール・バディック、ヴァル・ヒル
出演:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、他
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
http://www.bladerunner2049.jp

おすすめ度の★評価について
★★★★★ 観る価値大
★★★★  満足度高め
★★★   賛否両論…
★★    もう一声!
★     残念すぎる

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