栃木のカメラ屋がなぜか圧倒的高収益のワケ
AIやロボットの普及は、人間の仕事をすべて奪うわけではない(写真:プラナ / PIXTA)
あの中国で、無人コンビニ?
英オックスフォード大学のAI(人工知能)研究者が「人間が行う仕事の約半分が機械に奪われる」との予測をして以降、「自分の仕事がなくなるのではないか」と漠然とした危機感を持つ人が増えた。テクノロジーの進化を見ると、その不安は現実になりつつあるようだ。
たとえば中国では「無人コンビニ」が登場した。「日本ならまだしも、中国で無人コンビニが成り立つのか?」「無人だと犯罪が多発するのでは?」と思いがちだが、盗難はほぼゼロだという。無人なのに盗難がないのはなぜか? 理由は、最新テクノロジーにある。
まず入店にはスマートフォンの専用アプリによるID認証が必要だ。店内では360度カメラや多数のセンサーで監視される。他人になりすました人が入店しても、カメラの顔認証によりID認証した人と同一人物かをチェックする。もし不一致が検出されれば「不審者入店」のアラームが鳴り、本当は誰なのかをシステムで探知する仕組みだ。
支払いをせずに退店すると警告文が届き、支払いに応じるか、ブラックリストに掲載され公安に通知されるか、選択を迫られる。もし盗難しようものなら大変だ。「アリババ」や「テンセント」など中国では生活に欠かせない電子決済の信用スコアが悪化し、生活に支障が出てしまう。
盗難を防ぎ、客が購入する商品を会計するのがコンビニ店員の仕事ならば、すぐにでも代替される可能性がある。もちろん無人コンビニは中国だけではない。米国アマゾンも、無人コンビニ「アマゾンGO」の試行を開始している。日本でも、ローソンとパナソニックが無人レジの実用化により、コンビニ店員の仕事量を1割削減しようとしている。日本だけでも5万店以上のコンビニが存在するが、各店舗の従業員・アルバイトが20人ずつだとしても「無人コンビニ」は100万人の雇用に影響がある計算になり、そのインパクトは大きい。
コンビニだけではない。HISはロボットを活用した「変なホテル」で、大幅な省力化を図っている。品川プリンスホテルは、ホテルスタッフを接客などほかの業務に集中させることを狙い、自律走行型ロボットによりフロントから客室まで荷物を運んでいる。サービス業の最高峰ともいわれるホテルの業務でさえ、ロボットによる置き換えが始まっているのだ。
AIやロボットの進化によって、人手がかかる仕事は急速に代替され、効率化されていく。この流れは止められない。こんな時代、私たちはどのようにすればいいのだろうか? ここで考えるべきなのは、AIやロボットで「消える仕事」と「消えない仕事」の違いを理解することだ。その違いを示唆する業界がある。斜陽産業のイメージが強い「林業」だ。
林業はなぜ復活したのか?
先日テレビ番組を見ていて驚いたことがある。「林業」が若者の間で人気だ、というのだ。番組では、東京の最先端アパレル企業から、北海道の林業の仕事に転職した30代男性が紹介されていた。東京にいたころの仕事は夜遅くまで残業することもあり大変だったが、現在は夕方4時には作業終了。家族とゆっくりと過ごせるようになったという。かつて林業は、「仕事は3K(きつい、汚い、危険)」「不人気で人手不足」といったイメージを持たれていたが、大きく変わったようだ。実際に、日本の木材の輸出量も、近年になり増加傾向が見られるようになっている。
林業が復活するきっかけになったのが、ITやロボットの導入だ。かつて、木の伐採・枝払い、丸太をつくる玉切りといった作業は人手がかかるうえ、熟練された腕が必要な重労働だった。しかし、いまやこうした作業はロボットが行っている。苗を背負い1本ずつ人手で植えていた造林作業も、苗木植栽ロボットが導入された。自動化がどんどん進み、重労働が激減しているのだ。
さまざまな仕事がITやロボットにより代替されていく。AIが合わされば、その動きはさらに加速するだろう。つまり、人間がやる必要のないことは減る。かといって「あなたの仕事」をすべて奪うわけではない。林業のケースのように、ITやロボットによって置き換えられる仕事は、パターンが決まっていて同じことを繰り返す「定型業務」である。手順が決まっているので、ITやロボットなどの「新しい技術」によりムダを減らし効率化できる。「定型業務」は、技術の進化とともに人件費をかけてやるべきことではなくなり、いずれ置き換えられる。
歴史を振り返れば、人類はつねに「新しい技術」で仕事を置き換えてきた。紀元前の農業技術や牧畜技術の誕生は、狩猟という仕事を置き換えた。18世紀の動力の誕生は、奴隷などが担っていた重労働を減らした。19世紀には、駅馬車という仕事が蒸気機関車に置き換えられ、人々はより遠くへ移動できるようになった。そして商品を大量配送できるようになり、ターミナル駅には百貨店が登場し、人々の生活は豊かになった。「新しい技術」によりムダをなくし、新たなビジネスを生み出すことで、私たちはより便利に人間らしく生活できるようになってきたのだ。
人間が蒸気機関車と競走しても勝てないように、ITやロボットに勝負を挑んでも勝てない。「新しい技術」により「定型業務」が自動化・効率化された時間を、どんな「非定型業務」にフォーカスするべきかがポイントとなる。「非定型業務」の1つである「人とのコミュニケーション」に集中した面白い事例を紹介しよう。
「サトーカメラ」高収益の秘密
家電量販の激戦区・栃木県で圧倒的に強く、県内のカメラ販売シェアでは不動の首位をキープし続けるカメラチェーン店がある。サトーカメラだ。サトーカメラの店内は、いたるところに手書きPOPがあるなど、外見は家電量販店とそれほど変わらない。
他店と異なるのは、店内にソファが並んでおり、カメラの基本操作や写真撮影のノウハウについて客と店員が歓談する姿がよく見られるところにある。写真談義のみならず、いつの間にか作品自慢になり、さらに孫自慢まで、延々と話し合っている。接客に1時間かかるのは当たり前。最長記録はなんと5時間だという。
一見、販売効率は悪そうだが、粗利益率はなんと44%と超高収益だ。サトーカメラが高収益の理由は「対面でのカメラ販売」に特化しているところにある。ターゲットとなる顧客の多くは、それまで写真にあまり興味なかったが、何らかのきっかけで写真に興味を持ってサトーカメラに来店した「カメラ初心者」だ。サトーカメラではそんな「カメラ初心者」の客を見つけ、全力でもてなし雑談しながら、まずはカメラや写真に関心を持ってもらう。客がカメラを購入するころには、サトーカメラのファンになっているのだ。
店のファンになった「カメラ初心者」は、自宅ではなかなかうまく写真を印刷できない。そこで撮った写真を店で印刷する客がたくさんいる。カメラを購入する際に親切にしてくれた店員と、一緒に写真を選び、サトーカメラでプリントするのだ。
実は、サトーカメラの利益の半分は、カメラ販売ではなく、この写真印刷だ。プリンターメーカーは本体を低価格で販売し、利益率の高いインクカートリッジの販売によって収益を得ているといわれるが、サトーカメラのビジネスモデルもそれに近い。だから利益率が高いのだ。
「客と雑談し、写真と店のファンになってもらう」という仕事は、ITやロボットでは効率化できない「非定型業務」だ。サトーカメラでは、社員の接客シミュレーションをビデオに撮影して販売員同士が課題を指摘し合うなどして、社員の接客力向上に力を入れている。つまり、どんな「新しい技術」が登場したとしても、代替することができない「客とのコミュニケーション」に集中しているのだ。
大量に押し寄せる「定型業務」は、そもそも多くの人にとっては苦手な作業であり、ITやロボットのほうが正確だし、迅速だ。だからどんどん「新しい技術」に任せるべきなのだ。そうすれば、私たちは不快でつらく苦手な仕事を減らし、より人間らしい仕事に集中できるようになる。
サトーカメラのように、目の前にいる顧客の悩みを聞き、専門知識を活かして解決策を提供する「接客」や「コンサルティング」は非定型業務だ。人と話したり、議論・交渉を通じて問題を解決して着地点を見つける仕事は、定型化できないので、AIやロボットでは対応できない。「あなたの仕事」も、きっと「定型業務」と「非定型業務」に分けられるはずだ。機械でもできることはさっさと機械に任せて、人とのコミュニケーションや頭を使って問題解決する作業に時間を使うことが大切なのである。
AIは万能ではない
いまのAIは、人間が考えることはあたかも何でもできるかのように、実態以上に過大評価され、過熱報道されている。たしかに何十年も先のAIは、想像もつかないほど進化している可能性はあるだろう。しかし、私たちが考えるべきは、いま、どうするかだ。
いまのAIはパターンが決まっていない「非定型業務」をこなせない。AIには意思もないので「これをやりたい!」「これはやらなければ!」と考えて、新しいことに挑戦し、新しい価値を創り出すこともできない。私たち人間には意思がある。だから、人とのコミュニケーションを通じて相手の問題を解決することもできるし、新たな価値を創り出すこともできるのだ。
では、「あなたの仕事」の中にある、どんな「非定型業務」にフォーカスして、どのようなスキルを身に付けていけばいいのか? ここで問われるのが「あなたという商品」にどのような強みがあり、それをどうやって伸ばせばいいのか、である。
役立つのがマーケティング戦略の考え方だ。マーケティング戦略とは「商品の価値を高める方法」を体系化したものだ。つまりマーケティング戦略の考え方を使えば、「あなたという商品」の価値を高めることができる。あなたに商品力があれば、AIやロボットが普及した未来に、それらを活用してさらに自分の商品力を高められるのだ。こうした考え方は著書『「あなた」という商品を高く売る方法』でも説明しているが、マーケティング戦略の専門家として、ぜひみなさんにもマーケティングの理論や戦略を学んでいただきたいと思う。