飛行機の主翼、端が立っているのはなぜ? 重くなるのに燃費改善のカラクリとは
飛行機の主翼の先端が垂直に立っているのには、もちろん大きな理由があります。重くなるのに燃費が良くなるというこのウィングレットというパーツ、どのような仕組みなのでしょうか。
1500kgも重くなって5%燃費が改善!
2017年現在、昨今の航空各社の旅客機を見てみると、主翼の先端が垂直方向に立っているものが多く見られます。某漫画・アニメ作品の少女型ロボットが「キーン」と口にしながら走る際のポーズを彷彿とさせます。
あの翼端の立った部分は「ウィングレット」と呼ばれるパーツです。JAL(日本航空)のWebマガジンサイト「OnTrip JAL」2013年8月21日掲載記事によると、主翼の先端を立てただけで、燃費が5%も改善するといいます。
JALのボーイング767-300ER。主翼端にウィングレットを装着している(画像:reezuan/123RF)。
同記事によると、この5%という数字は、たとえばバンクーバーから成田まで10万ポンド(約45トン)の燃料を消費するとして、ウィングレット装着機だと5%ぶんの5000ポンド(約2.25トン)燃料の消費が少ないことになり、ドラム缶に換算すれば約15本分に相当する量であるそうです。もちろん、飛行距離などにより効果の程は変わるため一概には言えませんが(長距離のほうが効果的)、もしすべての飛行機で同様に燃料消費量を削減できるとしたら、その量が膨大なものになることは明らかです。
「ウィングレット」の注目すべき点は、実はあの翼端のパーツ部分だけで左右あわせ1500kgもあり(ボーイング767-300ERの場合)、つまりそれだけ重さが増えたのにも関わらず燃費が向上しているというところです。航空機にしろクルマにしろ、およそ重量は軽ければ軽い方が、基本的に燃費も良くなるということに変わりはありません。にもかかわらず5%の燃費改善です。
いったいなにが起きているのでしょうか。カギとなるのは「翼端渦」という現象です。
飛行機が避けて通れない翼端渦とは?
「翼端渦」とは、文字通り翼の先端部分の渦のことで、ここで「渦」を巻くのは空気です。
そもそも飛行機は、主翼の上と下の気圧差で空中に浮くものです。飛行中の飛行機の、主翼の上の気圧は低く、下が高いため、上方へと持ち上げられる力、すなわち揚力が発生し、宙に浮くことができます。
主翼の下を通る空気は、上に比べ気圧が高い。翼端では緑のラインのように上側へ引っ張られ、これが翼端渦になる(乗りものニュース編集部作成)。
このとき、翼の付け根から先端手前までは、空気が翼の上と下へきれいに分かれて後方へと流れますが、翼の先端部分では、気圧の高い下側から上に向かって空気が引っ張られ流れてしまいます。翼は前方へと移動しているので、引っ張られる方向は斜め前方になり、こうして主翼の先端で空気の渦が尾を引くことになります。これが「翼端渦」です。
翼端渦は飛行機の飛行には不要なもので、もちろん渦を作る(=空気を動かす、すなわち空気抵抗が発生する)ぶん、エネルギーが無駄に消費されていることになり、そしてこのエネルギーは、もとをただせば飛行機の燃料ということになります。そのほかの詳細な説明は省きますが、つまりそうした翼端渦をおさえられれば省エネになる、というのが、ウィングレットの発想です。先端を上に向けることで、翼端で空気が主翼の上に回り込みづらくなり、結果翼端渦の発生を低減できるというわけです。
長きにわたる翼端渦との戦い
実は翼端渦については昔から研究されていて、軍用機などにその工夫のあとが見て取れます。
たとえばアメリカ空軍のA-10攻撃機は、主翼の先端が下方に曲げられています。主翼の下の高圧な空気が上に流れないよう抑え込む、という発想をそのまま具現化したような形です。航空軍事評論家の関 賢太郎さんは「A-10の『ドロップドウイングチップ』は、ウイングレットほどではありませんが、同じように翼端渦流を抑制し誘導抵抗を減少させる効果をもたらします。さらに攻撃機として必要な機敏な操縦性を確保でき、実効翼面積を増やすため短距離離着陸性能を改善可能であるという利点があります」といいます。
「軍用機において旅客機のウイングレットと同じ効果を持たせた機体は少なくありません。たとえばかつての航空自衛隊T-33練習機やF-104戦闘機は翼端に外部燃料タンクを搭載することで翼端渦流を抑制しました。また主翼端に空対空ミサイルを搭載するF-2戦闘機も同様です」(関 賢太郎さん)
アメリカ空軍のA-10「サンダーボルトII」攻撃機。主翼の先端が下方に曲がっている(画像:アメリカ空軍)。
旅客機においては、たとえば前掲のJALの記事には、767型機にウィングレットを装着してもパイロットの操縦感覚に影響しない旨の言及があり、それでいて効果は目に見えて現れるといいます。最新の旅客機でいえば、たとえば2017年9月にANAが受領したA321neoも、大きなウィングレット(エアバスでは「シャークレット」と呼称)がきっちり立っていました。
「当社では、ボーイング737-700型、737-800型、エアバスA321型の全機、およびボーイング767型とエアバスA320型の一部にウィングレットが装着されています」(ANA)
このほか翼端渦を抑える工夫として、主翼の先端に後退角をつけた、つまり後ろに曲げたようなレイクドウィングチップという形状や、ウィングチップフェンスという翼端を上下に伸ばす形のパーツも採用が広がっています。
※9月19日10時30分 追記
一部見出しの修正、記述内容の修正を行いました。謹んでお詫び申し上げます。
【写真】「シャークレット」装着、A321neo
ANAの最新鋭機、エアバスA321neo。エアバスではA320シリーズに装着するウィングレットのことを「シャークレット」と呼称(2017年9月8日、石津祐介撮影)。