ドコモ通信網の中枢公開、未来の災害対策にドローンや船上基地局。巨大ディスプレイ並ぶまるで怪獣映画の司令室
この夏、NTTドコモは報道機関向けに東京品川のネットワークオペレーションセンター(NOC)を公開し、災害時のネットワーク復旧対策について語りました。NOCのあるドコモ品川ビルは東日本エリアのドコモネットワークの遠隔監視やさまざまな措置をする拠点でもあります。
体育館ほどの広さのNOCには、壁面に60インチディスプレイが縦4枚 x 横9枚の36枚、対面にも2×9=18枚が並べられています。数十名分あるデスクにもそれぞれ数台のディスプレイ、キーボード、マウス、連絡用の電話などが置かれ、オペレーターたちが通信に異常がないか日々監視しています。
ここはまるで怪獣映画やパニック映画などに出てくる司令室のよう。24時間携帯電話がつながるようにと努力している迫力が、オペレーターの背中越しにヒシヒシと伝わります。
ディスプレイの内容は、それぞれ基地局の状態、通信・サービス(たとえばエリアメール)の状態など。参考としてテレビ放送や全国の天気が写されているディスプレイもあります。
通常、ドコモは、東日本エリアのネットワークをこの品川で、西日本をドコモ大阪南港ビル内のNOCで監視しています。万が一、災害などでどちらかの施設が甚大な被害を受け、機能しなくなった場合、残った方で全国のネットワークを監視できる体制となっています。
壁面のディスプレイに目を向けると、大画面の左側は基地局状況をモニタリングしており、異常や予兆があった場合にその基地局の情報が表示されます。異常の度合いによって、トラフィック量が増えた場合は緑、不具合が発生した場合は赤というようにひと目でわかるようになっています。1行1行が1基の基地局です。
画面を見る限り、日々さまざまなトラブルが発生しているようにも見えますが、説明員によれば、たとえ赤色の行が発生した場合も隣接する基地局がエリアを代わりにカバーしたり、自動化された復旧手順によって復旧したりするため、通信自体には支障はない場合が多いとのこと。
仮に通信に支障がある場合、オペレータが机上のキーボード・マウスでリモート修復手順をおこないます。場合によっては、現地で作業担当者が基地局の調整、交換を行うよう指示も出します。
なお、2011年の東日本大震災の際にはディスプレイがほぼ全てが赤で埋まり、壮絶な状況だったそう。しかし、今後そのような大災害でも「重要通信の確保」や「通信サービスの早期復旧」が行えるように、現在、そして将来に向けて、様々な準備を行っているとドコモの説明員は語っていました。
ドコモではこれまで、NOCの東京・大阪への二重化のほか、大ゾーン基地局の導入、衛星移動基地局車・移動電源車の増備、といった現在までに災害への備えを拡充しています。これに加えてさらに取り組みを行っており、そのひとつが「中ゾーン基地局」の全国展開、そして「マイクロ伝送」「衛星エントランス」です。
中ゾーン基地局は、災害時に通常より広い範囲でカバレッジが可能な基地局です。24時間以上の停電に耐える発電・蓄電設備を持ち、基幹ネットワークへの伝送路も複数用意され交換局などへの通信が途絶えないよう設計されています。
▲中ゾーン基地局とは、周辺基地局複数が機能不能となったときもカバーできる基地局です。災害対応設備も持ちますが、普段もエリアの基地局として使われている点が大ゾーン基地局とは異なります。
中ゾーン基地局は、大ゾーン基地局より基地局あたりのカバーエリアは狭いです。しかしその分、災害時の携帯電話の通信量をこれまでより増やせます。災害時でもこれまでより扱える通信量が多くなるため、つながりやすくなる、というわけです。ただし、災害時は緊急通話が最優先。一般の利用者の通話は控えるべきであることに変わりはありません。
2016年の熊本地震では41基が稼働しました。ドコモではエリア回復に使われたこの中ゾーン基地局を、2020年3月までに全国2000カ所以上に増設したいとしています。
「マイクロ伝送」とは、基地局から交換局などへといったネットワーク経路が被災した場合の備えです。
携帯電話ネットワークを「木」に例えると、端末から基地局への無線が「葉」だとするなら、基地局から交換局などへの経路や、基幹ネットワークは中心部に近づく「枝」「幹」に相当します。
土砂災害や水害で、光回線を使って構築された枝の部分が被災すると、エリアの基地局は機能しなくなり、携帯電話は不通となってしまいます。
これに対し、ドコモでは、マイクロ波という電波を使った「非常用マイクロ伝送」、あるいは、通信衛星を使った「衛星エントランス」といった装置を増備したいとしています。被災した光回線に替わり、電波を使って枝を作って、ネットワークを一時的に立て直すのです。
2016年熊本地震では、このマイクロ波伝送路を利用し、エリアを仮復旧できたケースが1件あったそうです。
また、さらに将来の、災害対策としては「船上基地局」「ドローン」などが検討、実験されています。船上基地局は、船の上に携帯電話の基地局を載せ、沿岸部に携帯電話の通信エリアを展開するというものです。これまで、非常用基地局設備や基地局車を載せた海底ケーブル敷設船を、沿岸から陸上の基地局代わりに使えるか、といった実験が行われています。
またドローンは、遠隔操作できる無人クワッドコプターを使ったもの。2017年の九州大雨災害の際には、人が立ち入れない地域の設備状況確認用に、試験的に使われました。
▲2017年九州大雨で、経路の被災状況などを確認するドローンからの映像(ドコモ提供)
さらに、このドローンを、基地局からの電波を中継する「ドローン中継局」として使う試みもなされています。ドローンに、交換局へのマイクロ回線で結ぶアンテナ、下部に携帯電話とつなぐためのアンテナを搭載し、携帯電話エリアを上空から展開します。
2017年8月現在、この構想に関しては1機の中継局ドローンが試作され、実用化に向け検討が行われているところです。
ドローン基地局(実験試験局)試作機
現在までの実験の結果としては、ドローンはバッテリーが30分程度しか保たない、空中100メートルで展開してもエリア直径150メートル程度にしかならず狭い、という問題がわかっています。
しかし、同じ空から携帯電話のエリアを構築する場合、他社の気球中継局などに比べると、現地到着からエリア構築完了までの手間や時間が非常に少なくてすむというメリットがあるそうです。そのため、今後、積極的に研究・開発を進めていきたいとドコモでは話しています。
潜入:ドコモ通信網の中枢、365日24時間監視のオペレーションセンター公開。システム名「ORTEGA」
体育館ほどの広さのNOCには、壁面に60インチディスプレイが縦4枚 x 横9枚の36枚、対面にも2×9=18枚が並べられています。数十名分あるデスクにもそれぞれ数台のディスプレイ、キーボード、マウス、連絡用の電話などが置かれ、オペレーターたちが通信に異常がないか日々監視しています。
ディスプレイの内容は、それぞれ基地局の状態、通信・サービス(たとえばエリアメール)の状態など。参考としてテレビ放送や全国の天気が写されているディスプレイもあります。
通常、ドコモは、東日本エリアのネットワークをこの品川で、西日本をドコモ大阪南港ビル内のNOCで監視しています。万が一、災害などでどちらかの施設が甚大な被害を受け、機能しなくなった場合、残った方で全国のネットワークを監視できる体制となっています。
壁面のディスプレイに目を向けると、大画面の左側は基地局状況をモニタリングしており、異常や予兆があった場合にその基地局の情報が表示されます。異常の度合いによって、トラフィック量が増えた場合は緑、不具合が発生した場合は赤というようにひと目でわかるようになっています。1行1行が1基の基地局です。
画面を見る限り、日々さまざまなトラブルが発生しているようにも見えますが、説明員によれば、たとえ赤色の行が発生した場合も隣接する基地局がエリアを代わりにカバーしたり、自動化された復旧手順によって復旧したりするため、通信自体には支障はない場合が多いとのこと。
仮に通信に支障がある場合、オペレータが机上のキーボード・マウスでリモート修復手順をおこないます。場合によっては、現地で作業担当者が基地局の調整、交換を行うよう指示も出します。
なお、2011年の東日本大震災の際にはディスプレイがほぼ全てが赤で埋まり、壮絶な状況だったそう。しかし、今後そのような大災害でも「重要通信の確保」や「通信サービスの早期復旧」が行えるように、現在、そして将来に向けて、様々な準備を行っているとドコモの説明員は語っていました。
「中ゾーン基地局」「マイクロ伝送」「衛星エントランス」を配備中
ドコモではこれまで、NOCの東京・大阪への二重化のほか、大ゾーン基地局の導入、衛星移動基地局車・移動電源車の増備、といった現在までに災害への備えを拡充しています。これに加えてさらに取り組みを行っており、そのひとつが「中ゾーン基地局」の全国展開、そして「マイクロ伝送」「衛星エントランス」です。
中ゾーン基地局は、災害時に通常より広い範囲でカバレッジが可能な基地局です。24時間以上の停電に耐える発電・蓄電設備を持ち、基幹ネットワークへの伝送路も複数用意され交換局などへの通信が途絶えないよう設計されています。
▲中ゾーン基地局とは、周辺基地局複数が機能不能となったときもカバーできる基地局です。災害対応設備も持ちますが、普段もエリアの基地局として使われている点が大ゾーン基地局とは異なります。
中ゾーン基地局は、大ゾーン基地局より基地局あたりのカバーエリアは狭いです。しかしその分、災害時の携帯電話の通信量をこれまでより増やせます。災害時でもこれまでより扱える通信量が多くなるため、つながりやすくなる、というわけです。ただし、災害時は緊急通話が最優先。一般の利用者の通話は控えるべきであることに変わりはありません。
2016年の熊本地震では41基が稼働しました。ドコモではエリア回復に使われたこの中ゾーン基地局を、2020年3月までに全国2000カ所以上に増設したいとしています。
「マイクロ伝送」とは、基地局から交換局などへといったネットワーク経路が被災した場合の備えです。
携帯電話ネットワークを「木」に例えると、端末から基地局への無線が「葉」だとするなら、基地局から交換局などへの経路や、基幹ネットワークは中心部に近づく「枝」「幹」に相当します。
土砂災害や水害で、光回線を使って構築された枝の部分が被災すると、エリアの基地局は機能しなくなり、携帯電話は不通となってしまいます。
これに対し、ドコモでは、マイクロ波という電波を使った「非常用マイクロ伝送」、あるいは、通信衛星を使った「衛星エントランス」といった装置を増備したいとしています。被災した光回線に替わり、電波を使って枝を作って、ネットワークを一時的に立て直すのです。
2016年熊本地震では、このマイクロ波伝送路を利用し、エリアを仮復旧できたケースが1件あったそうです。
さらに未来の災害への備え「船上基地局」「ドローン」
また、さらに将来の、災害対策としては「船上基地局」「ドローン」などが検討、実験されています。船上基地局は、船の上に携帯電話の基地局を載せ、沿岸部に携帯電話の通信エリアを展開するというものです。これまで、非常用基地局設備や基地局車を載せた海底ケーブル敷設船を、沿岸から陸上の基地局代わりに使えるか、といった実験が行われています。
またドローンは、遠隔操作できる無人クワッドコプターを使ったもの。2017年の九州大雨災害の際には、人が立ち入れない地域の設備状況確認用に、試験的に使われました。
▲2017年九州大雨で、経路の被災状況などを確認するドローンからの映像(ドコモ提供)
さらに、このドローンを、基地局からの電波を中継する「ドローン中継局」として使う試みもなされています。ドローンに、交換局へのマイクロ回線で結ぶアンテナ、下部に携帯電話とつなぐためのアンテナを搭載し、携帯電話エリアを上空から展開します。
2017年8月現在、この構想に関しては1機の中継局ドローンが試作され、実用化に向け検討が行われているところです。
ドローン基地局(実験試験局)試作機
現在までの実験の結果としては、ドローンはバッテリーが30分程度しか保たない、空中100メートルで展開してもエリア直径150メートル程度にしかならず狭い、という問題がわかっています。
しかし、同じ空から携帯電話のエリアを構築する場合、他社の気球中継局などに比べると、現地到着からエリア構築完了までの手間や時間が非常に少なくてすむというメリットがあるそうです。そのため、今後、積極的に研究・開発を進めていきたいとドコモでは話しています。
潜入:ドコモ通信網の中枢、365日24時間監視のオペレーションセンター公開。システム名「ORTEGA」