出産することを視野に入れて婚活するアラフォー女性は、お見合いを10回したあたりから「婚活疲れ」を起こしはじめ、どんどん負のスパイラルに陥っていきます(写真:Graphs / PIXTA)

「学生時代に仲良くしていた友達は、みんな普通に結婚できているのに、なぜ自分にはできないのか。婚活をすれば、もっと簡単に結婚できると思っていたのに……。こんなに頑張っているのに結婚ができない自分って、どこかに欠陥があるんですかね。なんだか最近、自分がダメな人間に思えてきて仕方がないんです……」


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先日面談にやってきた安田里美(仮名・37歳)は、疲れ切った顔で言った。大手結婚情報センターに登録して2年間活動をし、60回以上のお見合いをしたという。その中で“交際”から“真剣交際”に進展した人は2人ほどいたが、結局結婚には至らなかった。

また、里美は、こんなことも言った。

幸せをつかむための婚活が苦しみに変わるワケ

「最近電車に乗ると、この車両の中に何人結婚している人がいるんだろうって考えちゃうんです。そうすると髪の毛の薄いイケてないヨレヨレの中年サラリーマンが、左手の薬指に指輪をしている。髪型も服装も構っていない小太りの女性が、子どもを抱っこして乗り込んできたりする。ああ、この人たちにできた結婚が、なんで私にはできないんだろう、と思うとすごく落ち込むんですよ」

婚活を続けている人たちの中には、こうした“婚活疲れ”を起こしてしまう人たちが多くいる。本来は幸せな結婚をする相手を探すための婚活。それがただの苦しい活動になってしまうのはなぜか。今回は「婚活疲れ」について考えたいと思う。

里美は九州出身で、高校時代は生徒会の役員をやる優等生だった。地元にいた中高時代は、おしゃれな服を着たりや流行のメークをすることなどテレビや雑誌の中だけで見る“あこがれの世界”だったが、高校を卒業して都内の有名私大に進学してみると、目の前にあこがれの世界が広がっていた。

里見は、夢中でファッションやメークを研究し、田舎の高校生だった自分を一気に変身させた。都会に染まっていく自分が楽しくて仕方なかった。

大学卒業後は、大手の化粧品会社に就職をした。化粧品業界を志望したのは、自分を美しく見せることが大好きだったからだ。明るくて何にでも前向きに努力をする彼女は、会社でも仕事ぶりや人柄が評価され、26歳のときに、会社の花形部署である商品開発部に配属になった。

「毎日が刺激的で、とにかく仕事に夢中でした。大学時代から付き合っていた彼に“そろそろ結婚を考えない?”って言われたんですけど、あの頃の私は、“結婚してしまったら、今の自由がなくなる”って思ってしまったんです。それに、まだまだ彼よりもいい男性が現れてくるような気がした。“もう少し仕事がしたいから”と言っているうちに、なんだか彼との関係もギクシャクしてきて、28歳になってまもなく別れてしまいました」

彼がいながらも、20代のころは仕事で出会った男性から食事に誘われることが多かったし、合コンに行けば必ず、「連絡先を教えて」と男性から声をかけられた。だから、結婚は今焦らなくても30歳になってからゆっくり考えれば十分間に合う――遅くても35歳までにすればいいと思っていた。

ところが、33歳ごろから、周りの景色は一変した。男性から声はかけられるものの、すでに彼女がいる人だったり、既婚者だったりして、潮が引くように付き合う対象となる人が減っていった。

そこで、“なんとか35歳までには結婚できる相手を見つけたい”と思うようになった。これまでは“人数合わせ”や“出会いを楽しむため”の合コンだったが、本気で結婚相手を探す目的で参加するようになり、友達や仕事周りの人たちには、“いい人がいたら、ぜひ紹介してください”と婚活宣言をした。

「そうして合コンや紹介で出会っても、1度か2度食事をすると、自然消滅的に終わってしまう。考えてみると、20代でもそうでした。そういう場で知り合った人たちって、数回食事をすると連絡が来なくなるし、付き合ったとしても3カ月とか半年の短いサイクルで恋愛が終わっていたんですよね」

"結婚したい"と思うほど、身も心も疲弊していく

そうこうするうちに35歳になった里美は、いよいよ焦りだし、“もっとピンポイントで狙える婚活をしないと結婚できないのではないか”と、思うようになった。そこで結婚情報センターに入会した。ところが、お見合いしても、しても、結婚したいと思う人には出会えなかった。

実は、この“結婚したい”という思いが強くなることが、婚活疲れにつながっていくのだ。出会いを楽しむ余裕がなくなり、“結婚相手に出会うこと”により執着をしていく。執着しているのに、うまくいかない。

そうして、真剣に婚活を始めて3カ月ほど、お見合いの回数でいうと10回を超えたあたりから、婚活疲れを起こす人が出てくる。里美のようにそれを2年続けていたら、身も心もほとほと疲弊していく。

「週末になるたびに、お見合いをしにホテルのティーラウンジに行く。ティーラウンジって、ウエーターさんが席まで案内してくれますよね。何度も行っているからもう顔も覚えられちゃってて、“ああ、この女、またお見合いに来てる。まだ結婚できないのか”って思われているんじゃないかなって邪推してしまうんです(苦笑)」

さらに、こうも言っていた。「自分が本気で好きになった人にフラれるならまだしも、お見合いで出会って、可もなく不可もなく。“まあ、頑張ればこの人を好きになれるかなあ”という人に交際希望を出す。それなのに相手からは、お断りがくる。そうすると、“私は、こんな人にさえも相手にされないのか”と絶望的な気持ちになります」。

たかが1時間程度のお見合いで、そこに恋愛感情が入っていなかったとしても、「お断り」をされるというのは自分を否定されることだ。それで傷つかない人間はいない。「まあ、この人でもいいか」と思っていた相手から断られると、なおさらプライドが傷つく。「上から目線」に見えるかもしれないが、婚活で疲弊し切った人にとって、相手の立場で思いやる気持ちの余裕など、もう残っていない。

なお、婚活疲れを起こすのは、男性よりも圧倒的に女性のほうが多い気がする。女性の場合、子どもを持つことを視野に入れて婚活を始める人が多く、 頭の中で“タイムリミット”が設けられるからだ。したがって、結婚相手に出会えないと、ただただ焦って、空回りをしていく。

"普通の人でいいから結婚したい”という難題

里美も、明らかに焦っていた。「これまでは、勉強をすれば成績が上がった。仕事にまじめに取り組めば、それが評価されて花形の部署に配属になった。それなのに、婚活は頑張れば頑張るほど出口の見えないトンネルの中に迷い込んでいくんです。もちろん、頭ではわかっているんですよ。年を取れば取るほど、すてきな男性はもう残っていないし、年々少なくなっていくって。だから高望みしているわけじゃない。普通でいいんですよ、普通で! でも、その普通が見つからない」。

婚活疲れを起こしているアラフォー女性は、みんな里美と同じ気持ちではないだろうか。「高望みはしていない、普通でいい」という。ただ、ここには大きな落とし穴がある。 “見た目”も普通、“年齢”も『普通』、“年収”も『普通』、いわゆる平均値(普通)を求めていたら、その男性は『普通』×3。すべての『普通』がそろっていたら、かなりレベルの高い人になっているのだ。

婚活に疲弊し切っている里美だが、歩みを止めることはしたくないという。そこで1対1のお見合いではなく、1対多数の婚活パーティでの出会いを勧めた。パーティといっても、仲人が自宅を開放して行うホームパーティの要素が強いもの。最後にマッチング結果を発表するのではなく、もう一度会いたい相手を紙に書いて、後から仲人を通じてマッチングしたかどうかを会員に伝える形式にした。

最後にマッチング結果を発表するパーティだと、自分がいいと思った相手が、他の人とマッチングしてしまうと、それだけでテンションが下がってしまうからだ。

里美が参加したのは、私が親しくしている友人の仲人宅で行われたホームパーティ。その結果、身長178センチメートル、やせ型で、俳優の阿部寛似の41歳の男性とマッチッングすることができた。年収も600万円あり、条件としては申し分ない。そのパーティの中でも、際立ってすてきな男性だった。

婚活パーティの場合、マッチングすると後日改めてお見合いをすることになる。私は、お見合いを終えた里美にヒアリングをした。すると、お見合いの席でした里美の会話が、お見合いNGワードを連発していたことがわかり、思わず仰天してしまった。

「この活動をどれくらい続けているんですか?」

ホテルのティールームで着席するなり、里美はパーティでは聞けなかった彼のお見合い活動歴を単刀直入に聞いたという。

「なぜそんなこと聞いたの?」

私は苦笑いしながら、里美に尋ねた。

「それ、彼にも同じことを聞かれたんですよね。だから“あなたみたいに見た目もイケてて、収入もあって、まともに話のできる男性がお見合い市場にいることがおかしい”って言ったんです」

「ええええーっ!?」

何てことを言うのだろう。さらに私は苦笑いをした。

すると、彼は、「登録してまだ1カ月足らずです」と答えたそうだ。そして、「お見合い市場に、僕は珍しい人種なんですか? どういう人が多いんですか?」と聞いてきたという。

そこで、これまで里美はこれまでお見合いをしてきた男性たちの話をした。

「お見合いに来る男性たちって、ろくな人がいないんですよ。私のプロフィールをすべて把握してきて、一つひとつについて細かく聞いてくる。自己紹介のコメント欄に誤字脱字があったことを指摘されたこともありました」

「自分の自己紹介を5分くらいダーッとしゃべって、『今日はなかなかよくできたと思います』と自画自賛。その後は、質問事項を用意していて、まるで尋問みたいに質問攻めをしてきた。それが終わるともうしゃべることがなくなったのか会話が途切れて、チーン」

「着席するなり、『あなたは、群馬まで嫁に来れるんですか?』って。そんなのお付き合いしてみないとわからないですよね。その男性を好きになれるかどうかじゃないですか」

「そのほかにも、自分がいかに仕事ができるか、いかにおカネを稼いているか。『俺は普通のサラリーマンの3倍は稼いでいるんでね』と、傲慢な態度で自慢する人もいました」

お見合いの席で「過去の見合い経験」を語るのはNG

確かに、このように女性とうまくコミュニケーションが取れない男性は、婚活市場に存在している。ほかの女性会員たちからも聞く話だ。ただ、お見合いの席で「どのくらい活動しているか?」「過去にこんな人と見合いをした」という話は、対峙している相手といい関係を結びたいなら、御法度とされている話題だ。案の定、翌日、お見合いした男性からは「お断り」が来た。

ただ、お見合いの席でついこうした“愚痴”をこぼしてしまうのは、里美に限ったことではない。心が疲れていると、マイナスの言葉を発するようになるものだ。

さらに、お見合いを始めたばかりの頃は、髪型にもメークにもファッションにも気合を入れて臨んでいたのに、疲れてくるとおしゃれにも気を使わなくなり、近所のスーパーに買い物に行くようなラフな格好でお見合い場所に現れるようになる。マニュキュアが剝がれていても、靴がボロボロでもお構いなし。そして、顔の中で心の状態をいちばんに表すのが口元だ。これは男も女もだが、疲れてくるとどんどん口角が下がってくる。

お見合いをし続けてもうまくいかない人たちは、会場に出掛ける前にいま一度鏡を見てみてほしい。お見合いに臨む服装や身だしなみは大丈夫か。そして口角は下がっていないか――。「婚活疲れ」が外見や言動ににじみ出てしまうと、結婚はどんどん遠ざかっていくのだ。