中村優一「仕事がもっともっと大切になった」――俳優復帰を経て、新たな想いを胸に刻む。
少しはにかみながら、思っていることをまっすぐに伝えようとする中村優一は、とても純粋だった。自身の性格を「生真面目」と語る中村は、たしかに不器用なのかもしれないが、だからこそ、その人間性に惹かれるのだろう。今回演じる舞台「BRAVE10」の霧隠才蔵は、真田十勇士の「光」の勇士だ。伊佐那海(いさなみ/礒部花凜)の「闇」の力を包む、強くてまっすぐな光──中村がこの役に抜擢されたのは、不器用のなかにあるまっすぐな気概によるものかもしれない。

撮影/川野結李歌 取材・文/とみたまい 制作/iD inc.



霜月かいりさんが描く世界観を大切にしたい



──伊賀の忍者・霧隠才蔵と出雲の巫女・伊佐那海の出会いから始まる、真田十勇士を描いた、霜月かいりさんの人気漫画『BRAVE10』。ファン待望の舞台化ということですが、原作をお読みになられて、中村さんが演じる主人公・霧隠才蔵について、どんな印象を持ちましたか?

ぶっきらぼうだけど、ところどころで出てくる男らしさや、女性に対する優しさは、男として憧れますね。

──「自分に似ているな」と思った部分はありますか?

似て……ないかもしれないです(笑)。どうだろう? でも、かけ離れているわけではないし、絶対に似てるところはあるので、これからもっと読み返していって、自分との共通点を見つけていきたいですね。そのほうが、才蔵に近づけると思うので。

──才蔵は“忍者”ということですが…。

そこまで忍者っぽくないですよね。忍者のわりに、刀がめっちゃデカいですし(笑)。だから、忍者を意識するというよりは、どちらかというと漫画の才蔵のような動き方を真似たいなと思いますね。忍者だとコチョコチョって動きになるけど(笑)、才蔵は堂々としていますから。



──漫画のなかで、気になったシーンはありますか?

“このシーン”っていうのではなく、全体的なことになるんですが……伊佐那海と最初に出会ったところから始まって、最後も伊佐那海とのシーンで終わるので、やっぱりふたりのシーンは大切にしたいと思います。あと、伊佐那海がかわいいなって(笑)。

──真田十勇士の10人はもちろん、漫画『BRAVE10』に出てくるキャラクターは皆バラエティに富んでいますが、いまお話に出てきた伊佐那海も含めて、気になるキャラクターはいますか?

うーん、気になるのは由利鎌之介と猿飛佐助ですね。佐助は、要所要所でキュンとしたり、クスッて笑っちゃうようなひと言を言ったりするところが、「かわいいなあ」って思います。鎌之介は最初、「すげえイヤなヤツだなあ」って思うんですけど、読み進めるうちに、「なんか嫌いになれないな」ってなってきて、最後は「鎌之介好きだな」って思うので(笑)。

──それ、わかります(笑)。

それって、スゴいなと思っていて。なかなか難しいじゃないですか……。「ちょっと面倒くさそうでイヤなヤツだな」から始まって、途中途中で「面倒くさいけどかわいいな」って思わせて、結局「好き」って。読んでる人の気持ちをそうやってつなげていくって、難しかったりするのかな? って思うので、そういうふうに思わせる霜月かいりさんはスゴいですよね。




──主人公である才蔵の描かれ方も絶妙です。

そうなんですよね。才蔵は巻き込まれた感じで……物語を通してずっとそうなんですけど(笑)、伊佐那海と出会っちゃったところから、いろんな人たちが現れて、気がついたらそのなかに入っていて。でも、そこが漫画『BRAVE10』のいいところだなって思うんです。

──というのは?

飽きないうちに、新しいキャラクターがもう出てきちゃうのか! って。出し惜しみしてないところが、僕は素敵だなと思って。だから読んでいて飽きないし。僕は6巻から8巻が、アツく読めたんですね。

──怒涛の展開ですよね。

そうなんです。だから最初、「6巻からラストスパートみたいな感じじゃん!」って心配になって(笑)、「ここからどうやって回収して、最後に持っていくの?」って思ったんですけど。そこから……6巻から手が止まらない(笑)。1ページ1ページ、「次どうなってるの?」って読みたくなるような最後だったので、僕は大好きですね。

──原作を読んでいて、「これをどうやって演じようかな?」って思ったりしませんか?

そうですね……才蔵は巻き込まれていくほうなので、そこをヒントにやっていきたいなと思いました。いろんな人に巻き込まれて、最後は「自分が助ける!」ってところをめがけていきたいですね。

──原作の独特な世界観を、舞台でどのように表現していくのかなと、いまから楽しみです。

かいり先生は1ページ1ページ妥協せずに、本当に細かいところまで描かれてるじゃないですか。その想いがもう漫画から伝わっていると僕は思うので。だから、まずは漫画をちゃんと読んで、かいりさんの想いや気持ち、かいりさんの世界を大切にして頑張れたらと思いました。TVアニメはまだ拝見してないんですけど、これから観て、勉強していこうと思っています。



人間が演じるエネルギーを、生で届けられる舞台の魅力



──TVアニメで放送された作品を舞台で演じられるのは、なかなかプレッシャーもあり、難しいと思うのですが。

うーん、そうですね。でも、漫画『BRAVE10』が好きな人はおそらくTVアニメも観ていると思うので……身体の動きや声も、できるだけ似せられたらいいなっていう気持ちもありますね。

──逆に、TVアニメでは表現できない舞台の魅力とは、どこにあると思いますか?

僕たちはやっぱり人間なので、人間が動いてしゃべって……感情もあるので、そういった部分をお客様に届けたいと思いますね。エネルギーを生で届けられるっていうのが、人間が演じることの良さだと思うので、そこを大切に……観に来ていただいた人たちに、何か思っていただいたり、感動していただければいいなと思っています。

──今回、中村さんが座長ということで。プレッシャーなどはいかがでしょうか?

最後の挨拶が緊張しますね(笑)。今回、僕はもう「本日はありがとうございました」しか言わないつもりでいるんですよ。長くしゃべろうと思うと、素の部分が出すぎてしまうので。僕は、ちゃんと舞台「BRAVE10」の世界観で終わりたいので、「ありがとうございました」って、みんなでお礼をして終わるのがいいなって思います(笑)。



──すでに挨拶のことを考えているとは…(笑)。

座長の挨拶が一番緊張するんですよ(笑)。経験もまだまだ浅いので、「僕が座長をやっていいのか?」って思うこともありますが、自分が精一杯頑張っていれば……そういうところでしか示せないので、とにかく一番頑張ることだけは忘れずに、常に緊張感を持って、ダラダラしないでやりたいなと思います。

──舞台化ということで、衣装もとても気になります。

めちゃくちゃ凝ってますよね。先日、第一弾のビジュアル撮影があって。まだ上半身とメイクとウィッグだけでしたが、僕、すごい意気込んでいたんです。かいり先生にも間近で見ていただいて…。

──霜月さんがいらっしゃったんですか?

そうです、そうです。それで、ポーズや手の動きとかのアドバイスをいただいたので、心強かったですね。「それのほうが、才蔵っぽいかもね」とか、「こういうのがカッコいいね」とかって感じで……。原作者に言っていただく機会って、なかなかないじゃないですか。だから、いろいろ話せていい時間でしたね。全体でのビジュアル撮影も見に来られるとおっしゃっていたので、ありがたいです。



──フィッティングしたときの、ご自身の“才蔵”感はいかがでしたか?

やっぱり外見から変わると気持ちも変わってきて、なんかちょっと近づけた感があって嬉しかったですね。あとは、刀とかを早く持ちたいです(笑)。ビジュアル撮影が楽しみですね。

──いわゆる“2.5次元”といわれる舞台の出演は、『薄桜鬼SSL 〜sweet school life〜』、『ReLIFE』に続いて今回が3本目となりますが?

2.5次元っていうことは、あまり考えたことがないかもしれないですね。「舞台」という形でしか捉えていないかもしれません……。舞台上で演じて、生で届けて観ていただけるものが舞台だと思うので。2.5次元というよりは、この原作の舞台だなっていう認識ですかね。ただ、今回の作品は原作もTVアニメもあるので、難しいですよね。

──というと?

原作がないオリジナルの作品だと、自分に少し似せることができたり、自分の近いところで演じることができる場合もありますが……原作があると、「この役はこういうキャラクターです」って絞られるので、そういう意味では難しいと思います。




舞台がすごく好きになって、考え方が変わってきた



──2017年の中村さんはとてもお忙しくされている印象です。ずっと舞台が続いていて、ジャンルもそれぞれ違うということで、スッと切り替えることができるのでしょうか?

直前までやっていた舞台については、勝手に忘れていきますね。あとは、あんまりそういうことを考えないようにしてる(笑)。「切り替えなきゃ」って考えてると、逆に切り替えられないので。流れに身を任せたほうが(笑)、いいんじゃないかなって思っています。

──あまり悩まないタイプですか?

悩む……「悩む」っていう言葉を、忘れる(笑)。

──そういう性格なんでしょうか?

いや、性格的には悩むほうなんで……だから「悩む」っていう言葉自体を忘れて、まずは体当たりでいってしまって。そうすると、気持ちや心が切り替わってくると思うんですよね。まずはやってみて、あとは流れに任せれば、結局その舞台に染まるんじゃないかなって思っています。



──最初から、そういう考え方でしたか?

いや、最初からではないです。本当に最近ですね。僕の場合は一度俳優を引退して、3年前くらいに復帰したんですね。引退する前はあまり舞台の経験がなくて、復帰してから舞台のお仕事をいただくようになって……僕自身、舞台がすごく好きになって、いろんな作品を観るようになって。それで、考え方が変わってきました。

──もともと、俳優になりたかったんでしょうか?

それが……小学生のときからずっと、美容師になりたいと思っていたので、まさか自分がこうなるとは思っていませんでしたね。「わかる人、手を挙げて」とか「やりたい人、手を挙げて」とかって言われても、絶対に手を挙げないタイプだったので。あとは、目立たないような係……掲示係とかをやってたんで(笑)。

──掲示係ですか?(笑)

ただ貼るだけ、みたいな(笑)。だから、まさか自分がこうなるとは思わなかったですね。『仮面ライダークウガ』(テレビ朝日系)が面白くて観ていて、変身してる姿を、「カッコいいなあ!」って思っていた自分が、まさか『仮面ライダー』のオーディションを受けることになるなんて。「観てたものを、自分が受けるんだ」って、すごい不思議な気持ちになりましたね。



──人前に出ることは、イヤではなかったっていうことですか?

イヤではないというか、意外とそうですね……いまやってることを考えると、出たいんだろうって(笑)。本能はそっちにあるんだろうと思いますけどね。わかんないですけど、人って難しいですね(笑)。

──ですね(笑)。ご自身のことを、どんな性格だと思いますか?

どんな性格……どうなんだろう。

──さきほど、“悩むタイプ”というお話もありましたが?

ああ、でも「生真面目だな」って思うときがあります。なんかもうちょっと、ダラけたりできたらラクなのになって。自分でこう言うのもおかしいんですけど(笑)、変なところが真面目すぎて、自分に疲れちゃうときがあります。