籠池氏vs昭恵夫人、証言食い違うも森友学園問題の本質は100万円寄付ではない!
「いまのところ籠池氏の作戦勝ちといえるでしょう」
と政治評論家の有馬晴海氏は苦笑いする。ジャッジの理由はこうだ。
「籠池氏は昭恵夫人との親密な関係を示す証拠のつもりで、内閣総理大臣夫人付の政府職員から送信されてきたファクスを出したとみられます。証人喚問での堂々とした受け答えもあって、その狙いは当たりました。籠池氏はとてもウソをついているようには見えないという声が意外と多いんです。真相が解明されたわけではないのに不思議な現象です」(有馬氏)
大阪府豊中市の小学校創設をめぐって国有地が破格の安さで売却された問題で、学校法人『森友学園』の籠池泰典理事長(64)は23日、国会の証人喚問に応じた。衆参両院の予算委員会で約4時間半。宣誓書の署名で手が震えることもなくサラッと名前を書いて印鑑をポン。警察官僚出身の自民・葉梨康弘衆院議員が取り調べするように矢継ぎ早に追及すると、「先生(の質問は)、たたみかけるようで私に失礼と思う」と切り返すなど、随所で籠池節が炸裂した。
籠池氏によると、問題のファクスは2015年11月17日に安倍昭恵夫人(54)付の秘書役の谷査恵子氏が送ってきたもの。谷氏は経産省官僚で、当時は出向して公務にあたっていた。籠池氏が国有地の買い上げ条件として定期借地契約の期間を延長できないかと昭恵夫人の携帯電話に留守電メッセージを残したところ、谷氏から回答があったという。籠池氏はファクスを読み上げた。
昭恵夫人からの返信FAX
《財務省本省に問い合わせ、国有財産審理室長から回答を得ました。大変恐縮ながら国側の事情もあり、現状ではご希望に沿うことはできないようでございますが、引き続き、当方としても見守ってまいりたいと思います》
安倍首相は国会で「私や妻が(国有地払い下げや認可に)関係していたということになれば首相も国会議員も辞める」と明言している。
質問した民進・枝野幸男衆院議員は、「昭恵夫人に依頼し、それが秘書に振られ、秘書から回答があったということか。首相が従来話していたことと全然違う。事実と違うことがあれば偽証罪に問われる。間違いないか」などと確認した。
籠池氏は、「間違いありません」と言い切った。
このファクスをめぐっては、午前中の参院予算委で籠池氏が触れており、野党が色めき立った経緯がある。しかし、持参した茶封筒の中にファクスの現物がなかったため、午後の衆院予算委では準備してきたという自然な流れだった。
一方、自民・公明の与党議員は、証言の綻びを誘う質問をぶつけ、世間に“籠池氏はウソつき”と印象づけることにしゃかりきだった。余計に籠池氏の振る舞いが落ち着いて見えた側面もある。
自民・西田昌司参院議員が、学園の資産状況を問い詰めて「お金がないのに小学校の設置認可を申請したのが、この問題の本質なんです」などと断じると、籠池氏は、
「問題の本質は口利きがあったかどうかで、議員の質問は的外れであります」
と、やり返した。役者が一枚上手だった。
安倍首相から100万円の寄付を受けたとする日についての証言もまた、やたらリアリティーのある内容だった。
「平成27(2015)年9月5日、昭恵夫人の講演会開会前に園長室で話しました。夫人はカバンの中から封筒を出されまして“1人でさせてすいません。どうぞ”ということでいただきました。上のほうから拝見したところ、金子(お金)が入っていました。“これはいいんでしょうか”と尋ねると、“安倍晋三からです”とおっしゃいました。いただく前には、(夫人の)秘書も同席していましたが、(昭恵夫人が)お人払いをされました。土曜日だったので100万円と確認して金庫に入れました。月曜日に近くの郵便局に行きました」(籠池氏)
100万円の寄付をめぐっては、同額の講演料を昭恵夫人が固辞し、それを寄付として扱ったのではないか─とする見方があった。しかし、籠池氏は「事実は小説よりも奇なり、でございます。私の言っていることが正しい」と自信たっぷりに言った。
昭恵夫人が帰るときには、講演料として封筒に「感謝」と銘を入れて10万円を渡したという。
「えーひどい。ひどすぎます」
昭恵夫人は23日、フェイスブックで反論した。
《私は、籠池さんに100万円の寄付金をお渡ししたことも、講演料を頂いたこともありません。この点について、籠池夫人と今年2月から何度もメールのやりとりをさせていただきましたが、寄付金があったですとか、講演料を受け取ったというご指摘はありませんでした。私からも、その旨の記憶がないことをはっきりとお伝えしております》
しかし、昭恵夫人はメールで籠池夫人に対し、「私は講演の謝礼をいただいた記憶がなく、いただいていたのなら教えていただけますでしょうか」「本当に記憶が飛んでしまって」と問い合わせている。要するに覚えていないだけであって、講演料をもらっていないという確かな記憶があるわけではないということ。籠池夫人は「えーひどい。ひどすぎます」と指摘している。
いずれにせよ、両者の言い分は真っ向から対立している。野党は真相究明のため昭恵夫人の証人喚問を求めた。
前出の有馬氏は言う。
「昭恵夫人が籠池氏と同じ証人喚問で説明するのが国民にはわかりやすい。しかし、なかなか応じることにはならないでしょう。証人として国会に立てば、野党議員から脇の甘さを揺さぶられ、“この問題で首相とケンカしたか”などと余計なことまで突っ込まれるかもしれない。政権にダメージを与える可能性があります」
籠池氏の証言はリアルすぎて、政治のウラを垣間見たような気にさせる。しかし、政治とカネに詳しい日大法学部の岩井奉信教授は「安倍首相も昭恵夫人も、ポケットマネーからであれば仮に寄付をしていたところで法的には何の問題もない」と話す。
「公職選挙法は選挙区での寄付を禁じています。安倍首相は一国の総理であっても、公選法上は山口県選出の国会議員ですから、大阪の森友学園への寄付は問題ありません。ただし、もしお金を政治資金から出していたら話は別。政治資金の趣旨と違うので道義的責任が生じる。また寄付が政治資金収支報告書に記載されていないので、虚偽記載に当たります」(岩井教授)
昭恵夫人が夫人付の政府職員を使って、財務省に問い合わせをしたことは役人の忖度を誘発する行為ともいえる。口利きにはならないか。
「“口利き”という言葉は悪く聞こえますが、陳情を受けて役所に問い合わせをするのは政治家の一般的な業務です。ただし、口利きの対価として金銭のやりとりがあった場合は、あっせん利得や収賄に問われます。献金を受けたとか、パーティー券を買ってもらったとか」(前出・岩井教授)
「祈ります」と連発
そもそも、昭恵夫人は講演料をもらっていないと主張しているのだからビビる必要はない。むしろ追い込まれているのは籠池氏のほうである。籠池氏は証人喚問で、金額の異なる3つの工事請負契約書については「刑事訴追されるおそれがある」として証言を拒んだ。しかし……。
「間違いなく刑事訴追されると思う。未払い工事費など約18億円の負債を抱えて破産でしょう」(前出・有馬氏)
籠池夫人とのメールで「権力使うなら死にます」などと責め立てられ、ひたすら「祈ります」を連発した昭恵夫人。祈る時間があったら国会に出て話してほしい。教育勅語を暗唱させる籠池ファミリーのやり方に共鳴し、小学校の名誉校長就任を引き受けたのは昭恵夫人なのだから。