“お金をかけない”英会話習得術
英会話スクールへ通うには、1回8000円程度の出費が必要だ。なんとか安くならないものか。調べてみると、教会では「タダ」で英会話教室が開かれているという。潜入してみると──。
■教徒になるようにと強要されるか
渋谷区の小さなビル。水曜日の19時になると、そのビルに人が集まってくる。末日聖徒イエス・キリスト教会(モルモン教会)が行う無料の英会話教室「GOeigo」のレッスンを受けるためだ。
筆者もそのレッスンを受講してみた。初級と中級、上級のコースが設けられており、中級のクラスを選んで教室に入る。こぢんまりとした教室の中には15人ほどの生徒がイスに座っている。講師として若い男性が2人。どちらも米国から日本に来ているモルモン教会の宣教師だ。レッスンを受ける前、筆者は少し怖がっていた。「無料で英会話を教えてくれるのにはきっと裏があるに違いない。モルモン教徒になることを強要されるのではないか」と。
レッスンは短いお祈りからスタートする。それに続いてモルモン教の教えが説かれるのかと思いきや、お祈りの後は至って普通の英会話の授業が行われた。レッスンの前半は、講師による同音異義語の説明。そして後半は、受講者同士がその日のテーマに沿った英会話をやり取りする。この日のテーマは「あなたの最も恥ずかしい瞬間は何ですか?」と、「もし休暇が取れるとしたら、あなたはどの国に行きますか?」。潜入取材であることを忘れ、一生懸命に英語を話しているとあっという間に1時間半が過ぎていた。最後に講師が2分ほど道徳的なことを話し、再びお祈りをしてレッスンは終了。その後も勧誘されるようなことは一切なく、筆者の心配は杞憂に終わった。「この英会話教室は使える。しばらく通ってみようかな」。家へと向かう足取りは、ずいぶん軽くなっていた──。
ウェブサイトプランナーのROCK氏は、GOeigoを活用してTOEICの点数を飛躍的にアップさせた。ROCK氏がGOeigoの教室に通う前のTOEICの点数は500点だったが、4年後には965点を取るまでになった。特にリスニングに関しては満点だったという。有料の個人レッスンも受けていたため、一概にGOeigoだけの成果とはいえないが、「GOeigoで学んだことは正解だった」とROCK氏は考えている。
4年ほど教室に通ったが、勧誘らしいことはほとんどなかったという。「私の通ったクラスではお祈りも道徳的な話も行われませんでした」とROCK氏は話す。GOeigoの教室は、全国に262ある。そのため、教室によって違いはあるだろうが、ROCK氏と筆者が学んだ教室に限れば、宗教色はかなり薄いといえる。
GOeigoのいい点は、何といってもネーティブスピーカーによる英会話の授業を受けられること。もちろんマイナス点もある。例えば教える人がプロの講師ではないこと。「有料の英会話教室ならば受講生の話す時間を公平に分けるのでしょうが、GOeigoのクラスでは一人がずっとしゃべり続けるようなことがありました」とROCK氏。
無料で受講できるため、モチベーションを維持するのが難しいともいう。例えば、雨の日には教室に向かう意欲が落ちてしまうといったことなどだ。
「ただ、そこで頑張って教室へ行くと、受講生が少ないため、自分が話す時間が長く取れるというメリットもあります」(ROCK氏)
■外国人の友人をどんどんつくる方法
プロブロガーのDAI氏は、言語交換(ランゲージエクスチェンジ、以下、交換学習)を通して英語を身に付けた。交換学習とは、お互いの母語を教え合う学習法で、基本的に無料で行われる。交換学習の相手を探すためのウェブサイトは複数あるが、日本に興味を持つ人が集まる「ジャパンガイド」が初心者にはおススメだという。
「ジャパンガイドには、日本語をうまく話せる人が集まるため、初級レベルの英語力でもコミュニケーションを取りやすい。日本語に対応していることも初心者にはありがたいですね」とDAI氏は話す。
ジャパンガイドに集まる人の多くは外国で暮らしている。そのため、チャットやメール、電話などが主なコミュニケーション手段となる。
ジャパンガイドの利用者の中には留学生など日本に住む人もいて、そういった人とはリアルに会って話をすることも可能だ。DAI氏は2014年に交換学習をスタートし、現在も8人の外国人とのコミュニケーションを楽しんでいる。8人とも海外で暮らしているため、リアルに会って話すことはないが、毎日、チャットなどで連絡を取り合っているという。
「毎日メッセージを送り合うことで、英語で考えるくせが付き、英語を勉強しているという意識がなくなってきます。英語が生活の一部になるのですね」(DAI氏)
交換学習のメリットは、外国人の友達をつくれること。一方、デメリットは相手がどんな人だかわからないこと。特に女性はそのことに気をつける必要があり、「少数ではありますが、卑猥な言葉や写真を送りつけてくる男性がいることをあらかじめ知っておいたほうがいいでしょう」とDAI氏は言う。
日本在住の米国人の友人と交換学習を行っている英語学習スタイリストの石原真弓氏は、「交換学習の難しいところとして、日本語の説明の仕方が挙げられます」と話す。例えば、1本、2本、3本と数えるとき、イッポン、ニホン、サンボンと言うのはなぜか。日本人ならば感覚的に理解できることでも、外国人に説明するとなるととても難しい。
また、相手に教える時間と相手から教わる時間の比重に偏りが生まれることもある。「お互いに嫌な思いをしないように、きちんと話し合うことが必要です」と石原氏はアドバイスする。
■なぜ旅行会社が英会話講座を開くのか
無料のカルチャースクールで学ぶという手もある。例えば、阪急交通社が行っている「阪急たびコト塾」では、旅行で使う英会話講座を無料で開催している。
「阪急交通社のファンを増やすために行っているので、参加した人が当社のツアーを申し込まなければならないなどといったことはまったくありません」。阪急交通社 東日本営業本部 統括部 東日本予約センターフロント営業課課長の阿部一隆氏は話す。平日の昼間というビジネスパーソンにとっては受講しにくい時間に開催されているが、休みが取れた日などに受講してみるのもいいだろう。なお、受講するためには予約が必要なので注意したい。
また、全国各地にある国際交流センターの中には、無料の英会話クラスを開催しているところもある。そうしたところを利用するのもひとつだろう。
「無料で英語を学ぶ際に重要なのは、割り切ること。自分が本当に必要とする勉強ができなくても、それに近い勉強ができればいいと割り切ることが必要です」。石原氏はこうアドバイスする。
まずは無料で英語を学ぶ方法にトライし、それだと学べないことがあると感じたら有料の英会話教室などにも通ってみる──。そんな軽い気持ちで始めてみてはどうだろうか。何といっても、お金はかからないのだから。
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▼無料でもここまで学べる! 自分に合う学び方を探してみよう
●教会
例 :「GOEIGO」
概要:末日聖徒イエス・キリスト教会の宣教師によって管理、運営されている完全無料の私塾。
規模:全国262教室
内容:「英検スピーキングコース」「TOEIC英語実践コース」「英会話コース」があり、開講されているコースの種類は、各教室ごとに異なる。渋谷校の場合、英会話コースが毎週(水)19時〜20時30分、英検スピーキングコース/TOEIC実践英語コースが毎週(金)19時〜20時30分
●カルチャーセンター
例 :「阪急たびコト塾」
概要:旅行会社の阪急交通社が開催。旅行に役立つ知識、より旅行を楽しむための情報を伝える。
規模:東京、名古屋、大阪、福岡、新潟、高知
内容:【東京】英会話講座〜入門「道の聞き方編」、「ホテルチェックイン編」など
【大阪】旅に役立つ英会話《食事&レストラン編》、《マナー&トラブル編》、《出発からホテル到着編》、《ホテル滞在&自由行動編》など不定期開催、各60〜90分
●交換学習
例 :「ジャパンガイド」(ウェブサイト)
概要:日本の旅行情報や生活、文化情報を集約した訪日外国人向けの日本情報ポータルサイト。日本の文化やアニメなどに興味を持っている人が集まっている。
規模:毎月160万人の外国人がアクセス
内容:交換学習の相手を探すには、募集ページ(http://www.japan-guide.com/local/jp/index_j.html)で会員登録後、「言語交換」もしくは「ペンパル・友達」をクリックする。
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(ジャーナリスト 百瀬 崇 百瀬 崇=取材・文 amanaimages=写真)