ひとり別次元のマリノス齋藤学、シビれるプレーで「左サイドを制圧」
「楽しかった」
2017Jリーグ第2節、コンサドーレ札幌戦後だった。この夜、無双を誇った齋藤学(横浜F・マリノス)はそう洩らしている。簡潔だが、素直な感想だろう。
コンサドーレ札幌戦で3得点すべてに絡む活躍を見せた齋藤学「サッカーを楽しみたい。自分がピッチで心から楽しめているか。その姿を観ている人に伝えたい」
齋藤はそれを一番に心がけ、日々を過ごしてきた。おかげで、”人を楽しませる”境地に達しつつある。このレベルの選手をJリーグで拝めることを喜ぶべきだろう。
齋藤は開幕戦で浦和レッズを打ち破った直後、すでに次節の札幌戦に思いを巡らせていた。浦和戦は左サイドで元日本代表の森脇良太を翻弄。そんな事実に、少しも満足を覚えていなかった。
その札幌戦の齋藤は、ひとり違うステージに立っていた。
5-3-2の人海戦術で砦をこしらえた札幌を相手に、まったく焦らない。左サイドにポジションを取り、陣形の外側にこつこつとダメージを与える。密集地帯を、連係を使って縦に破るだけでなく、中に切り込んで右足で巻く際どいシュートを放つ。そうかと思うと、速いタイミングで味方に出すことでディフェンスの判断を絞らせず、守備ラインをたわませていく。
そして後半2分だった。
齋藤は左の大外にポジションを取って敵を引きつけると、ボールをキープしながらタイミングを計って左中央に入ったダビド・バブンスキーへパスを送る。エリア内で、ダイレクトで蹴り込むイメージのボールを、バブンスキーが左足で合わせた。齋藤は外に開くことで中を空け、そこに味方を走らせ、絶妙のパスでシュートを演出したのだ。
「練習初日でマナブのクオリティの高さは分かったよ。ドリブル、パス、シュート。どれもね」(バブンスキー)
お互いが高いレベルで連係した、痺(しび)れるようなプレーだった。
「左サイドを制圧します」
試合前から齋藤は語っていたが、まさに左サイドが戦術軸になっていた。先制点だけでなく、ほとんどが左で崩す展開。54分には齋藤が相手ディフェンダーから敵陣でボールを奪い、そのままシュートに持ち込み、GKが弾いたところを富樫敬真が抜け目なく押し込んだ。73分には、齋藤が左奥に出したボールを天野純が折り返し、ウーゴ・ヴィエイラが中央で華麗に合わせた。
「学くんは必ず見てくれている。ドリブルをしながら、相手に突っかけながら自然に出したいようなので。そこは信じてポジションを取ってます」(富樫)
その信頼関係に、横浜の連係のよさが生まれているのだろう。
今シーズン、横浜は右サイドの攻守のレベルが目に見えて低下した。昨季まで所属していた右SB小林祐三の不在が大きいのは明白だろう。右MFマルティノスはタクティカルスキルが低く、ビジョンが狭いため、ためを作れず、しばしば突っ込むだけ。そのせいで、新加入の右SB松原健も目を覆うようなミスを繰り返している。
しかし、今シーズンからキャプテンになった齋藤は力強く言う。
「新しく入ったわけだし、若い選手だから、これから。そこは自分が補っていけばいい。みんなのいいところを出しながら、いいチームにしますよ」
そんな言葉を裏付けるような「左サイドの制圧」だった。左から押し込むことで、右サイドの崩れを最小限にしたのだ。
そこまで齋藤が進化を遂げられた理由は、やはりサッカーとの向き合い方にあるだろう。自分の身体をいかに思い通り動かせるか。そのために古武術や食事療法など、興味を持ったら積極的に試してきた。たくさんの本を読み、気になる人物とは交流を深めている。
すべてがサッカーのためで、その点の上昇志向は人一倍強い。
昨シーズンはあえて20ゴールを目標に掲げ、シュート精度の向上に取り組んだ。居残り練習では、若手選手に付き合ってもらい、パスを受け、GKを相手にシュートを打ち続けた。反復の中で同じところを狙って蹴ったり、逆をつき、角度を見つけ、ポイントを会得する練習に励んだ。
「でも、点を取る作業だけではなくて。そこに行くプロセスも好きなんですよ。ゴールはどう生まれているのかを考えて、継続して練習するのが大事で」
たゆまぬ日々の積み重ねが、今の爆発を生んでいる。リーダーとして、昨シーズン以上に若手を叱咤するようにもなった。戦う姿勢はチーム内に伝播し、渦になりつつある。
「優勝しているマリノスの姿を見せたい」
齋藤は個人タイトル以上に、チームタイトルに意欲を見せる。なぜなら、自身が少年時代、Jリーグ王者になったマリノスにあこがれを抱いたからだ。そこで与えてもらった夢を、今度は自分のいるチームで還元するために──。齋藤はピッチで楽しみ続ける。
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