9年在籍した清水のサポーターから「“怒り”は聞こえてきた」と言う。いわゆる“0円”で清水からデュッセルドルフへ移籍をしたが、清水は移籍金を払って買い戻した。そういった経緯があるにもかかわらず、今回もまた同じような形でクラブに資金を残さず出ていったのである。その点を考えれば、湧き出る怒りも納得できる。
 
 大宮側からの期待感と、清水方面からの怒りの声という非なる2つのプレッシャーに挟まれてプロ10年目の舞台に大前は挑むことになった。その中で、清水サポーターからのブーイングについては「絶対にされる」と覚悟をしている。
 
 だが、「大宮のユニフォームを着て日本平で戦って、自分がしっかり点を取って勝てたら、そこまで気持ち良いことはない」と言い切った。そこに情けは無い。
 
 かつて高校サッカーを湧かせたストライカーも、今年で28歳を迎える。中堅にさしかかるこの時期に決断した新たな挑戦の先に見据えるのは、代表入りだ。
 
「個人的にもずっと代表を目指してやってきたし、そういう意味でも環境を変えたかった。ここで活躍して上の順位にいけばそういう道も開けてくる」
 
 様々な声と感情が周囲から浴びせられるなかでプレーするのは容易ではない。だが、それを越えた先にさらなる成長があるということを、大前は確信している。
 
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)