鉄道とは違い、海外の会社とも調整をする必要がありそうな航空ダイヤ。その作成は、どのように行われているのでしょうか。世界的な会議、変化する気象状況などが、その背景にありました。

世界の航空会社が一堂に集まる会議

 国際線もある航空機。ダイヤの作成にあたっては、海外の航空会社とも調整する必要がありそうです。いったい航空ダイヤは、どのように作られているのでしょうか。日本航空(JAL)路線計画部 国内路線計画グループの河本 健アシスタントマネジャーに話を聞きました。

東京の「空の玄関」羽田空港。毎日、国内外各地を結ぶ多数の航空機が発着する(2016年3月、恵 知仁撮影)。

――航空ダイヤはどのくらいの頻度で改正されるのでしょうか。

 国際航空運送協会(IATA)では、おもに欧州で導入されているサマータイム期間に合わせて、3月末から10月末までの約7か月間を「夏ダイヤ」、10月末から3月末までの約5か月間を「冬ダイヤ」と定めているため、大きなダイヤ改正は年2回実施します。

――羽田空港など、国内線も国際線も運航されている場合、国際線ダイヤを先に作成するのでしょうか。

 国際線、国内線の区別なく、混雑している空港に就航する航空会社のダイヤが最初に決定します。IATAでは、全世界の空港を混雑度合いに応じて「レベル1」から「レベル3」に分類しており、日本国内では羽田空港、成田空港、福岡空港が最も混雑度合の高い「レベル3」に分類されています。

「レベル2」と「レベル3」に分類される空港については、世界中の民間航空会社のダイヤ作成担当者と、乗り入れ空港の出到着時間値の調整役(コーディネーター)が一堂に集まる会議において、調整がなされます。その調整状況や結果をもとに、各航空会社はダイヤの作成を開始します。

国内線ダイヤが海外航空会社のおかげで?

――世界中の航空会社のダイヤ作成担当者が一堂に集まる会議とは、どのようなものなのでしょうか。

 毎年2回開催され、2016年はドイツのハンブルグ、アメリカのアトランタで開催されました。世界共通のIATAガイドラインに準拠しつつ、航空会社のダイヤ担当者が乗り入れを希望する各混雑空港の時間調整を、混雑空港を担当するコーディネーターと調整します。

――希望通りの発着時間帯にならないこともあるのでしょうか。

 基本的には各航空会社の運航実績が優先されますが、海外の空港へ新たに乗り入れる場合などは、受け入れ国側の制約によって、乗り入れ自体が認められないケースや、認められても希望したダイヤの時間帯にならないこともあります。日本では、特に羽田空港はほぼ満杯状態で、管制処理能力の観点から5分、15分、30分、1時間の規制値が設定されており、5分の設定時間変更でも難しい調整が発生します。

 かつて、羽田空港を出発する国内線のある路線のダイヤを、よりお客さまの利便性向上に寄与できるよう改善するため変更を試みたところ、スムーズに希望通りの出発時間帯になったことがありました。時刻表を見ると、その時間帯に出発していた海外の航空会社の運航ダイヤが変わっていました。つまり、海外の航空会社がダイヤを変更し、そこにちょうど入れたわけです。5分の設定時間変更が難しい羽田空港でも、このように海外の航空会社を含めて2社間、3社間などで希望がうまく合致すれば、ダイヤ変更がかなうことがあります。

新幹線「かがやき」が走らない時間帯にも

――国際会議で調整された発着時間帯は全て使用しているのでしょうか。

 基本的にほぼ全て使用していますが、出発する混雑空港で希望するダイヤになったとしても、到着する混雑空港で希望するダイヤとならない場合は、乗り入れを断念することもあります。

――調整された発着時間帯は、どのように活用していくのでしょうか。

 国内線については、地上交通機関のダイヤも加味してダイヤを調整しています。たとえば羽田〜青森線は、2010(平成22)年に東北新幹線が八戸〜新青森間で延伸開業しましたが、航空機のダイヤを工夫することで朝イチの羽田空港発は、始発の新幹線よりも早く青森へ到着するように、最終の青森発は新幹線の最終よりも遅く出発することで、お客さまの利便性を少しでも高められるように工夫しています。

 羽田〜小松線も、2015年に北陸新幹線が長野〜金沢間で延伸開業しましたが、新幹線「かがやき」(※編集部注:北陸新幹線のうち所要時間が短い列車)が運行されていない時間帯のダイヤを大切にし、お客さまに複数のご移動の選択肢を提供できるようにしています。

 そのほか、羽田〜大阪(伊丹)線や羽田〜札幌線、羽田〜福岡線といった利用者の多い路線は、大阪着便や札幌着便は毎時30分に羽田を出発、羽田到着便の大阪発便や札幌発便、福岡発便は毎時00分や30分に現地空港を出発する覚えやすいダイヤにすることで、ビジネスでも利用しやすいように工夫しています。

ダイヤ調整をしなければ、九州から羽田は早着ばかりに

――各路線の搭乗ゲートはどのように決めているのでしょうか。

 羽田空港などの場合、お客さまがご搭乗される航空会社の搭乗ゲートを判別しやすいよう、どの搭乗ゲートをどの航空会社が利用するかは、ほぼ決まっています。

――羽田空港から地方へ向かう路線などの場合、搭乗ゲートからバスで航空機へ向かうことがありますが、なぜでしょうか。

 まずある程度、搭乗ゲートごとに駐機できる航空機のサイズが決まっています。そして、定員数が多いボーイング777型機などの大型機はほかの機体よりも搭乗に必要な時間が長くなることから、手荷物検査場から近い搭乗ゲートを使用することで、定時に出発できるように工夫しています。搭乗ゲートの割り当てについては、幹線か地方路線かどうかよりも、その便にどのようなサイズの航空機が使用されるかによります。

羽田空港の搭乗ゲート(2015年10月、恵 知仁撮影)。

――ダイヤを作成するうえで苦労しているポイントなどを教えてください。

 混雑した空港のダイヤ(時間値)調整だけでなく、各空港の運用時間や滑走路の規制、駐機場の制約を考慮したダイヤ策定をしつつ、便ごとに適切なサイズの航空機の配置、ダイヤの利便性、定時性などの品質を考慮したダイヤ策定を、ほぼ自社のダイヤ調整のなかで完結させる必要があり、毎回、頭を悩ませています。

 例えば、定時性向上を図った適切なブロックタイム(時刻表の出発時刻から到着時刻までの時間)の策定があります。国際航空運送協会(IATA)の会議スケジュールから、大きなダイヤ改正は年2回です。しかし、当社が紙面の国内線時刻表を1か月から2か月ごとに発行していることからも分かるように、夏ダイヤ、冬ダイヤのくくりのなかでも上空の風などの影響を考慮し、約2か月ごとにブロックタイムの変更を中心としたダイヤ変更を行っています。偏西風が2月などの冬場に強く、8月などの夏場に弱くなるのがおもな理由です。

 もし国内線のダイヤを年1回しか作成しなかった場合、2月に九州方面から羽田空港へ向かう便は偏西風が強い、つまり追い風が強いことから早着ばかりになる一方、8月は追い風が弱く延着ばかりになってしまう、という事態が考えられます。

 約2か月ごとに5分単位で発着時刻を前後させたり、発着時刻を、偏西風の影響が比較的少ない羽田空港から北方面へ向かう便と入れ替えたりして調整することで、お客さまに正確な出発・到着時間をお伝えできるよう、こだわりを持って策定しています。

実は意味がある便名 「特別な数字」も

――便名はどのように決定しているのでしょうか。

 羽田空港を発着する国内線は、2015年にすべて3ケタへ統一しました。100番台は大阪(伊丹)と東北・北陸地方、200番台は大阪(伊丹)を除く関西、中部、中国地方、300番台は福岡と北九州、400番台は四国地方、500番台は北海道地方、600番台は福岡と北九州を除く九州地方、900番台は那覇を発着する便に振っています。伊丹発着と関空発着で番台を分けているのは、ツアーパンフレットなどを見たお客さまが、両空港を混同しないようにするためです。

 400番台を四国に振っているのは、四国の「四」にかけています。ちなみに、最も四国らしい数字「459(しこく)」便は、徳島空港を発着する便に割り当てることにしました。

日本航空(JAL)路線計画部 国内路線計画グループの河本 健アシスタントマネジャー(2016年10月、青山陽市郎撮影)。

 ふだん、何気なく利用する航空機かもしれませんが、そのダイヤの裏側には、国際会議などでの担当者の奮闘がありました。航空機を利用する際、そのダイヤには国際会議などにおける担当者のさまざまな苦労や思いが詰まっていることを考えると、旅行がより楽しくなるかもしれません。

【写真】「レベル3」空港の羽田、管制塔からはどう見える?

羽田空港の管制塔から南東側の風景。房総半島や、東京湾アクアライン「風の塔」も望める(2016年2月、恵 知仁撮影)。