【天皇杯】震災、レギュラー落ち…苦しんだ2016年。谷口彰悟が決勝弾に喜びを爆発させたわけ
敗戦後のミックスゾーンでもしっかりと言葉を紡ぎ報道陣の質問に答え、初見の記者に対しても警戒心は表さず丁寧に接し、ファンサービスも怠らない。ただ、喜怒哀楽を大きく出す選手ではない。そんな谷口彰悟が、決勝点を挙げて喜びを大爆発させた。
川崎としては連動した大宮の守備に苦戦を強いられ、相手の決定機逸にも助けられて“なんとか”終盤までスコアレスに持ち込めたと言って良い。そのなかで迎えた85分、中村のCKのこぼれ球をエドゥアルドが頭で落とし、それに反応した谷口がゴール前に飛び込んで足を伸ばしてゴールに押し込んだ。
均衡を破るゴールを挙げると、ガッツポーズを天に突き上げながらジャンプをし、ゴール裏のサポーターへその姿を示した。あそこまで感情を表に出す彼の姿を見るのは、初めてのことだ。
「俺もびっくりするくらい、喜びました。こういう決勝点というのは経験があまりないですし、導くことができたというか、フロンターレの勝利に貢献できたというのが個人的に嬉しかった」
昨年は公式戦すべてでフルタイム出場を果たし、日本代表にも招集された飛躍のシーズンだった。だが、そこからさらに自身の価値を高めようとして臨んだ今季は、思わぬ苦戦を強いられてしまう。新加入の奈良とエドゥアルドが守備の耐久力で圧倒的な存在感を見せ、ベンチスタートとなる試合もあれば、本職でないサイドバックで使われる試合もあった。
そして、失点に直結するような信じられないミスも犯してしまう。それが顕著だった上半期は、彼にとって苦しい時期でもあった。その時期には「正直、葛藤がある」と打ち明けている。
ピッチ外でも生まれ故郷である熊本で震災が起こり、家族や街の状態を案じながら試合と練習をこなさなければいけない時期もあった。「自分にやれることはサッカーで結果を出して頑張っている姿を見せることしかない」とは語ったものの、精神的な負担となっていたことは想像に難くない。その時期は多くの報道陣から毎日のように地元の状況を聞かれていたが、冒頭でも述べたように誰に対しても真摯に対応していた。それが多少なりともストレスになっていただろうし、取材対応が終わったあと、隠れて涙を拭う姿もあった。
【大宮0-1川崎 天皇杯準決勝PHOTO】川崎が初の決勝進出。悲願のタイトルまであと1勝!
そんな苦しい時期を経験しながらも、CBの定位置を再び確保し出場機会を増やすと、徐々に状態は高まっていく。守備の強度は日に日に高まり、“闘う”姿勢を前面に出す。そして、繋ぎの部分での冷静さ、正確性も本来の輝きを取り戻していった。
「彰悟さんはいいタイミングでボールを入れてくれるし、(自分が)嫌なときには入れない。すごく、僕の状況をうまく見ながら出してくれている」。同郷の後輩であり、谷口と同じサイドでプレーすることが多い車屋紳太郎も最大級の賛辞を送る。
今シーズンを通じて、谷口の中で確実に変わっていった部分がひとつあった。それは“結果にこだわる”ということである。準々決勝のFC東京戦でも内容で圧倒し勝利を得ながらまったく満足する気配はなかったのだが、終了間際の失点がその要因だった。
「どんなゲームでもゼロにこだわらないといけないし、タイトルを取るチームはそう。そこはまだまだこのチームの甘さ」と厳しい言葉を口にしていた。それもあってこの試合も無失点へのこだわりを強く持って臨み、90分にわたって耐える力を示した。さらには決勝点もマーク。これ以上ない結果が彼のもとに舞い込んだが、これは自ら呼び込んだものとも言えるかもしれない。
2016年が谷口にとって苦しい時期が多いシーズンだったことは、多くのサポーターが知るところだろう。そこでもがく姿を、記者も近くで見てきたひとりだからこそ思うし、言えるのだ。チームを勝利に導くゴールが決まったあの瞬間、彼が感情を爆発させたあの瞬間は、川崎サポーターに何にも代え難い喜びを与えてくれたのは間違いない。
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)
川崎としては連動した大宮の守備に苦戦を強いられ、相手の決定機逸にも助けられて“なんとか”終盤までスコアレスに持ち込めたと言って良い。そのなかで迎えた85分、中村のCKのこぼれ球をエドゥアルドが頭で落とし、それに反応した谷口がゴール前に飛び込んで足を伸ばしてゴールに押し込んだ。
均衡を破るゴールを挙げると、ガッツポーズを天に突き上げながらジャンプをし、ゴール裏のサポーターへその姿を示した。あそこまで感情を表に出す彼の姿を見るのは、初めてのことだ。
「俺もびっくりするくらい、喜びました。こういう決勝点というのは経験があまりないですし、導くことができたというか、フロンターレの勝利に貢献できたというのが個人的に嬉しかった」
昨年は公式戦すべてでフルタイム出場を果たし、日本代表にも招集された飛躍のシーズンだった。だが、そこからさらに自身の価値を高めようとして臨んだ今季は、思わぬ苦戦を強いられてしまう。新加入の奈良とエドゥアルドが守備の耐久力で圧倒的な存在感を見せ、ベンチスタートとなる試合もあれば、本職でないサイドバックで使われる試合もあった。
そして、失点に直結するような信じられないミスも犯してしまう。それが顕著だった上半期は、彼にとって苦しい時期でもあった。その時期には「正直、葛藤がある」と打ち明けている。
ピッチ外でも生まれ故郷である熊本で震災が起こり、家族や街の状態を案じながら試合と練習をこなさなければいけない時期もあった。「自分にやれることはサッカーで結果を出して頑張っている姿を見せることしかない」とは語ったものの、精神的な負担となっていたことは想像に難くない。その時期は多くの報道陣から毎日のように地元の状況を聞かれていたが、冒頭でも述べたように誰に対しても真摯に対応していた。それが多少なりともストレスになっていただろうし、取材対応が終わったあと、隠れて涙を拭う姿もあった。
そんな苦しい時期を経験しながらも、CBの定位置を再び確保し出場機会を増やすと、徐々に状態は高まっていく。守備の強度は日に日に高まり、“闘う”姿勢を前面に出す。そして、繋ぎの部分での冷静さ、正確性も本来の輝きを取り戻していった。
「彰悟さんはいいタイミングでボールを入れてくれるし、(自分が)嫌なときには入れない。すごく、僕の状況をうまく見ながら出してくれている」。同郷の後輩であり、谷口と同じサイドでプレーすることが多い車屋紳太郎も最大級の賛辞を送る。
今シーズンを通じて、谷口の中で確実に変わっていった部分がひとつあった。それは“結果にこだわる”ということである。準々決勝のFC東京戦でも内容で圧倒し勝利を得ながらまったく満足する気配はなかったのだが、終了間際の失点がその要因だった。
「どんなゲームでもゼロにこだわらないといけないし、タイトルを取るチームはそう。そこはまだまだこのチームの甘さ」と厳しい言葉を口にしていた。それもあってこの試合も無失点へのこだわりを強く持って臨み、90分にわたって耐える力を示した。さらには決勝点もマーク。これ以上ない結果が彼のもとに舞い込んだが、これは自ら呼び込んだものとも言えるかもしれない。
2016年が谷口にとって苦しい時期が多いシーズンだったことは、多くのサポーターが知るところだろう。そこでもがく姿を、記者も近くで見てきたひとりだからこそ思うし、言えるのだ。チームを勝利に導くゴールが決まったあの瞬間、彼が感情を爆発させたあの瞬間は、川崎サポーターに何にも代え難い喜びを与えてくれたのは間違いない。
取材・文:竹中玲央奈(フリーライター)