ビジネスのグローバル化や少子高齢化による労働力人口の減少など、経営環境の変化に対して従来型の人事では対応が難しくなっている。「2017年の人事の重要テーマ」を、企業の採用、育成・研修、組織力強化などを支援する専門家50人に対してアンケート調査で聞いた。

 本誌が実施した企業の採用、育成・研修、組織力強化などを支援する専門家への調査では、2017年の人事の重要テーマ(複数回答)は、「次世代リーダーの育成」が70%で最も多かった。

 次いで、「組織風土の変革」(52%)、「ダイバーシティ」(44%)、「タレントマネジメント」(41%)、「採用力の向上」(41%)、「グローバル人材の確保」(37%)、「柔軟な働き方の推進」(37%)と続いた。

 人材紹介大手ジェイ エイ シー リクルートメントの松園健社長は企業の成長戦略のテーマとして、「グローバル化」と「IoT、AI(人工知能)、ロボットなど新たなテクノロジーによるイノベーション」の二つを挙げる。 グローバルな競争の激化や技術革新によって日本の企業は様々なフェーズで変革を迫られており、人事の重要テーマとして、企業の成長戦略を実現するための「次世代リーダーの育成」を最も多くの専門家が選んだのもうなずける。

 次世代リーダーを養成する研修プログラムを提供するIndigo Blue寺川尚人社長は、「トップ層の強い関心事は、経営力の強さが会社の強さを決定する時代となった状況の中で、その根幹となる経営力の開発(経営者の人材開発)をどのように実現するのか」だという。

 そうした経営トップの意向を受けて、「リーダー層のアセスメントやコーチング、コンピテンシーモデルを用いた人材の見える化といったプロジェクトが増えている」(エーオンヒューイットジャパン楠見スティブン社長)。 例えば、外資系製薬企業のMSDでは、リーダーの資質があると見込まれる人材を早期に特定、抜てきして集中的に投資するという採用・育成プランを導入している。

 5年前から始めたリーダー育成のプログラムについて太田直樹同社取締役執行役員は、「制度導入の背景には経営環境の変化がある。今までの成功体験に執着している者はリーダーとしてふさわしいとは言えない。異質なものを取り入れるメンタリティを持つ新しいタイプのリーダー育成が必要」と説明する。 グローバルリーダーの育成を推進しているのは日産自動車だ。リーダーの発掘と育成プランの作成は経営会議メンバーが行い、毎月1回、世界の各地域で実績を上げている社員の中からリーダー候補として登録するかを決定する。

 カルロス・ゴーン同社CEOは「リーダーは生まれながらにして育つものではなく、作られていくものであり、誰かが助けて育てなければいけない。そのためには人材を特定することだ。そして成長させるためにはスタッフ部門に置くのではなく、本当に厳しい環境に送り込み、自分で解決を図ることができるようにする」と、リーダー人材の早期選抜と修羅場経験の必要性を説く。 そして、リーダー候補の発掘や社員を適材適所に配置していくためには、タレントマネジメントが欠かせなくなってきている。

 既存の育成法では新しい環境に適応できる経営人材が育たなくなってきているという指摘も目立つ。

 「タレントマネジメント、グループ・グローバル人材マネジメントの抜本的な変革が迫られる」(コーン・フェリー・ヘイグループ高野研一社長)、「効率的・合理的な採用から人材育成、適材配置による職務マッチングのプロセスをどう構築するかが重要課題」(HRDグループ韮原光雄社長)など、グローバル化や新技術によるイノベーションによって従来型の採用、配置・異動、育成・研修が上手く機能しなくなっており、転換期に入っている。 組織風土の変革を人事の重要テーマに挙げた専門家も多かった。