開幕から3連勝を記録するなど、ADOデン・ハーグが絶好調だ。第4節を終えた時点で、負けなしの勝ち点10。昨季、一度も連勝がなかったチームとは、とても思えない快進撃だ。

 デン・ハーグ2季目のハーフナー・マイクは、開幕戦のゴー・アヘッド・イーグルス戦でいきなりの2ゴール。さらに、第4節のヘラクレス戦でも縦への馬力あふれる突破を見せ、マーカーふたりを置き去りにしてから強烈なハーフボレーシュートを決めるなど、エースにふさわしい働きを見せている。

 今季から指揮を執るゼリコ・ペトロビッチ監督のチームビルディングも順調に進んでいる。浦和レッズの指揮官としては残念ながら結果を残せなかった"ペトロ"だが、マルティン・ヨル(前アル・アハリ)、ルート・フリット、アブラム・グラント(現ガーナ代表)、フース・ヒディンク(前チェルシー)、ディック・アドフォカート(現フェネルバフチェ)といった大物指導者に仕え、学んだ成果をここで出そうとしている。

 昨季と比べてデン・ハーグが大きく変わったのは、中盤の構成だ。昨季のデン・ハーグはストライカーのハーフナー、ウイングのルベン・スハーケン、エドゥアール・デュプランの「強力3トップ」がウリのチームだった。しかし、中盤に関してはトレス・ボランチシステムと呼んでも差し支えないぐらい、守備にアクセントを置いたシステムを敷いていた。

 昨季同様、デン・ハーグは今季も4−3−3のフォーメーションを採用している。だが、夏の準備期間からペトロビッチ監督が取り組んでいたのは、左ウイングだったデュプランをトップ下にコンバートし、中盤にクリエイティビティを創ることだった。昨季はサイドからデュプランがクロスを入れ、ハーフナーがゴールを決めるという"ホットライン"を築いていたのだが、今季はストライカーとトップ下という関係でそれを引き継いでいる。

 今季、周囲で頻繁に聞かれるのは、「昨季と比べてデン・ハーグのサッカーが非常に面白くなった」ということ。そして、「相手DFにとってハーフナーが脅威になっているため、デュプランにスペースを作ることができている」ということだ。

 今季のデン・ハーグのシステムが機能しているのは、ハーフナーのコメントからも伝わってくる。

「新加入のMFトム・トリブルは、中盤でかなりつぶす選手。エールディビジのなかで3番目にボールを奪っているので、彼の存在も大きいです。エドゥー(・デュプラン)がトップ下でやっていて、そこでゲームを作ったり、あとは若い力が左(FWヘルファネ・カスタネール)で躍動しているし、選手の経験もある。いろいろ重なっていいチームだなと思います」

 チーム内のムードは、ハーフナーいわく、「昨季もそうでしたが、選手たちの仲がとてもいいんです」と、かなり良好らしい。昨季から残った選手、今季から加入した選手、そしてユースから上がってきた選手がペトロビッチ監督のパッションと化学反応を起こし、見事なハーモニーを築いている――。それが、今季のデン・ハーグなのだ。

 とはいえ、ハーフナーにとってすべてが順風満帆なわけではない。ヘラクレスとの試合でハーフナーは、ネガティブな意味でオランダ中のサッカーファンから注目されてしまった。そのシーンは、1−1で迎えた80分に訪れた。

 ペナルティーエリアのなかで相手の意表をつき、マルセイユ・ルーレットから反則を誘ったハーフナーは、自らPKを蹴りに行った。開幕戦で強烈なPKを右隅に蹴って決めていたハーフナーは、「恐らくキーパーは(開幕戦の)ビデオで見ているから、横に飛ぶだろう」と読み、チップキックでPKをゴール中央に決めようとした。しかし、このPKはバーの上を越していってしまい、デン・ハーグは勝ち越しならず。結果として、チームの連勝が「3」でストップしてしまう原因となってしまった。

「決めればかっこいいですけれど、決めなきゃただの愚か者にしか見えない。勝っていればフェイエノールトと同じ勝ち点12で1位。再来週のフェイエノールトのホームで直接対決があったので、残念です。何日かは引きずるけれど、いい具合にインターナショナル・マッチウィークに入るので、しっかりと切り替えて次(フェイエノールト戦)に行きたいです」

 ただ、このPK失敗をのぞけばヘラクレス戦のハーフナーはすばらしいプレーを披露していた。『アルへメーン・ダッハブラット』紙はハーフナーのPK失敗に記事の大部分を割きながらも、「この長身ストライカーは非常にいいプレーをしていた。ボールをしっかりとキープし、デュエル(※)にも強く、これまでもデン・ハーグにとってそうだったように、(28分に)彼の決めたゴールは黄金の価値があった」と称えることも忘れなかった。ハーフナーがエールディビジを代表するストライカーであることに変わりはないのである。

※デュエル=duel/フランス語で「決闘」「ふたりの戦い」の意。

 このような好調ぶりならば、ハーフナーの去就にオランダメディアの注目が集まるのは当然のことである。オランダの報道の一部を紹介する。

「デュプランは『マイクがチームを去る可能性があることは、我々の頭の片隅に置いてある。彼は昨季、すばらしい活躍をし、多くのゴールを奪った。その事実から、我々は恐らく今後、マイク抜きで戦うこともあり得ることを考慮しないといけない』と言う」(8月27日付『アルへメーン・ダッハブラット』紙)

 ハーフナーには、ドイツや中国などから関心が寄せられていると、オランダでは報じられた。ヘラクレス戦後、ハーフナー自身は移籍についてこう語っている。

「(移籍するか残留するかは)フィフティー・フィフティーですかね。話はあるんですが、まだ2年契約があるんで、チームが決めないといけない部分もあるし、個人で決めないといけない部分もありますので。別に個人的には残ってもいいと思っていますから、移籍の話はチームと代理人に任せています」

 移籍話を代理人に任せているのは、コルドバへの移籍で失敗した苦い経験があるからだ。当時、フィテッセで成功を収めたハーフナーにはフェイエノールトから声がかかり、周囲も「もう少しオランダリーグでやってからビッグリーグにステップアップしたほうがいい」とアドバイスしたのだが、ハーフナーはそれを聞かなかった。

「個人的には、『(スペインリーグに)行きたい、行きたい、行きたい』という願望が強すぎ、無駄に自分から押してしまったのが悪かったと思います。結局、ああなって、代理人が『言っただろ?』って......(苦笑)。『じゃあ、次は(代理人に)任せるよ』という感じです」

 結果的に、移籍市場は8月31日で締め切られ、ハーフナーのデン・ハーグ残留は決まった。だが、これからの活躍次第では冬、ふたたび移籍市場で彼の名前が浮上するのは間違いないだろう。

中田徹●取材・文 text by Nakata Toru