早稲田実業vs啓明学園
何をすれば抑えられるのか...。
高校2年生ながらすでに高校通算50号本塁打に達している清宮 幸太郎。春先の練習試合からずっと見てきて、欠点がない打者だと感じてきた。ノーシードからのスタートになり、2回戦から登場となった早稲田実業。日増しに凄さが増している清宮を見ようと八王子市民球場には多くの人が詰めかけ、内野席はほぼ満員となっていた。
まず清宮の第1打席は無死一、二塁の場面でまわってきた。
啓明学園の先発・奈良井巧投手(3年)は右サイドから105キロ〜110キロと速くない。まさに軟投派右腕。これでもかというぐらい遅い球で勝負する右腕である。
しかしストライクが入らず、清宮は1球も振ることなく、四球を選んだ。その後、工藤 航輔(3年)の適時打や押し出し四球で2点を先制した早稲田実業。
啓明学園は2回表、二死から7番荒井四海(1年)が緩いボールを思い切り引っ張り、左二塁打。そして8番米田勇大(1年)が右前適時打を放ち、1点差に迫る。
1点を返して、どっと沸く八王子市民球場。2回裏、早稲田実業は併殺でチャンスをつぶす。啓明学園の先発・奈良井が投じる遅いボールが曲者で、序盤は早実打線が苦しんでいた。啓明学園は1回表に2盗塁をしたり、併殺を決めたり、堅実な守備と積極的な走塁と上手く野球をこなすチームだ。守備もそこそこ堅いので、失策からの1点は難しく、奈良井の遅い球にはまってしまうと、早稲田実業はやや苦しい試合運びになるかと思われたが、それも清宮 幸太郎の一振りで一気に情勢が変わった。
奈良井は自信を持って投じた緩いカーブは低めに決まった。これは簡単に打てない。しかし無心で振り抜いた清宮はこのカーブをすくい上げ、打球はライトポール際へ打ち込む高校通算51号本塁打となった。 緩いボールを打つのは反発力がないので、非常に難しい。いかに引き付けて自分のタイミングで打てるかが極めて重要になる。
身体が突っ込むことなく、しっかりと手元でボールを呼び込んで、ボールをうまく乗せて、ライナー性でライトスタンド前列に打ち込む本塁打は、あの大打者を思い出させた。そう、松井 秀喜氏である。松井氏はああいう本塁打が多かった。まさに今日の清宮は松井氏を彷彿とさせる打ち方と打球だった。
これも足を上げすぎず、ほどよい足の上げ方で間合いを測ることができているのが1つ。以前は体勢が崩れて手首の返しが早い打撃になっていたが、今日の本塁打は緩いボールに対しても無意識ながらも体が突っ込まないので、自分のタイミングでボールを捉えることができているのだ。ミートポイントはばっちりで、やはりコンタクト能力はずば抜けている。
清宮の遅球攻略は早稲田実業打線の参考になったのか。それまで振り回していたが、しっかりとボールを見てコンタクトするようになった。
その後、二死二塁から小掛雄太(3年)、赤嶺大哉(1年)の連続二塁打で2点を追加。さらに二死満塁から2番橘内の走者一掃の二塁打で3点を追加する。橘内は調子が良い時は手が付けられないほどのバットコントロールを見せる右打ちの好打者。軽快な二塁守備も魅力だが、調子の波が大きいことが課題となっていた。しかし今回は狙い球に対して、しっかりとボールを捉えることができていた。とどめは1年生4番・野村 大樹。甘く入ったストレートを逃さず、レフトスタンド上段へ打ち込む3ラン。これが野村にとって公式戦第1号となった。練習試合からライナー性でレフトへ、また右中間へ鋭い打球を飛ばすなど、1年生とは思えない打撃を見せていた野村だが、角度よく上がったときの打球は圧巻だった。
そして5回表、背番号1の吉村 優(3年)が常時128キロ〜130キロの直球で啓明学園をぴしゃりと抑え、5回コールド勝ちで早稲田実業が勝利を決めた。今年はオフェンス型のチームで、不安な投手力を打撃で補うという戦い方には変わりない。早稲田実業はドツボにはまるとその後、なかなか打てないという展開が春季大会まであったが、練習試合を見ていても、清宮の後を打つ選手が打ったりして、最低限の形で得点を重ねるようになり、打線の隙は少しずつなくなっている。それにしても清宮が打つと一気に雰囲気を変わる。清宮そのものは怖いが、清宮が打ってからの波及効果が非常に怖いと他校は感じるのではないだろうか。
まだ慣れていなかった1年夏と比べるとどことなく余裕を感じる清宮。この一打でもっと調子を上げてくるだろうし、仮に勝負を避けたとしても野村、工藤も脅威。今年も早稲田実業は優勝戦線に浮上すると確信させるゲームだった。
敗れた啓明学園だが、1年生で活躍している選手が多い。監督は元プロの芦沢真矢氏。身の丈に合った野球スタイルは、今後も伸びていく予感をさせたチームだった。今後も強豪校に一泡吹かせる野球ができるようになってもらいたい。
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