「週刊新潮」編集長が語る 安倍政権メディア圧力の実態
新潮社が発行する週刊誌「週刊新潮」が2月6日、創刊60周年を迎えた。
創刊以来数々の社会不正を糾弾し、スキャンダルを暴いてきた同誌は、最近でも「SMAP分裂騒動」を報じた記事や、「川崎中一男子生徒殺害事件」の犯人少年の実名報道が大きな話題を呼んだ。
「週刊文春」(文藝春秋発行)と並び、日本の週刊誌のトップに君臨する「週刊新潮」がどのように、どんな理念で作られているのか。同誌編集長の酒井逸史氏にお話を聞いた。
「SMAP独立騒動」や「報道の自由」、そして「紙媒体の未来」まで、様々な話題が飛び出した注目のインタビュー後編をお届けする。(インタビュー・記事/山田洋介・金井元貴)
■メディアへの「圧力」は存在するか
――高市総務相の「電波停止」発言をはじめ、「報道の自由」の危機を感じるニュースが目につきますが、取材をしていて政権側から圧力めいたものを感じたことはありますか?
酒井:そんなことがあったら、とっくに大騒ぎしてますよ(笑)。政権から圧力がかかったというようなことは一度もありません。だって、これだけ少年法に抵触する記事を出しても家宅捜索一回受けていないわけですから。そういう意味では日本の報道の自由は機能しているんじゃないですか。
――それは政治的に「保守寄り」という立ち位置の影響ではないですよね。
酒井:コンサバティブなイメージを持たれていることは否定しませんが、だからといって自民党万歳、ということではまったくありません。
少し前に安倍政権で経済産業大臣だった小渕優子さんの政治資金のデタラメぶりを書いて辞任するきっかけを作ったのは我々ですし、僕が編集長になってからも、大臣や官房長官、副長官といった方々が「週刊新潮」の記事の影響でお辞めになられたケースがおそらく5回以上あるはずです。だから自民党の政治家のこともどんどん叩きますよ。
――次に紙媒体としての「週刊新潮」の今後についてお話をうかがえればと思います。メディアが紙からウェブに向かっているという今の流れについて、酒井さんのお考えをお聞かせ願えますか。
酒井:端的に、困ったなと思っています。本や雑誌など紙媒体の売上は1996年をピークに下がり続けていますから、これまで紙をベースにやってきた出版社としては大きく戦術や方向性を転換せざるをえないところに差し掛かっています。
売上でいうと、紙媒体は2000年から約1兆円減ったと言われていますが、その失われた1兆円をウェブで回収できているかというと、できていません。電車に乗っているとみんなスマホを見ていますから、文字を読む時間が減っているわけではない。つまりは、お金を出して情報を買うっていう習慣がなくなってきているわけで、これには危機感を覚えます。コンテンツを無料にした分を広告で賄えるかというと、おそらくそれはできないですし。
――今おっしゃったように、雑誌がそのままウェブに移行するとなると、課題になるのはマネタイズです。紙からウェブへという流れが今後も続くと考えた時、今の紙媒体の可能性はどんな点にあるとお考えですか。
酒井:今の時点でその質問に答えるのは難しいです。ただ、趨勢を見ている限り、毎年少しずつ落ちていくことはわかっていますし、どこまで落ちるかという底はまだ見えていません。
今、雑誌全体の売上が年7800億円ほどなのですが、これはピークだった1996年の約4割です。しかも昨年一年で見ると、月刊誌は対前年比でマイナス7.2%、週刊誌はマイナス13.6%と、ここにきてまたガクッと落ちてしまった。幸い週刊新潮はそこまで下がらなかったのですが、それでもやはりマイナスでした。
一昨年は対前年比100%を超えていたので「どうして去年は落ちたのか?」となりますが、単純に昨年は世の中に大きな事件が少なかったというのが大きいです。やはりニュースを扱う雑誌なので世の中の動向には影響されてしまいます。
今年は調子がいいので、これが年間を通して続くように、スクープを狙ったり、「週刊文春」の甘利さんの記事のように仕掛けていきたいですね。紙媒体の未来について考えてみても完全な回答などないので、しのぎながら地道に読者を獲得していくしか生き残る道はないと思っています。
――インターネットで誰でも情報発信ができることが週刊誌の立場を揺るがせていると感じることはありますか?先日、歌手のASKAが暴露本めいた内容の文面をブログで配信(現在は削除)して話題になりましたが、こうしたことは昔ならそれこそ週刊誌がASKAに取材しないと引き出せなかったはずです。
酒井:昔は週刊誌にしゃべるか、本として出版するしか発信する方法がなかった情報が、今は個人がネットで発信できてしまうというのは確かにその通りですが、発信力がある人についてはやむをえないところもありますよね。たとえばASKAなら、ネットがない時代でも本当に発信したかったらライブでしゃべればいいわけですから。
でも、情報というのは編集者の手をくぐるかくぐらないかでかなり変わってきます。そういう意味では「誰でもネットで情報発信できる」というのは、編集者を介在させない情報が増えていくということで、短所も孕みます。その短所についてもう少し世の中の共通認識ができてくれば、我々のようなメディアが生きていく道はあるのではないかと思います。
――最後になりますが、今後についての意気込みをお願いします。
酒井:先ほど少しお話ししたように、出版業界がとても厳しい状況にあることは間違いありません。ただ、そんな中でも「総合週刊誌の雄」の一つに数えていただいている「週刊新潮」としては、その立場を失わないよう、これからもしのぎを削っていこうと思います。
(インタビュー・記事/山田洋介・金井元貴)
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■メディアへの「圧力」は存在するか
――高市総務相の「電波停止」発言をはじめ、「報道の自由」の危機を感じるニュースが目につきますが、取材をしていて政権側から圧力めいたものを感じたことはありますか?
酒井:そんなことがあったら、とっくに大騒ぎしてますよ(笑)。政権から圧力がかかったというようなことは一度もありません。だって、これだけ少年法に抵触する記事を出しても家宅捜索一回受けていないわけですから。そういう意味では日本の報道の自由は機能しているんじゃないですか。
――それは政治的に「保守寄り」という立ち位置の影響ではないですよね。
酒井:コンサバティブなイメージを持たれていることは否定しませんが、だからといって自民党万歳、ということではまったくありません。
少し前に安倍政権で経済産業大臣だった小渕優子さんの政治資金のデタラメぶりを書いて辞任するきっかけを作ったのは我々ですし、僕が編集長になってからも、大臣や官房長官、副長官といった方々が「週刊新潮」の記事の影響でお辞めになられたケースがおそらく5回以上あるはずです。だから自民党の政治家のこともどんどん叩きますよ。
――次に紙媒体としての「週刊新潮」の今後についてお話をうかがえればと思います。メディアが紙からウェブに向かっているという今の流れについて、酒井さんのお考えをお聞かせ願えますか。
酒井:端的に、困ったなと思っています。本や雑誌など紙媒体の売上は1996年をピークに下がり続けていますから、これまで紙をベースにやってきた出版社としては大きく戦術や方向性を転換せざるをえないところに差し掛かっています。
売上でいうと、紙媒体は2000年から約1兆円減ったと言われていますが、その失われた1兆円をウェブで回収できているかというと、できていません。電車に乗っているとみんなスマホを見ていますから、文字を読む時間が減っているわけではない。つまりは、お金を出して情報を買うっていう習慣がなくなってきているわけで、これには危機感を覚えます。コンテンツを無料にした分を広告で賄えるかというと、おそらくそれはできないですし。
――今おっしゃったように、雑誌がそのままウェブに移行するとなると、課題になるのはマネタイズです。紙からウェブへという流れが今後も続くと考えた時、今の紙媒体の可能性はどんな点にあるとお考えですか。
酒井:今の時点でその質問に答えるのは難しいです。ただ、趨勢を見ている限り、毎年少しずつ落ちていくことはわかっていますし、どこまで落ちるかという底はまだ見えていません。
今、雑誌全体の売上が年7800億円ほどなのですが、これはピークだった1996年の約4割です。しかも昨年一年で見ると、月刊誌は対前年比でマイナス7.2%、週刊誌はマイナス13.6%と、ここにきてまたガクッと落ちてしまった。幸い週刊新潮はそこまで下がらなかったのですが、それでもやはりマイナスでした。
一昨年は対前年比100%を超えていたので「どうして去年は落ちたのか?」となりますが、単純に昨年は世の中に大きな事件が少なかったというのが大きいです。やはりニュースを扱う雑誌なので世の中の動向には影響されてしまいます。
今年は調子がいいので、これが年間を通して続くように、スクープを狙ったり、「週刊文春」の甘利さんの記事のように仕掛けていきたいですね。紙媒体の未来について考えてみても完全な回答などないので、しのぎながら地道に読者を獲得していくしか生き残る道はないと思っています。
――インターネットで誰でも情報発信ができることが週刊誌の立場を揺るがせていると感じることはありますか?先日、歌手のASKAが暴露本めいた内容の文面をブログで配信(現在は削除)して話題になりましたが、こうしたことは昔ならそれこそ週刊誌がASKAに取材しないと引き出せなかったはずです。
酒井:昔は週刊誌にしゃべるか、本として出版するしか発信する方法がなかった情報が、今は個人がネットで発信できてしまうというのは確かにその通りですが、発信力がある人についてはやむをえないところもありますよね。たとえばASKAなら、ネットがない時代でも本当に発信したかったらライブでしゃべればいいわけですから。
でも、情報というのは編集者の手をくぐるかくぐらないかでかなり変わってきます。そういう意味では「誰でもネットで情報発信できる」というのは、編集者を介在させない情報が増えていくということで、短所も孕みます。その短所についてもう少し世の中の共通認識ができてくれば、我々のようなメディアが生きていく道はあるのではないかと思います。
――最後になりますが、今後についての意気込みをお願いします。
酒井:先ほど少しお話ししたように、出版業界がとても厳しい状況にあることは間違いありません。ただ、そんな中でも「総合週刊誌の雄」の一つに数えていただいている「週刊新潮」としては、その立場を失わないよう、これからもしのぎを削っていこうと思います。
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