ブラバンの演奏が野球部の戦力に!駒大苫小牧高校吹奏楽局
球場のスタンドから奏でられるサウンドが、選手たちを奮い立たせる。時には軽快に、時には力強く響き渡るその旋律は、高校野球と切っても切り離すことができない。定番となっているものから、その曲を聴けばどこの高校の応援なのか分かるものまで、さまざまな音楽が試合を盛り上げていく。今回は全国の高校野球ファンの耳にもしっかりと残る独創的な応援曲を繰り広げる駒大苫小牧吹奏楽局を訪ねてみた。
放課後の練習に打ち込む駒大苫小牧・吹奏楽局員たち
映画「ブルース・ブラザーズ」のテーマソング「I Can’t Turn You Loose」と言われてピンとこない人も、「駒大苫小牧の攻撃が始まる前に流れる曲」といえば分かる人が多いのではないだろうか。2004、05年と夏の甲子園を連覇。06年もエース・田中 将大(現米大ヤンキース<関連記事>)を擁し、決勝で早稲田実業と引き分け再試合の死闘を演じるなど、全国の高校野球ファンがその名場面を思い出すとき、同時にこの軽快なメロディーが必ず脳裏をよぎる。
そんなインパクトのあるリズムを紡ぎ出しているのが駒大苫小牧吹奏楽局だ。「応援の選曲は、どこもやっていないオリジナリティを出すことを心掛けています」と、22年間にわたり顧問を務める内本 健吾教諭(44)は、そのこだわりを口にした。
以前はどこの学校もやっているような「ふつうの応援」だったが、全道大会の常連となってきた15年ほど前から、現在の応援スタイルになったという。「試合前のシートノックのテンポをみていて、一連の動作がリズミカルに“聞こえて”きたんです。応援曲もそれにふさわしいリズムやテンポじゃないとダメだ、って思いました」と、“駒苫流応援”の誕生秘話を明かしてくれた。
[page_break:甲子園でお馴染みの曲「駒苫チャンス」が生まれた背景]甲子園でお馴染みの曲「駒苫チャンス」が生まれた背景今夏の高校野球地区大会に向けて意気込む部員たち
定期演奏会や吹奏楽コンクール、さらには全国大会常連のマーチングコンテストなどの合間を縫って、野球部の応援曲を練習する。「ただ応援の練習と言っても、特に根を詰めてやるわけではありません。あくまでふだんの基礎練習の延長線上にあります。球場も教育現場ですし、一番気を付けているのは高校生らしい演奏をすることですね」と内本教諭。スタンドの観客はもちろん、相手も含めてすべての選手が気持ち良くプレーできるよう、常に配慮をしながら曲を奏でている。
例えば選手交代やタイムなどで試合が止まっているときは、どれだけイケイケムードでも選手が落ち着けるよう音量を落とし、試合の再開を待つ。「野球の応援では、いかに選手たちを引き立てられるかを考えて演奏しています」とは谷内 良美部長(3年)。80人の部員全員が、「主役は選手」というスタンスを徹底している。
「脇役」でありながら、ファンに強烈なインパクトを与えられるのはなぜか。特別難しい曲を選んでいるわけではない。「真っ赤な太陽」「恋のフーガ」「太陽にお願い」「駒大コンバット」など、応援で使用しいている曲は、むしろ誰もが1度は聞いたことのある曲ばかりだ。「まずは簡単で、エネルギーを持っていて、さらには応援にふさわしい曲を選んでいます。簡単でストレートでシンプルな方が、選手は乗ってくれやすい。スタンドとの一体感を出すのもシンプルな方がいいですからね」と内本教諭はサラリ。それでも観客の耳に残るメロディーとなる秘密は、曲のアレンジにあった。
「私のアレンジはまず、打楽器から曲をつくっていきます。打楽器のもつ鼓動のような音が良くないと、応援が乗っていかないし、応援自体が崩れてしまいます」と、選手たちがグラウンドで躍動しいている姿を思い描きながら、のびのびとプレーできる曲へと仕上げていく。大学野球でおなじみの「駒大コンバット」は、当時の香田 誉士史監督(45=現西部ガスコーチ)と話をする中で、「もっと選手が乗れる曲を」とリクエストされ、香田監督が口ずさんだ「駒大コンバット」を内本教諭がアレンジして、「駒苫チャンス」となり生まれ変わった。
屋内で行われる演奏会ではきれいな音を追及するが、野球の応援では球場いっぱいに広がる音を意識して演奏するのが特徴だ。「スタンドが盛り上がってくると、横の音も聞こえなくなる時があります。室内と違って音の響きがありませんから、より大きな音を出さないといけないですね。でも、ただ大きいだけじゃなく、しっかり曲の頭を揃えることとか、音の形を整えるということも大事にしています」と谷内部長がいう取り組みは、演奏会やコンクールにも生かされている。
[page_break:対戦校までノリノリに?!今夏も注目の駒苫流応援!]対戦校までノリノリに?!今夏も注目の駒苫流応援!リズム感を上げるためにヒップホップダンスも取り入れている
野球の応援は真夏の炎天下のこともあれば、突然雨が降ってくることもある。どんな気象条件の中でも、決して乱れることのない演奏は、ふだんの厳しい練習のたまものといえる。「うちはマーチングもやっているので、フィジカルトレーニングも練習メニューに入っています。リズム感を上げるためにヒップホップダンスも取り入れていますよ」と内本教諭。
筋トレや運動神経を高めるためのコーディネーショントレーニング、それに加えて神経系のトレーニングなど、体育系クラブ顔負けのメニューが、切れ味抜群のサウンドとなって駒大苫小牧スタンドを彩る。ちなみに重い楽器を演奏しながら激しい動きをするマーチングは、12分間でハーフマラソンを走ったのと同じぐらいのカロリーを消費するともいわれている。これを乗り越えるだけの体力と演奏テクニック、そして集中力を日々磨き続けているからこそ、スタンドとグラウンドを1つにすることができるのだ。
こんな野球の応援にあこがれて入部したという部員も少なくない。定期演奏会でも「野球部応援メドレー」が披露されると、会場は一気に盛り上がる。「シーズンになると、部内でも野球の話題が多くなります。“○○高校が勝ったね”とか“決勝は○日だよ”とか、みんな自然と話しています」という谷内部長も、14年センバツでの活躍をテレビで観戦して感動したことが入部した理由の1つという。今では“駒苫流応援”をまねる学校も多い。それどころか、駒大苫小牧と対戦する相手まで「自分たちもノリノリになってくる」と言わせてしまうほどになった。
「チャンスであの音楽が流れると、すごく力が湧いてきます。あの応援は間違いなく野球部の戦力の一部ですよ」と04年夏の甲子園初優勝時の主将で、内本教諭の教え子でもある佐々木 孝介監督(29)は、吹奏楽局の応援に全幅の信頼を寄せている。新たに4曲が加わる予定の駒大苫小牧スタンドからは、今夏も目と耳が離せない。
(取材・文/京田 剛)
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