藤田一也選手、吉川尚輝選手、十河章浩監督

 今秋のドラフト1位指名候補に挙がるといわれる吉川尚輝(中京学院大)。今回の彼の守備の凄さに迫りつつ、高校球児に参考になるような技術と考えを紹介していきたい。

センスではなく、守備の基本をしっかりと押さえている

 我々はスピードある内野手の動きに目を奪われる。坂本 勇人(巨人)、藤田一也(楽天)、安達了一(オリックス)、今宮 健太(福岡ソフトバンク)、菊池涼介(広島)と...この一流の内野手に並ぶスピード感溢れる動きを見せるのが吉川尚輝である。以前からドラフト候補として注目されてきた吉川は走攻守三拍子揃ったショートとして、ここにきてドラフト1位指名候補として取り上げられるようになった。

 今大会13球団80人超が吉川が視察。この動きを見て改めて突出した守備力を持ったショートは球界全体が求めていることが伺える。そして迎えた大学選手権・日本文理大戦。多数のスカウトが詰めかけた一戦で、吉川は期待通りの活躍を見せ、第1打席で三塁打。この時のタイムは11秒00と驚異的なタイムをたたき出した。

 そして自慢の守備でも軽快な動きで次々とアウトにするプレーに神宮球場に詰め掛けていたファンを魅了した吉川。最大のウリである「守備」を分析すると、今までドットコムで配信してきた藤田選手や日本生命で守備の名人といわれた十河章浩監督が語る守備理論をしっかりと実践している選手なのだ。同大学の先輩で、感覚的なプレーをする菊池とは対照的なスタイルを持った選手だといえる。

 まず見せ場となったのは、2回表、一死から馬登大貴(2年・日章学園)が放った遊ゴロ。何気ない遊撃ゴロだと思ったが、馬登の一塁までのタイムは3秒81。プロでもトップクラスのタイムである。このタイムを計測する走者に対して、慌てずにアウトにできる高校生遊撃手はどれだけいるだろうか。実は間一髪のプレーで、吉川の無駄のない動作がアウトを呼び込んだといってもいい。吉川の守備の見所は「持ち替えの速さ」である。日本生命の十河監督は守備が上手い選手の定義として、「捕球したグラブから投げる側の手へボールを移す技術、いわゆる『ボールの持ち替え』がうまいかどうかだと私は思っています」と語ってきる。持ち替えの巧拙が守備力を決めるということだが、それができるようになるには、投げる方の手がある場所にボールを持ってくるイメージが大事だという。

 実際にこのショートゴロをさばいた吉川の動きを見ると、見事に体の中心で持ち替えができている。そうすると、正確なスローイングができるようになる。この後、右手に持ち替えをしてからのスローイングはファーストミットへ一直線だった。身体から離れたところで捕球すると担ぐ形となって送球を乱してしまうが、吉川にはそれがないのだ。

 速い持ち替えをするために身体の近くで捕球をすることは、プロの一流選手は共通して行っていること。楽天の藤田選手も、身体に近いところで捕球を意識している。

 何気ないショートゴロに見えるが、一流選手が実践する守備の基本が見事に凝縮されている。 多くの人が魅了されたのは、次の斎藤功次郎(3年・壱岐商)が放ったセンターへ抜けそうな打球に対して、追いついて華麗に処理したプレーだろう。これも吉川の守備範囲の広さが光ったが、追いつくだけではなく、自分が投げやすい捕球をしっかりとしていることだ。瞬間的なプレーだが、そこでも吉川の動作に焦りはない。さらに5回表にも一死一塁から二塁ベース付近に転がった打球を吉川は走りながら捕球し、これも体の中心で持ち替えをして、スナップスローをしているのである。軽やかなプレーに見えても、ここでも基本を実践していた。

 神宮で見せた吉川の守備は確かに大学生の中でも別格のものだった。それは天性ではなく確固たる技術で成り立っているのがお分かりいただけたと思う。

 吉川の守備には上達のヒントがたくさん詰まっている。

(文=河嶋 宗一)

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