海外ビジネスでは必須!強力な現地人脈を作る秘訣は?

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長年、軍事政権による独裁が続いてきたミャンマー。
しかし今年の3月より、かつてアウン・サン・スー・チー氏の側近だったティン・チョー氏が大統領になった新政権がスタートしたことで、今後、民主化が前進するのではという見方もある。

そんな状況下において、ミャンマーへ進出する日本企業には、どのような影響があり得るのか。

深山さんの著作『ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール: 善人過ぎず、したたかに、そして誠実に』(合同フォレスト刊)の著者、深山沙衣子さんに話を聞いた。

――ミャンマーでは今年の3月より、アウン・サン・スー・チー氏が事実上の陣頭指揮を執る新政権が動き出しました。このことはすでにミャンマーへ進出している日本企業にどのような影響を与えると思われますか。

深山:まず、これまで日本の大企業とがっちりパートナー関係を結んでいたような、軍政下で恩恵を得た現地の人たちは、これからどんどん仕事の機会を奪われていくと思います。つまり、日本の大企業にしてみれば、「発注元」を失うことになるわけですから、ビジネスパートナーを変えることも出てくるでしょう。

ただ、逆に言えば、公正にビジネスをする環境が整ってくるので、これからビジネスがしやすくなっていく側面もあると思います。まだまだ過渡期ではありますが。

――ビジネスがしやすくなるというのは、今後、法制度が整ってくる可能性が高いからですか。

深山:それもあります。これまでミャンマーは法治国家とは言いがたい面がありました。今までも法律はあるにはありましたが、かなり恣意的なもので、官僚がAさんからBさんへ替わったら、まったく別物の決まりごとが出てくるという感じでした。これだと、なかなかビジネスはしにくいです。

――話題は変わりますが、深山さん自身、これまでミャンマー側から日本企業を見る機会も数多くあった中で、日本のビジネス文化の特殊性について気づかれたことがあれば教えてください。

深山:沢山ありますが、日本人は「数字」をものすごく信じますね。たとえば、日本政府が公表している数字をほぼ全面的に信じて、ビジネス戦略を立てます。

これは、ミャンマーでは考えられないことです。インタビュー前編でお話した「お金」の話ともつながりますが、ミャンマー人は基本、政府のことをあまり信じません。政府よりも自分や身近な家族の言うことを信じます。

――今、「信じる」という言葉が出たのでうかがいます。本書では「現地の情報を集める上で、情報を一元的に持っている現地のキーパーソンと繋がることがいかに重要か」について書かれていますね。具体的にどのようにして、キーパーソンを見つけていくものなのでしょうか。

深山:たとえば一つのやり方として、交渉の場にキーパーソンが出てくるように仕向けるというものがあります。これは、まず接触したいキーパーソンの社会的地位を見て、それと同レベルの社会的地位にある知り合いのミャンマー人に交渉の場をセッティングさせるというものです。

ここで最も重要なのは、日本人の自分は自分の目をぜったいに信じないということ。ミャンマー人の目と行動力を徹底的に信じて、全てを委ねるのです。

あわせて、そのミャンマー人がキーパーソンと接触する際に、「私のバックには日本人がいて、あなたには具体的にこういうメリットがありますよ」ということを明示もしくは暗示してもらう。そうすれば、かなりの確率で会いたい人物が出てきてくれます。

――そのようにして現地の人との人脈を作っていくときというのは、どれくらい時間をかけるものなのですか。

深山:およそ1ヶ月以上はかけますね。数ヶ月かけることもあります。かけるというか、かかってしまうのです(苦笑)。これも本に書いたことですが、ミャンマー人は日本人にくらべて、レスポンスがかなり悪いです。ある日突然、音信普通になることも珍しいことではありません。

背景には、ミャンマーの通信環境はまだまだ日本のように満足できるレベルにないという課題があります。電波が弱いために、頻繁に通話が途切れてしまうのです。

ミャンマー人はこのような状況に慣れてしまっているため、「つながりにくいのだから、レスポンスが悪くても仕方ない」と考えます。結果、こちら側が必死になって電話やメールでコンタクトをとろうとしても、連絡が途絶えたままどんどん時間が経ってしまうのです。

でも、現地でビジネスをしている日本人の8割ぐらいは、こういった事情を分かっていないため、2週間ほど待ったところで痺れを切らして諦めてしまいます。

――そんなにもレスポンスが悪ければ、たしかに諦めたくなる気持ちも分かります……。

深山:でも一方で、こんなことも思います。先ほどの「日本のビジネス文化の特殊性」に話を戻せば、日本人は「メールはすぐに返すものだ」と思いこみすぎているといいますか……。一種、強迫観念のようなものすら感じます。

私自身、ミャンマー人とやりとりをするようになって、「そんなにすぐ返事しなくてもいいんじゃない?」と思うようになりました。実際、今では半分くらいミャンマー人のようなスタイルに変えていますが、仕事はまわりますからね。

――最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。

深山:先ほどもお話しましたが、ミャンマーでビジネスをやろうとすると、今の「レスポンスが悪い」という話や、お金に対する考え方が違うという話に限らず、文化的背景の違いがもとになって頓挫するということがよく起きます。

でも、1回や2回の失敗で諦めないでほしいのです。「誰でも初めは失敗するもの」ぐらいに思って、根気強くビジネスを続けていれば、自ずと味方が現れます。だから、それまでミャンマーでビジネスを続けていただけると大変ありがたいです。

(了)