トランプの移民政策とは真逆の対応。希望を捨てないフランス人たち

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「アメリカにいる不法移民1100万人を強制送還する!!」
「メキシコ国境沿いに壁を設置して、移民の侵入を防ぐ!!」

居酒屋で酔っ払っている中年男性の暴言にしか聞こえないが、実は違う。これらの発言は、アメリカ大統領選挙に立候補しているドナルド・トランプ氏によるものだ。しかも、彼は2016年3月現在、かなりの有力候補として勢力を伸ばしている。

「移民を受け入れるのは嫌だ」

こういった感情を持つ人が、少数派ではなかったことが証明されつつある。人間の歴史は差別との闘いとも言えるが、ここに来て戦況は変わり始めている。

■イスラム教徒への過度なバッシング

2015年11月13日(現地時間)、フランスのパリで同時多発テロが発生した。イスラム過激派による犯行だった。フランスのある新聞社がイスラム教を侮辱したということがきっかけとなり、テロリストたちはパリで大量殺人を行ったのだ。

「イスラム教徒はテロリストだ」という感情を多くの人に抱かせるには十分な出来事だった。以前からヨーロッパの国々では移民を拒否する動きがあったが、最近ではその勢力が無視できないほどに巨大化している。

日本ではSEALDsなど学生を中心とした団体が「ヘイトスピーチ反対」を叫んでいたが、世界の流れは再び差別と復讐へと向かおうとしているように思える。

■「裏切られても移民に手を差し伸べる」フランスという国

では、この移民反対の流れは止まらないのだろうか? 実は、まさにこの流れと戦っている国がある。それが、フランスだ。

『揺れる移民大国 フランス』(増田ユリヤ著、ポプラ社刊)では、移民問題の渦中にあるフランスの現場を取材している。

フランスという国はアルジェリアやモロッコからの移民で構成されている。有名なサッカー選手であるジネディーヌ・ジダン(元フランス代表、レアル・マドリード所属)も移民をルーツに持つ人間だ。

フランスの政治状況について本書はこう説明している。

===(以下、P228から引用)
もちろん、マリーヌ・ルペン党首が率いる国民戦線のような極右政党の台頭に象徴される、移民排斥に賛同する人たちの影響も少なくないわけではない。
しかし、昨年末の統一地方選挙では、オランダ大統領の社会党がサルコジ前大統領の共和党と選挙協力をして、第一党になろうかという国民戦線の勢いを阻止する、という動きも見せた。
この絶妙なバランス感覚こそ、フランスの姿なのだ。

===

つまり、移民を拒絶する政治家たちに対して、国民の多くが「NO」を突きつけたのである。
パリでのテロ事件のすぐあとに行われた選挙だったが、フランス国民たちは冷静だったのだ。

トランプフィーバーは、どこか興奮を与えてくれる。過激な言葉によって、人々は盛り上がっている。しかし、それは愚かな熱狂に過ぎないのではないか。
カオスな状況の今だからこそ、フランスの冷静な姿に目を向ける意義があるはずだ。

(新刊JP編集部)