会社は巧妙にあなたの人生を壊そうとしているかもしれない
あなたは今の仕事で左遷されたり、同僚に出世で先を越されたりしたら落ち込むだろうか? あまり仕事熱心でない人でも、たとえば後輩が上司になり自分をアゴで使うような状態になったらそれなりに悔しい思いをしたり、傷ついたりするのではないだろうか?
これだけ生き方や価値観が多様化した時代でも、「仕事」というのは生活の中で大きな比重を占め、特に男性にとってプライドを保つ根拠になりやすい。だからこそ、仕事での失敗や左遷、リストラによって精神を病んでしまい、生活そのものが壊れてしまう人は多くの場合男性だ。
ジャーナリスト、奥田祥子氏は順風満帆な生活に突如狂いが生じ、人生の歯車が狂い始めた男たちを長く取材してきた。それをまとめた『男という名の絶望』(幻冬舎刊)に仕事での挫折をきっかけに人生が狂い始めたこんな男性の話がある。
■「研修」に見せかけた退職勧告、巧妙化するリストラ
某電機メーカーの総務部門で課長をつとめる遠山茂さん(46歳・仮名)はある日勤め先の部長から、人材会社に行って二ヶ月研修を受けてくることを指示された時、「リストラ」が頭をよぎったという。
人事評価は悪くなく、揚げ足を取られるような失敗もない。しかし、実際に赴いてみると、その人材会社の実態はやはり「リストラ代行」だった。
最初の一週間で様々な種類のキャリアに関する「適性診断テスト」を受けさせられ、その結果「他の会社で、これまで培ってきたキャリアやノウハウを生かした方がいい」という診断結果が言い渡された。そして、今退職願を出せば、すぐにこの人材会社が行う再就職支援サービスを受けられると勧められた。
正当に解雇する理由がない時に、研修と偽って適性診断を行い、「今の会社は不向き」という診断を出すことで転職を勧める。近年横行しているリストラのやり口である。
■産業医までもが会社の手先?
しかし、このやり方に納得がいかなかった遠山さんは、会社の思惑通り退職願を出さなかったという。すると、会社側は別の手を使って遠山さんを追い詰めてきた。
「研修」から戻った数日後、上司に呼び出され、定期的に会社に出入りしている精神科の産業医の診察を受けるよう勧められた。そして、問診に正直に答えると「うつ病」の診断が。「悪化させないためにも休養したほうがいい」という言葉によって一カ月休職し、職場に戻って来た時には、課長のポストは五期下の後輩に奪われていたという。
この時点で遠山さんの心は折れてしまっていたのかもしれない。人間関係がギクシャクし、人事評価も最低の「D」に。遠山さんにはもう会社に異議を申し立てる気力もなかったようだ。
本書を読む限り、遠山さんは人材会社だけでなく産業医までもがリストラに加担していた印象を持っている。事実はどうあれ、長年勤めた会社に、別会社や医者まで使って追い出されたわけだから、傷つくなという方が無理である。
この後の遠山さんの人生は転落の一途だ。妻は子どもを連れて出て行き、一週間後に妻自身は記入済みの離婚届が送られてきた。求職活動をしても面接すら受けられない。自己嫌悪に陥った彼はついに自殺未遂を起こしてしまう。
■「仕事に生きる男」が仕事に裏切られるとき…
もし、遠山さんが仕事以外に自分の居場所を持っていたなら、たとえリストラの事実は変わらなかったとしても、別の生き方があったかもしれない。プライドのよりどころが「仕事」だったからこそ、仕事で受けた仕打ちによって人間としての尊厳が失われてしまった。
しかし、これは単純に「趣味を持ちなさい」「家庭を大切にしなさい」ということではない。問題はもっとずっと根が深い。『男という名の絶望』には仕事だけではなく、夫や父親、息子といった、「男に付きまとう役割」によって自尊心が傷つけられ、転落していった男たちの事例が取り上げられている。
彼らが何に傷つき、何に苦しみ、そしてどのように再生できたのか。男性にとってはとにかく「他人事ではない」と思わされる。
(新刊JP編集部)
これだけ生き方や価値観が多様化した時代でも、「仕事」というのは生活の中で大きな比重を占め、特に男性にとってプライドを保つ根拠になりやすい。だからこそ、仕事での失敗や左遷、リストラによって精神を病んでしまい、生活そのものが壊れてしまう人は多くの場合男性だ。
■「研修」に見せかけた退職勧告、巧妙化するリストラ
某電機メーカーの総務部門で課長をつとめる遠山茂さん(46歳・仮名)はある日勤め先の部長から、人材会社に行って二ヶ月研修を受けてくることを指示された時、「リストラ」が頭をよぎったという。
人事評価は悪くなく、揚げ足を取られるような失敗もない。しかし、実際に赴いてみると、その人材会社の実態はやはり「リストラ代行」だった。
最初の一週間で様々な種類のキャリアに関する「適性診断テスト」を受けさせられ、その結果「他の会社で、これまで培ってきたキャリアやノウハウを生かした方がいい」という診断結果が言い渡された。そして、今退職願を出せば、すぐにこの人材会社が行う再就職支援サービスを受けられると勧められた。
正当に解雇する理由がない時に、研修と偽って適性診断を行い、「今の会社は不向き」という診断を出すことで転職を勧める。近年横行しているリストラのやり口である。
■産業医までもが会社の手先?
しかし、このやり方に納得がいかなかった遠山さんは、会社の思惑通り退職願を出さなかったという。すると、会社側は別の手を使って遠山さんを追い詰めてきた。
「研修」から戻った数日後、上司に呼び出され、定期的に会社に出入りしている精神科の産業医の診察を受けるよう勧められた。そして、問診に正直に答えると「うつ病」の診断が。「悪化させないためにも休養したほうがいい」という言葉によって一カ月休職し、職場に戻って来た時には、課長のポストは五期下の後輩に奪われていたという。
この時点で遠山さんの心は折れてしまっていたのかもしれない。人間関係がギクシャクし、人事評価も最低の「D」に。遠山さんにはもう会社に異議を申し立てる気力もなかったようだ。
本書を読む限り、遠山さんは人材会社だけでなく産業医までもがリストラに加担していた印象を持っている。事実はどうあれ、長年勤めた会社に、別会社や医者まで使って追い出されたわけだから、傷つくなという方が無理である。
この後の遠山さんの人生は転落の一途だ。妻は子どもを連れて出て行き、一週間後に妻自身は記入済みの離婚届が送られてきた。求職活動をしても面接すら受けられない。自己嫌悪に陥った彼はついに自殺未遂を起こしてしまう。
■「仕事に生きる男」が仕事に裏切られるとき…
もし、遠山さんが仕事以外に自分の居場所を持っていたなら、たとえリストラの事実は変わらなかったとしても、別の生き方があったかもしれない。プライドのよりどころが「仕事」だったからこそ、仕事で受けた仕打ちによって人間としての尊厳が失われてしまった。
しかし、これは単純に「趣味を持ちなさい」「家庭を大切にしなさい」ということではない。問題はもっとずっと根が深い。『男という名の絶望』には仕事だけではなく、夫や父親、息子といった、「男に付きまとう役割」によって自尊心が傷つけられ、転落していった男たちの事例が取り上げられている。
彼らが何に傷つき、何に苦しみ、そしてどのように再生できたのか。男性にとってはとにかく「他人事ではない」と思わされる。
(新刊JP編集部)