松山聖陵vs小松
6回裏松山聖陵二死一塁から盗塁と失策で決勝点を踏んだ代走・浦野 航
この日、西条市ひうち球場のネット裏にはNPB12球団全ての四国地区担当スカウトが集結した。そのお目当ては松山聖陵の最速143キロ右腕・アドゥワ 誠(3年・投手・右投右打・195センチ80キロ・熊本中央リトルシニア出身)である。
その結果は2度に渡る外野手の好返球に助けられながら115球・被安打5・与四死球1・奪三振5・失点2・自責点1での完投勝利。「下半身を徹底的に鍛えた」冬場を越えて「キレとコントロールを磨く」テーマ設定の部分では格段の進歩が見られている。
ただし、球速は130キロ台中盤がほとんど。9回表一死一塁から「思い切り腕を振って」投ゴロに打ち取った際に出した自己最速144キロがなければ「セーブして投げているので評価が難しい」某球団スカウト評価がそのまま残るところだった。腕を振り、球速を伴った中で制球力をいかに夏までに付けるか。1つのハードルを越えた今、彼にはさらなる高みに挑戦してもらいたい。
個人から試合に目を転じると、勝敗の分かれ目は「代走」だった。2対1・松山聖陵リードで迎えた6回裏。二死一塁にランナーを残した状態のとき、松山聖陵・荷川取 秀明監督は躊躇なく一塁ランナーコーチの浦野 航(3年・二塁手・右投右打・166センチ64キロ・羽曳野ボーイズ<大阪府>出身)を代走に送り込む。
「馬越 康輔(3年・投手・右投左打・165センチ68キロ・今治市立伯方中出身)のクイックなら走れる」。この浦野こそが松山聖陵が昨夏・昨秋の2大会連続初戦敗退を踏まえ、「打てなくても勝つ」を最も体現できる男だったからだ。
その信頼はビッグプレーにつながる。「一塁コーチでホームに投げるときとけん制のときの癖をずっと見ていた」浦野は2球目ですかさず二塁盗塁、捕手送球がそれて三塁へ。さらにその返球も悪送球となり、3点目を奪取。終わってみれば、これが「決勝点」となった。
「自信をもって走った。勝利に貢献できて嬉しいし自信になる」と話す浦野。レギュラーを目指しながらもまずは自分の職責をまっとうする。エゴイストにならず現時点でのベストを目指したアドゥワ 誠の投球や、試合を決めたホーム返球2個など、これまでと一味違った「チーム力」が備わりつつある松山聖陵の2016春。その成長過程にはこれからも注目である。
(文=寺下 友徳)
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