金沢学院東高等学校(石川)「実践につながる ティーバッティングNo.3」 (全3回)

写真拡大 (全2枚)

 最終回はティーバッティングにまつわるQ&Aや、金沢学院東の学生打撃コーチが金森 栄治監督の下で学んだことを伺いました。

ティーバッティングにまつわるQ&A

金沢学院東高等学校・金森栄治監督

 その後も金森監督のティーバッティング論は続いた。読者のみなさんが知っておいて損はないと感じた内容をQ&A方式でいくつか紹介したい。

Q1.スタンドティーを行う際はボールをどの位置に置いて打つのが望ましいのでしょうか?

金森 決まりはありません。正解があるとするなら「いろんな場所で打ってみよう」ということになります。スタンドティーは立つ位置を変えればコースも奥行きも自由自在です。高低だって変えられます。あらゆるポイントで打ちながら「ここのコースはこういうふうにバットを出せばこういう打球が飛ぶのか」「ここまで差し込まれてもファウルにはできるな」「一番力がボールに伝わるのはおへその延長線上かな」といったようなことを1球、1球考え、試行錯誤を積み重ねながら、自分の中のバッティングの引き出しを増やしていく。

 いざ実戦ではいろんなポイントで打つことが要求されますし、たくさんのポイントで打てる選手が本番でいい結果を生むことができる。スタンドティーに限らず、トス形式のティーバッティングでもいろんな場所にトスを上げてもらうようにしてください。

Q2.速射砲のように何球も連続で打つティーバッティングメニューを採用しているチームは少なくないですが、このメニューにはどのような効果があるのでしょうか? 

金森 振る力をつけるという点で有効性があると考えていますが、私はあまり好きではないです。というのも速く、連続で打つことに目的が移ってしまい、手だけで打っているケースをひんぱんに見かけるからです。やるのであれば「きちんと腰を入れての連続ティー」にこだわってください。

Q3.トスをうまく上げるためのコツを教えてください。

金森 手だけで上げようとするとコントロールはつけにくいものです。私はショートがゴロを捕り、併殺を狙うために二塁ベースに入ったセカンドに下からトスをするときのようなイメージでトスを上げるようにしています。右手でトスを上げる場合、左足を前に出しがちですが、右足を前に出した方がコントロールはつけやすくなります。

Q4.ティー打撃の際、バドミントンの羽根やプラスチックのボールのような、硬球よりもはるかに軽い物を打つことの有効性はどこにあるのでしょうか。

金森 私自身は軽い物を打たせるのは大好きで、選手たちにも羽根やプラスチックボールをよく打たせます。最大の効果は、詰まっても手に衝撃がこないので、詰まることを恐れる必要がなく、素振りの延長のような思い切りのいいフルスイングが可能になることです。選手たちには「羽根やプラスチックボールを打つときの感覚そのままに硬球を打て」とよく言います。この感覚を会得できれば、バッターとして大きな強みになります。

[page_break:インタビュー・高野 晴輝コーチ編]インタビュー・高野 晴輝コーチ編

「スタンドティーを使った打撃練習を毎日のようにやり続けて、打撃がものすごくよくなった子がいるんです。内臓の病気のために昨年の夏にプレーヤーの道を断念し、現在は学生コーチとしてチームをサポートしてくれているのですが、高校に入学してから夏までのバッティング面における成長率はすごかった。もしよかったら話を聞いてやってください」金森監督に呼ばれ、取材がおこなわれていた一室に現れたのは新2年生の高野 晴輝コーチだ。

金沢学院東高等学校・高野 晴輝コーチ

――高校に入学し、金森監督の打撃論を最初に聞いたときはどう感じましたか?

高野 中学時代に受けていた指導とは真逆のように感じましたね。最初は正直、面食らいました。

――中学時代はどういう感覚で打っていたのですか?

高野 上体や腕のことばかりを意識していました。両腕を伸ばし、ヘッドを返しながら前でさばいて運んでいくという感じで。今にして思うと、バットのヘッドは早い段階で体から離れていたし、理想とするインサイドアウトのスイングとは程遠く、力のロスも大きかったのですが、軟式だったこともあってか、その打ち方でもそこそこ打てたんです。でも高校でその打ち方をすると、引っかけたサードゴロ、ショートゴロばかりで、全く結果が出なかった。「騙されたと思って、監督の提唱している打ち方にチャレンジしてみよう」と思ったのが始まりです。毎朝、スタンドティーと向き合いながらひとりで練習することがいつしか日課になっていました。

――取り組み始めてから、体で理解できるようになるまでに時間がかかりましたか?

高野 最初はものすごく窮屈に感じました。「ボールは体に近い方が力は伝わる」という監督の話は頭では理解できていたのですが、いざ体の近いところにボールを置くと、いくらバットの根っこで打ってもいいと言われても、「こんな窮屈な状態でどうやって打てばいいんだ⁉」と感じてしまって、なかなか体で理解するまでには至らなかった。

 でも毎日続けるうちに、ボールに力を伝えるコツや腰で打つコツが少しずつわかってくるようになってきたんです。詰まることを恐れず、腰の入った強いスイングができていれば、根っこで打ってもそれほど手も痛くなりませんし、打球もヒットゾーンへ飛んでいく。監督が口を酸っぱくして力説していた、「詰まることを恐れないことの大切さ」が次第に理解できるようになっていきました。監督からも「見るたびによくなっている。練習のアプローチは間違っていない」と言われたので、それを励みに毎日のように朝の自主練習を続けました。

[page_break:本物のバッティングを身に付けるには振り続けることしかない]本物のバッティングを身に付けるには振り続けることしかない

――続けるうちに、頭で理解したことを体で体現できるようになっていった。

高野 そうです。自分の中で一番はまったのは「素振りをしていたらたまたまボールが途中にあった」という感覚でスタンドティーを行ったときですね。この感覚でボールを打つと、自分でもびっくりするような強い打球が打てるようになったんです。実戦でもライナー性の強い当たりや長打がどんどん出始めるようになったのですが、そんな大きなコツをつかんだ矢先にプレーヤ―としての道を断念することになってしまって。非常に残念な気持ちもあったのですが、これからは学生コーチとしてさらに勉強を重ねて、金森監督の打撃論をチームにより浸透させていければと思っています。

――このコラムを読んでくださっている球児のみなさんに何か伝えたいことはありますか?

高野 これまで自分が教わってきたこと、やってきたことと異なる指導を受けると、人はついつい拒否反応を示しがちですが、騙されたと思ってとりあえずやってみようと思える人がいい流れを呼び込めているような気がします。自分も「とりあえずやってみる」精神を常に忘れず、頑張っていきたいと思います。

 インタビューの終わり際、金森監督はこんな話をしてくれた。

「頭で考えるより、まずはバットを振ること。わからなくてもいいので、とにかくバットを振る。振って、振って、振りまくることでしか、本物のバッティングは身につかないと思ってください。ティーバッティングにはいろんな種類があり、それぞれに狙いはあるのですが、私はティーバッティングの最大の効果は何かと尋ねられれば、『目先が変わるので飽きることなく、結果的にたくさんバットを振ることができること』と答えたくなります。私は最後の最後は『1本でも多くバットを振ったやつが勝つ』と思っています。ライバルよりも1本でも多く振るための手段の一つとして、ティーバッティングを有効に取り入れてみてください。高校球児の読者のみなさん、頑張ってください!」

(取材・文/服部 健太郎)

注目記事・実践につながる ティーバッティング