打撃戦に火をつけた3ボール0ストライクからの本塁打!

 高松商22安打17得点、長崎海星12安打8得点。中盤以降は激しい打撃戦になった。 勝った高松商の長尾健司監督は、「反省の多い試合で、素直に喜んでいいのか。ただ打つ方に関しては良い面が出た」と複雑な表情で話した。主将の米麦 圭造(3年)も、「バッティングは良かったが、守備とピッチャーは集中しきれていない。全然ダメな試合でした」と反省の言葉がばかり。 逆に敗れた海星の加藤慶二監督は、「二人の投手に連投がきかなかったのが敗因。得点の後に必ず失点をしてしまったことでリズムに乗れなかった。継投が早すぎたのではないかなと悔いが残ります」とこちらも反省が多いコメントであった。

 中盤以降の打撃戦に火をつけた場面がある。6回裏、海星の5番・永石 拓武(3年)が放った2ランだ。カウントは3ボール0ストライク。高松商のエース・浦 大輝(3年)がストライクを取りに行った甘い球を、永石はフルスイングした。「絶対に取りにくると思った。入ってくれ」と願った打球は、風にも乗ってセンターバックスクリーン下へ落ちた。野球でも稀少な部類に入る3ボール0ストライクからの本塁打。高松商の浦に与えたダメージは大きく、「完投したかった」というエースはこの回途中でマウンドを美濃 晃成(3年)に譲った。

 3ボール0ストライク。簡単に四球を与えたくない投手の心理状態では、どうしても安易にストライクを取りにいってします。ストライクばかりを考えるため、信念なき1球になりがちだ。打者はそこにつけ入る隙を見つける。永石のフルスイングが火をつけた壮絶な打撃戦。全国の球児にはあらためて3ボール0ストライクからの1球の価値を考えるきっかけにしてほしい。

 勝負のポイントにはならないが、もう一つ触れておきたい場面がある。それは9回表の高松商の攻撃。 途中出場で7番に入っていた吉田 啓瑚(3年)がヘルメットに死球を受けた。球審からは念のために、臨時代走がリクエストされる。満塁だったため、6番と5番は塁に出ており、臨時代走は4番打者。ただ高松商の4番はキャッチャーの植田 響介(3年)であるため、その前の3番・米麦が一塁へ走った。昨年までのルールならバッテリーは臨時代走の対象から外れるため、これで良かったのだが、今年から高校野球特別規則が変わり、臨時代走の対象から外れるのは投手のみとなった。しかし両チームと大会運営サイドにこのことを指摘する声はなく、そのまま米麦の臨時代走でゲームは進行した。

 試合後、大会事務局は「適用のミスです」と確認不足だったことを認めている。今大会では同様のケースで、新ルールに基づきキャッチャーが臨時代走に出た場面があったからだ。 高松商の植田響に話を聞くと、「臨時代走のルールが変わったのは知っていました。キャッチャー防具をつけていたので、外して臨時代走に行こうとしたら、(その前に)監督が米麦に行けと言いました」と苦笑い。まだ慣れていないために起こってしまった事例ではあるが、大会直前の代表者会議でルール変更は説明されている。

 起こってしまったことをどうこう言うつもりはない。ただ、大会運営側と攻撃しているベンチはもちろん、守備をしているベンチにもこの件をはっきりと指摘できる意識が必要になってくる。高校野球に携わる全国の関係者にこの事例を忘れないでほしい。

 高校野球特別規則は日本高校野球連盟のホームページで閲覧することができる。ぜひ見ていただきたい。 

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