【名古屋】見えてきた“小倉カラー”。60分余りの練習の中に独自の哲学、こだわりも
“新米監督”によるチーム作りは少しずつ、しかし着実に進められている。
「テクニカル」「共感」「スマートさ」の3つのキーワードと、それらを統べる「5人目まで連動するサッカー」というチームコンセプト。小倉隆史GM兼監督の確固たる哲学の下に組み立てられた指導論とトレーニング方法は、今のところ選手にも好意的に受け入れられているようだ。
一体どんな指導者なのか――。監督就任1年目の小倉GM兼監督について、誰もが思ったことだろう。解説者としてのキャリアは10年選手だが、指導経験は年代別や育成に間口を広げてもゼロ。それゆえに実際の指揮を不安視する声もあったが、蓋を開けてみればまずまず順調な出だしという印象だ。
例えば経験の少なさをカバーすべく、ヘッドコーチにはヨーロッパでは知る人ぞ知る育成のビッグネーム、ステンリー・ブラード氏を招聘。彼を含めたコーチングスタッフと、監督がそれぞれの得意分野のメニューを担当する分業制を敷いている。
ウォーミングアップは菊池忍フィジカルコーチ、その後の基礎的なトレーニングをステンリーヘッドコーチや島岡健太コーチが担当し、戦術練習は小倉GM兼監督の持ち分である。
「その方が、自分が全体を見る時間ができるからね」とは小倉GM兼監督の言だが、これは妙手。練習メニューを俯瞰していることで時に厳しく、時にコミカルに選手への声かけをすることができ、練習中の雰囲気は常に程よい緊張感が漂っている。
また、練習時間の短さも特徴的だ。ミーティングなどで長引いた始動日を除いて90分を超えることはまずなく、ここまでは60分程度で終わることの方が多いぐらい。
「自分自身、ダラダラしているのが好きじゃないし、集中が続く時間というものもある」と、指揮官は量より質を追求しており、選手たちも「すごくコンパクトな練習だし、分かりやすくて集中もしやすい」(磯村亮太)と歓迎している。
もちろん、短い時間ながらも練習の強度は保たれており、時に走り込み中心のメニューで体力強化を図るセッションがあることも。しかし全体の時間はコンパクトに抑えられるため、選手のストレスはそれほど大きくはない様子だ。
内容面でも“小倉色”はしっかりと表現されている。現状で目立つのはパスの質と、受け手の動きの質への要求だ。単純な対面パスをやるにしても、「グラウンダー、ボールスピード」という言葉が毎回のように聞こえてくる。
パス練習のバリエーションも豊富で、そのどれもが動き出しの中でパスを渡していくものばかり。動きながらパスを受け、出し、コンビネーションの距離感や感覚を養っていく狙いはピッチ外から見ても明確なだけに、選手たちにはより深く刻み込まれていることだろう。
フォーメーションでの守備練習では逐一動きを確認しつつ細部はその場で調整するフレキシブルさがあり、これも選手にとっては好印象。そういったテーマを持ったメニューを段階的に行なっていき、最後に紅白戦や7対7など、実戦形式での確認の場を設けているのも落とし込みの作業としては効率的だ。
その中で選手たちは伸び伸びとプレーし、新たなチーム作りに積極的に取り組んでいる。10名と例年以上に多い新加入選手の面々もあっという間にチームに馴染み、早くも存在感を増してきた。
とりわけ、199センチの超大型ストライカー、ロビン・シモビッチは、サイズに似つかわぬテクニックと視野の広さで巧みに周囲を活かしつつ、紅白戦ではきっちりと得点も挙げる力強いパフォーマンスを披露。
タイからやってきた韓国人ボランチのイ・スンヒも、パワフルな対人守備と鋭いフィード、危機察知能力などが光る。小川佳純はじめ周囲の選手が「スンヒはかなり“使える”」と、現場レベルの評価も上がってきた。
新加入でいえば経験豊富な安田理大と独特のドリブル突破が魅力の新人・高橋諒による、左SBのポジション争いも面白い。右の矢野貴章vs古林将太もそれぞれの良さがあり、彼ら4人にそのままサイドハーフを含めた上下のサイドを任せても機能しそうな攻撃能力を持っている。
もちろん、新戦力に加え、永井謙佑や田口泰士、川又堅碁ら既存の中心選手たちもモチベーション高く今季を迎えている。負傷で出遅れた選手も数名いるが、新チームの出だしとしては良好な状態と言っていい。
いまだ対外試合を行なっていないため、実戦での動きはまったくの未知数だが、少なくともチーム作りの方向性やプラン、練習の雰囲気などにこれといった問題点はない。むしろ、未知数の部分が「どこまで良くなっていくのか」と思える。それが小倉隆史GM兼監督率いる新チームに対する正直な感想だ。
取材・文:今井雄一朗(スポーツライター)
「テクニカル」「共感」「スマートさ」の3つのキーワードと、それらを統べる「5人目まで連動するサッカー」というチームコンセプト。小倉隆史GM兼監督の確固たる哲学の下に組み立てられた指導論とトレーニング方法は、今のところ選手にも好意的に受け入れられているようだ。
一体どんな指導者なのか――。監督就任1年目の小倉GM兼監督について、誰もが思ったことだろう。解説者としてのキャリアは10年選手だが、指導経験は年代別や育成に間口を広げてもゼロ。それゆえに実際の指揮を不安視する声もあったが、蓋を開けてみればまずまず順調な出だしという印象だ。
例えば経験の少なさをカバーすべく、ヘッドコーチにはヨーロッパでは知る人ぞ知る育成のビッグネーム、ステンリー・ブラード氏を招聘。彼を含めたコーチングスタッフと、監督がそれぞれの得意分野のメニューを担当する分業制を敷いている。
ウォーミングアップは菊池忍フィジカルコーチ、その後の基礎的なトレーニングをステンリーヘッドコーチや島岡健太コーチが担当し、戦術練習は小倉GM兼監督の持ち分である。
「その方が、自分が全体を見る時間ができるからね」とは小倉GM兼監督の言だが、これは妙手。練習メニューを俯瞰していることで時に厳しく、時にコミカルに選手への声かけをすることができ、練習中の雰囲気は常に程よい緊張感が漂っている。
また、練習時間の短さも特徴的だ。ミーティングなどで長引いた始動日を除いて90分を超えることはまずなく、ここまでは60分程度で終わることの方が多いぐらい。
「自分自身、ダラダラしているのが好きじゃないし、集中が続く時間というものもある」と、指揮官は量より質を追求しており、選手たちも「すごくコンパクトな練習だし、分かりやすくて集中もしやすい」(磯村亮太)と歓迎している。
もちろん、短い時間ながらも練習の強度は保たれており、時に走り込み中心のメニューで体力強化を図るセッションがあることも。しかし全体の時間はコンパクトに抑えられるため、選手のストレスはそれほど大きくはない様子だ。
内容面でも“小倉色”はしっかりと表現されている。現状で目立つのはパスの質と、受け手の動きの質への要求だ。単純な対面パスをやるにしても、「グラウンダー、ボールスピード」という言葉が毎回のように聞こえてくる。
パス練習のバリエーションも豊富で、そのどれもが動き出しの中でパスを渡していくものばかり。動きながらパスを受け、出し、コンビネーションの距離感や感覚を養っていく狙いはピッチ外から見ても明確なだけに、選手たちにはより深く刻み込まれていることだろう。
フォーメーションでの守備練習では逐一動きを確認しつつ細部はその場で調整するフレキシブルさがあり、これも選手にとっては好印象。そういったテーマを持ったメニューを段階的に行なっていき、最後に紅白戦や7対7など、実戦形式での確認の場を設けているのも落とし込みの作業としては効率的だ。
その中で選手たちは伸び伸びとプレーし、新たなチーム作りに積極的に取り組んでいる。10名と例年以上に多い新加入選手の面々もあっという間にチームに馴染み、早くも存在感を増してきた。
とりわけ、199センチの超大型ストライカー、ロビン・シモビッチは、サイズに似つかわぬテクニックと視野の広さで巧みに周囲を活かしつつ、紅白戦ではきっちりと得点も挙げる力強いパフォーマンスを披露。
タイからやってきた韓国人ボランチのイ・スンヒも、パワフルな対人守備と鋭いフィード、危機察知能力などが光る。小川佳純はじめ周囲の選手が「スンヒはかなり“使える”」と、現場レベルの評価も上がってきた。
新加入でいえば経験豊富な安田理大と独特のドリブル突破が魅力の新人・高橋諒による、左SBのポジション争いも面白い。右の矢野貴章vs古林将太もそれぞれの良さがあり、彼ら4人にそのままサイドハーフを含めた上下のサイドを任せても機能しそうな攻撃能力を持っている。
もちろん、新戦力に加え、永井謙佑や田口泰士、川又堅碁ら既存の中心選手たちもモチベーション高く今季を迎えている。負傷で出遅れた選手も数名いるが、新チームの出だしとしては良好な状態と言っていい。
いまだ対外試合を行なっていないため、実戦での動きはまったくの未知数だが、少なくともチーム作りの方向性やプラン、練習の雰囲気などにこれといった問題点はない。むしろ、未知数の部分が「どこまで良くなっていくのか」と思える。それが小倉隆史GM兼監督率いる新チームに対する正直な感想だ。
取材・文:今井雄一朗(スポーツライター)