滑走路が「井」に近い形状で敷設されている羽田空港(画像出典:国土交通省)。

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都心に最も近い日本の空の玄関口・羽田空港で、「日本の未来」を見据えた国際線の増便が検討されています。すでに「混雑空港」へ指定されている同空港が、どのようにしてそれを実現しようというのでしょうか。

滑走路を増やしても増便困難な羽田

 グローバル化が進み、2020年に「東京オリンピック・パラリンピック」が予定されているなか、羽田空港では国際線機能の強化が進められています。

 2014年に約1341万人を数え、2020年には2000万人を超えるといわれている訪日外国人旅行者の数。インバウンドが盛り上がりをみせる一方で、日本では少子高齢化、人口減少が進む見込みです。

 このような現状において国土交通省は、将来にわたって日本の経済を維持・発展させていくために、より一層、外国との結びつきを深めていくことが課題としています。そのためには、国際線ネットワークのさらなる拡充が欠かせません。

 そうした背景からいま、2010年に国際線定期便の就航を再開し“首都圏の空の玄関口”として返り咲いた羽田空港では、増便など国際線機能のさらなる充実が図られようとしています。

 しかし、羽田空港での増便は簡単に行えることではありません。

 羽田空港では現在、「井」に近い形状で敷設されている4本の滑走路を使って1時間に80回の離着陸が行われています。そして増便したくても、別の滑走路からの離陸機と安全な間隔を保ち、空港の敷地内で地上走行する機体を待って離着陸する必要があることなどから、いまのままでは、増やせても1時間あたり82回が安全運航を維持できる最大限度です。

「滑走路を増やせばよい」と思うかもしれませんが、それでも離着陸できる回数は変わりません。そもそも、東京湾上空がとても混雑しているためです。

 そこで国土交通省は、滑走路の使い方や飛行経路を見直すことで離着陸の回数を1時間あたり90回にし、深夜・早朝時間帯以外の国際線について発着回数を年間6万回から約1.7倍の9.9万回へ増やす方針を示しました。

どうやって離着陸回数を増やすのか、キーワードは「都心上空」

 羽田空港の飛行経路は北風と南風の場合の2通りあり、原則的には海側から到着し、海側へ出発するルートをたどります。いずれも、騒音の影響を減らすために東京湾上空を旋回しながら十分に高度を上昇させ、低高度で都心上空を通ることはほとんどありません。

 そうしたなか国土交通省は離着陸回数を増やすため、夏場に多くみられる南風の場合(年間平均4割)、滑走路の使い方を都心側から到着して海側(川崎沖・木更津沖)へ出発する形に変更し、冬場に多くみられる北風の場合(年間平均6割)、離陸後に江東区や墨田区付近を通過しながら上昇していくルートを新たに使用する、という案を提示しました。

 このように、都心上空を低高度で通過する滑走路の使い方、飛行経路を採用することによって、1時間あたりの離着陸回数を90回まで増やすことができると国土交通省は提唱しています。南風の場合、羽田空港D滑走路への着陸機がなくなるためA滑走路で常に離着陸が可能になるほか、北風の場合、C滑走路からの飛行経路とD滑走路からの飛行経路の間隔を充分に確保でき、D滑走路の状況に影響されず、C滑走路から離陸可能になるからです。

賛否両論がある新たな案

 ただ、低い高度で都心上空を通る新経路には賛否両論が挙げられています。そのひとつは、以前から地域住民に問題視されてきた騒音です。

 これについては新しい滑走路の使い方、飛行経路を運用する時間帯を限ることが考えられています。具体的な運用時間は国際線の需要が集中する15時から19時(北風時は出発需要の多い朝6時から10時30分も含む)で、これ以外の時間帯では現行の飛行経路が継続される見込みです。

 ちなみに最新の航空機は、昔と比べて大幅に音が静かになってきています。たとえば、小型機の主流であるエアバスA320やボーイング737-800などの機材は、日本の高度成長期を支えたダグラスDC-8と比べて約30dBも静かになり、周辺地域へもたらす騒音も軽減されています。

 また騒音のほか、低高度を飛行する際の安全性についても不安の声が多く寄せられています。

 国土交通省が示した新たな案は、説明会や特設サイトなどを通じて国と住民が双方にコミュニケーションを取り、聴取された多様な意見を考慮しながら進められる予定で、まず2016年夏までに「環境影響に配慮した方策の策定」が行われます。そして2017年から2019年にかけて、機能強化方策が実施される見込みです。

羽田空港、強みを活かして発展できるか

 世界において技術の最先端を走る日本ですが、現在、“首都圏の空の玄関口”羽田空港から海外への就航数は17カ国25都市に限られています。

 しかし都心から15kmという立地上の優位性を活用し、より多くの都市へネットワークを展開することで、ビジネスの可能性を広げることができるでしょう。

 また、羽田空港における国内線の路線網は日本最大で、48都市・49路線に就航しているため、その国際線の路線網を強化することは“地方と諸外国とのつながり”を発展させることにもなります。24時間運用であることも羽田空港の特徴です。

 羽田空港の周辺地域では2020年へ向けて、訪日外国人旅行者の受け入れ体制整備が進められています。新しい宿泊施設の建設が始まっているほか、大田区では個人宅の空き部屋などを宿泊施設として貸す「民泊」を認める条例案も可決されました。

 また、多摩川沿いのエリアや旧羽田空港の跡地に新しく商業施設を開発するなどの計画も具現化してきており、数年後、羽田空港は大きく発展しているかもしれません。