都立城東高等学校(東京)

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 東京都を代表する都立の強豪校・都立城東高等学校。ちょうど今の1年生たちが生まれた年(1999年)に甲子園初出場を果たした。そしてその2年後に2回目の甲子園出場を果たすなど、私学に負けない戦いぶりで人気を博す。地元の方や都立城東のファンは選手たちを、愛着をこめて「城東健児」と呼ぶ。今秋の東京本大会でもベスト8まで勝ち上がり、さすがと思わせる戦いぶりを見せた。そんな伝統ある都立城東の現在を追った。

危機感からスタートした新チーム

トレーニングに取り組む選手たち(都立城東高等学校)

 JR総武線・錦糸町駅の隣駅にある亀戸駅。ここが都立城東の最寄り駅だ。都立城東に行く道のりには商店街が多い。老若男女が集まったこの町にはどこか親しみやすさを感じさせる。これが下町的な雰囲気といっていいだろう。そんな都立城東だが、部員は2学年で67名と都立校としては大所帯。毎年、都内の強豪と渡り合ってきたが、今年は新チームのスタート直後、平岩 了監督は早期敗退も覚悟したという。というのも、当時は、サインの見通しなども多いチームだった。

 いくらサインを教えてもサインミスが1試合に必ず1回、2回と出てくる。それ以外にも、投打で力が抜き出た選手が多いわけでなく、今振り返れば、よくベスト8まで勝ち上がったと思わせるエピソードである。

 主将の高野 慎太郎も同様の感想で、「最初は不安しかなかったです」と当時を振り返る。だからこそ、「このままではダメだ」とそれぞれに危機感を持ち、平岩監督と選手たちは話し合いを行った。「サインは大体わかるではなく、全員が分からないといけません。絶対なので」

 そこで、サインを改めることになった。選手たちがこういうサインでいきたいと、複雑なものから分かりやすいものに変更した。そこから選手たちは少しずつ変わっていく。また相手校との練習試合でも学んだこともあった。8月上旬、志学館との練習試合で、劣勢になっても声を出し続ける志学館の姿勢を学ぶべきだと選手たちに促した平岩監督。ここから劣勢になっても声を出し続ける選手や、また声を出してベンチ内を盛り上げられる選手がベンチ入りするようになった。

 さらに、今できること、できないことを切り分けて考え、これからパワーをつけたり、個々の能力を高めることに注力するよりも、犠打、盗塁、スクイズを駆使して勝利を目指すチームになるのが最善と考えた。バント、盗塁といった細かい野球を実行するために、選手たちの分かりやすい「サイン変更」により、少しずつ自分たちの野球ができるようになって臨んだブロック予選。まず都立王子総合に3対1で勝利、続く八王子戦も5対3で勝利すると、代表決定戦では青稜に7対0と快勝し、本大会出場を果たした。

[page_break:勝ち進むごとにチーム力がついていった]勝ち進むごとにチーム力がついていった

 本大会の初戦の相手は、明大中野。明大中野とは夏の東東京大会5回戦で対戦し、1対4で敗れている。明大中野には、その時投げた2年生エースの川西 雄大がまだ残っていた。川西は右サイドから140キロ台の速球、キレのある変化球を投げる好投手だが、この投手からどう打つかが鍵となったが、この試合、先発の大竹 義輝も140キロを超えるオーバーハンドと力のある投手であることに変わりはない。

 城東は、3回終わって、2点をリードされていたが、4回に同点に追いつくと、ここから都立城東のエース・関根 智輝と、4回からマウンドに上がった川西との投げ合いになり、無失点投球が続く。均衡した試合が動いたのは、8回。城東打線は、得点圏のチャンスを作って、エース・関根自ら勝ち越しの適時打を放つと、9回表には清水 晴海の適時打で1点を追加し、最後は関根が守り切り、見事にリベンジを果たしたのであった。

 この勝利に、主将の高野は、「これでチームが乗ったというか、明大中野に勝ちたいと臨んだ試合で、好投手を打って、この試合に勝てたことで1つにまとまったと思います」

エース・関根智輝投手(都立城東高等学校)

 明大中野を破った勢いで、都立紅葉川を6対3で破り(試合レポート)、準々決勝進出を果たした都立城東。ここまでの躍進について平岩監督は「エースの関根の存在が大きいですね。強豪校相手にもしっかりと好投できているのは素晴らしい。今回の活躍の要因は夏が終わってから完投できるようになったのが大きいですね」とエースの関根の成長を高く評価。

 関根は130キロ後半の速球を投げ込む右の本格派で、140キロを超える時もあるという。ただ平岩監督が何より評価するのは球速ではなくコントロールだ。「上位に勝ち進んだエースと比べても良いと思います。そこが試合を作れている要因。フォームが安定しているというのもあるでしょう」

 また、主将の高野も、関根について、「大黒柱ですね。まさに投打の柱ですが、関根頼りになってはいけないと常に感じています」

 もちろんここまで勝ち進んだのは関根だけではなく、他のナインたちの成長も見逃せない。その要因として挙げられるのが秋季大会のスケジュール。夏の大会と違って、秋季大会の開催は基本的に土曜と日曜だ。1週間空くことで、じっくりと技術練習に励むことができ、「勝ち進むごとにチーム力がついている実感があった」と話す高野主将。チーム状態も上向いて、臨んだ準々決勝の二松学舎大附戦だったが、1対10で敗戦。

 この試合、「エースの関根がいつものような投球ができなかった」と平岩監督が振り返るように、関根はコントロールが安定せず、ボールも走らない。そこを二松学舎大附打線に付け込まれた。また打線もエース・大江 竜聖(2015年インタビュー)から1点しか取れなかった。

[page_break:二松学舎大附戦で痛感した個の力の重要性]二松学舎大附戦で痛感した個の力の重要性

高野慎太郎主将(都立城東高等学校)

 選手たちにとって大江の投球は衝撃的だったようで、「あんなボールは見たことがない。プロを狙える投手ってこういう投手のことを言うんだな」と4番を打つ長濱 有作は脱帽した様子だった。この秋の大会を振り返って、平岩監督は今年のチームは今までのチームと違うアプローチを心掛けたという。

「これまでは、ベスト8クラスまで勝ち上がるチームは個々のポテンシャルが高い選手が多かったので、そのポテンシャルをどう引き出すかを考えてやっていましたが、今年はチーム打撃に徹するなど、チーム全体の力を引き出して戦ってきました。でもこのままではいけないと思っています」とこの冬は個々の打撃力アップを図る。

 主将の高野も同様の感想だった。「ここまで僕たちは組織力やまとまりで勝ち上がってきました。でも大江投手と対戦したことで、個の力が足りないことが分かりました。二松学舎大附の選手たちはスイングも鋭く、体も大きかったですし、自分たちもこの冬の間はしっかりと体を大きくして、打撃力アップをしていきたいです」と決意を語ると、4番の長濱も、「長打力をつけることにこだわっていきたいです」と打撃力を付けていかなければならないと自覚している。

 大江投手とこの時期に対戦できたのは大きかった。4番を打つ長濱は、「東東京で最も良い投手。大江投手と秋の段階で対戦できたことで、それをイメージしながら練習ができます」とこの対戦をにチャンスととらえている様子だった。

 そして、甲子園に行くには大黒柱、すなわちエースの存在が不可欠だ。主将の高野はエースの関根にかなり期待している様子だった。関根も1人の投手のプライドとして、「昨年、都立校からプロ入りした鈴木 優投手(都立雪谷−オリックス)に続く存在になりたいと思いますし、東京都のナンバーワン投手になりたい」と決意を新たにしていた。今では体作りに励んでおり、大会時は180センチ79キロだったが、現在は181センチ83キロまでサイズアップ。そして目標とするスピードは150キロと、モチベーションを高くして臨んでいる。

 二松学舎大附と戦ったことがプラスになったと言えるのは来年次第。さらなる快進撃を見せられるか。城東健児たちは勝負の冬を迎える。

(取材・文=河嶋 宗一)

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