マイナンバーであぶり出される!「家族手当不正受給・年齢サバ読み・副業バイト」

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マイナンバーで発覚「家族手当の不正受給、副業バイト」

▼サラリーマンの間でも身辺整理の動き

最近、社会保険労務士の私にマイナンバーを巡る悩み相談が相次いでいる。

例えば、32歳、中小の機械部品メーカーの男性Aさんだ。

「悩みというのは、ほかでもありません。(禁止されている)副業のアルバイトを会社に報告するべきかどうかなんです」

声を潜めて話すAさんは入社して10年経つのだが、デフレの影響で昇給がほんの少ししかなかった。会社の受注量が小さかったので残業もさせてもらえなかった。賞与も雀の涙だった。おかげで生活が苦しく、どうしても月に数万円足りなかった。そこで、数年前から会社と自宅の通勤路線の途中駅前にあるコンビニで夜アルバイトをするようになった。

午後6時から午前0時まで働いていたので、就寝は午前2時だった。翌朝、会社に出勤する時に遅刻はしたことがないが、それでもアクビはしばしばだった。

聞けば、「秘め事」はもう1つあった。

実は5年前に離婚したが、それを会社に報告していなかった。そのため、家族手当を不正に受給していたのだ。報告しなければと思いつつ、そのままになっていた。

マイナンバーもあるし、(バイトも離婚も)会社にバレたら、どうなるだろうか? クビだろうか?」
「いまのうちに自主した方が良いのか?」
「いっそのこと、マイナンバーの提出を拒否したら、逃れることができるだろうか?」

マイナンバーの導入を控えて、悩みは深まる一方だ。

■「離婚」を会社に伝えず120万円“罰金”

このように“スネに傷を持つサラリーマン”は決して少なくないようだ。他にも、似た案件の相談がマイナンバーの本格稼働の時期が近づくにつれ、確実に増している。

では、実際にはどんな問題が想定されるのだろうか? 筆者が思い付くまま列挙してみた。

(1)家族手当の不正受給がバレる

家族手当を支給している会社は、「扶養家族であること」を支給要件にしているところが多い。会社は、扶養家族かどうか、現時点では扶養控除申告書に自己申告で記載した内容で判断しているのが一般的だ。

つまり、従業員が「妻は扶養家族です」と自己申告してきたら、会社はそれを信用するので、それ以上の調査まではしていないだろう。

もちろん、扶養家族から外れていることがバレる場合もある。それは大抵の場合、税務署からの指摘が発端だ。税務署から「貴社の従業員の○×さんが奥さんを扶養家族に入れていますが、所得が超過している」といった連絡があった場合だ。このように税務署から指摘されるのは希だったが、マイナンバーが導入されると“ガラス張り”になり……発覚する確率が高くなると考えるのが妥当だろう。

もし、Aさんのように不正受給していたことがバレたらどうなるのか?

実は、怖いことが待っている。「不当利得の返還請求権」は時効が10年間あるので、会社は過去に遡って返還を請求できる。例えば、家族手当の不正受給額が月に1万円だった場合は、120万円という金額になる。

また、従業員本人が過払いの事実を知っていたということであれば、会社は過払い分に利息(年5%)を付けて返還させることもできる。もちろん、家族手当の返還のほかに、就業規則による処分が考えられる。

(2)副業がバレる

では、もう1つの内緒の副業はどうなるのか。

最近は、一部の企業で従業員が副業を兼業することを認める動きもあるようだが、全国規模で見れば、ほとんどの会社の就業規則には、それを禁じる規定が盛り込まれているはずだ。

その規定に反すると、どんな処分がありえるのか、そのあたりは微妙だ。

懲戒処分には、けん責(始末書をとり将来を戒める)、減給、出勤停止、昇給停止、解職、諭旨退職、懲戒解雇などがある。

業務に支障のない軽微な違反だった場合に懲戒解雇まではしにくい。しかし、会社の信用を失墜するような仕事の場合には、懲戒解雇だってありえる。

過去の判例の中には、キャバレーなどの風俗で副業した従業員を解雇した事案で解雇は有効とされた判例がある。理由は、深夜の仕事(会計担当)で本業に支障が出たことと、キャバレーで働くことは副業の域を超えているという判断だ(小川建設事件 労働判例397号 1982年)。

■年齢のサバ読みで解雇もあり

(3)経歴詐称がバレる

中小企業の中には、従業員を雇用する際に本人確認をしていないところがある。履歴書のみを見て信用して雇ってしまうのだ。だが、マイナンバーが導入されると、そこには本名・性別・生年月日が載っているので、本当のことがわかってしまう。

例えば、年齢詐称だってありえるだろう。

「若くないと雇ってもらえないと思って、年齢をサバ読んで履歴書に記載してしまった」などというケースだ。過去の判例の中には、本当は定年まで2年9カ月しかないのに、14年9カ月もあると年齢を低く詐称してマッサージ師に採用されたケースで懲戒解雇事由に該当するといったケース(山口観光事件 大阪地裁 1995年)もある。

例えば、苗字が嘘だったということもありえるだろう。何らかの事情により本名を隠して働いている人も、いるからだ。例えば、犯罪者として逃亡中のような人だ。

少なからぬサラリーマンが、マイナンバーの導入を控え、心の中がザワついていることだけは間違いないようだ。

(賃金コンサルタント 北見昌朗=文)