長いシーズンも半ば以上を過ぎ、後半戦から終盤戦に向かうこの時期は、通常ならばチャンピオン争いの帰趨(きすう)がある程度見通せて、戦いが大詰めを迎える状況になる。ところが、今年の場合はランキングトップを争う2選手が同点で並び、7レースを残して振り出しに戻るという事態になった。

 チェコ第2の都市ブルノ郊外にあるマサリク・サーキットで行なわれた第11戦チェコGPは、開幕戦のカタールGP以来、ランキング首位の座を守り通してきたバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)が3位でフィニッシュ。一方、ロッシを9点差で追うチームメイトのホルヘ・ロレンソは、金曜日午前のフリープラクティスから抜きん出たペースを披露。土曜の予選では、「最終コーナーで少しミスをして、リアが少しスピンしてしまった」と言いながらも、サーキットの最速記録を塗り替えてポールポジションを獲得した。

 しかも、ロレンソは1周のタイムアタックだけではなく、アベレージタイムでも他の選手を圧する高い水準でプラクティスを進めてきただけに、日曜の決勝レースであっさりと後続を引き離す独走ペースに持ち込んで勝利を飾ったのは、なるべくしてなった結果、というべきだろう。4戦ぶりの今季5勝目となったレースを振り返り、「実際はもう少し速く走れるんじゃないかとも思っていたけど、5〜6周して燃料が少しずつ減ってくると、ブレーキングで深く突っ込めるようになってきた。それが今回の勝利のカギになったと思う」と話した。

 この優勝で、ロレンソはチャンピオンシップポイントを25点加算。一方、ロッシは3位でゴールしたために16点の加算で終わり、9点あった両者の開きがなくなって、ともに年間総獲得点数は211で並んだ。点数は同じでも、優勝回数がロレンソ「5」に対してロッシは「3」であるため、順位はロレンソが上に立つことになった。ロレンソが獲得ポイントで総合トップに立つのは、2013年の開幕戦以来だ。

「ここで勝てば、バレンティーノとの差を詰めることができると考えていたので、レース前は少しプレッシャーも感じていたんだ。今日は2年半ぶりにランキング首位になって、素晴らしい1日になったよ」

 一方、3位でレースを終えたロッシは、思いどおりの速さを発揮できず、3番手スタートからそのままの順位でチェッカーフラッグを受けた。

「スタートもいまひとつだったけれども、今日はレースのリズムが良くなくて、昨日(フリープラクティス)のような調子で走ることができなかった。フロントロースタートだったので、いい走りをできると思っていたんだけどね」と、やや残念そうな表情で全22周のレースを振り返った。

 シーズン残り7戦の攻防に関しては、「紙の上ではホルヘのほうが強いコースもあるし、自分たちが互角に戦えるコースもある。ただ、状況は毎年異なるので、簡単に有利不利は言えない。どのコースが誰に向いている、と考えるのではなく、まずは次戦のシルバーストーン(第12戦イギリスGP)で速く走れるように、寒くても雨でもどんなコンディションでも対応できるように備え、シルバーストーンが終わったら、あらためて次のコースについて考えたい」と長期的な展望を語る。

 だが、そのシルバーストーン・サーキットについては、「過去にも自分はずっと苦戦してきたコースだし、あそこではホルヘはすごく強い」と、苦戦を予測していることも正直に話す。

 ロレンソは後半戦7レースについて、「今年のバレンティーノは、すごく高いレベルで安定して走っている。自分は5勝しているけれども、表彰台を逃すこともあり、今の厳しい戦いになっている。ここから最終戦のバレンシアまでは、毎戦表彰台に上がり続けたい。そうすれば最終戦、あるいはそれよりも前の段階で勝負をつけられるかもしれない」と話し、残り7戦で明らかに自分に不利になるであろうレースは、第13戦のサンマリノGPだろう、と予測する。

「ミザノはバレンティーノの地元で、彼はミザノのすべてを知り尽くしているから」

 この彼らふたりのチャンピオン争いをさらに複雑にさせる要因が、2013年と2014年を連覇した22歳のチャンピオン、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)の存在だ。

 2013年と2014年には驚異的な速さと強さを見せつけていたマルケスだが、今年は前半戦に転倒ノーポイントが続いて、ロレンソとロッシからは大きく出遅れる格好になった。だが、第9戦ドイツGPと第10戦インディアナポリスGPで連勝。本来の強さを着実に取り戻しつつある。

 今回のチェコGPでは、ロレンソのペースにこそついていけなかったが、レース前に「チャンピオンシップポイントは彼らふたりと離れているから、自分に失うモノはない。取れるリスクは取って勝負をしていく」と話していたとおり、ロッシを大きく引き離して2位表彰台を獲得した。20ポイントを獲得したマルケスは合計159点となり、ロレンソ、ロッシ両名との差は52点。「残り7戦で52点」という大差を縮めていくことの難しさを、マルケスはこんなふうに説明する。

「ひとりに対して52点差を追いつくことも難しいのに、相手はふたりだから、さらに難しいよ。ホルヘもバレンティーノも、レースではすごく速いペースだし、インディでも今回でもふたりとも表彰台に上っている。(点差を詰めるのは)すごく厳しいけど、今回のレースみたいに限界までリスクを取りながら、今後もベストを尽くすよ」

 ロレンソとロッシのチームメイト同士のチャンピオン争いは、シーズン7戦を残して再びゼロからのスタートになった。その彼らの緊迫した戦いを攪乱する「不確定要素」としてマルケスが加わることで、2015年のシーズン後半はここ数年で例を見なかったほどの、予測不可能な混沌とした状況を呈しつつある。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira