【新車のツボ106】スズキSX4エスクロス試乗レポート
スズキのエスクロスは、スイフト(第2回参照)やキザシ(第59回参照)とならぶ"軽(自動車)ではないスズキ"の最新作にして、残念ながらすでに販売終了したスプラッシュ(第58回参照)と同じく、厳密にはハンガリーで生産される輸入車である。
エスクロスは最近話題のホンダ・ヴェゼルやマツダCX-3と同様の、いわゆる"コンパクト・クロスオーバー"の1台である。このジャンルが最初にブレークしたのは欧州で、5年ほど前から各社が次々と参入して、今ではこの種の商品を持っていない欧州メーカーは存在しないほどである。実際、前記の国産コンパクト・クロスオーバーも、世界的ブームの兆しをにらんで開発されたといっていいが、ビジネス的に欧州市場を重視した企画である。
さて、エスクロスの正式車名にはアタマに小さく"SX4"と表記されているが、SX4を名乗るスズキのクロスオーバーは今回で2代目となる。初代SX4が出たのは約10年前。当時はまだ「クロスオーバーってなんスか?」ってな黎明期であり、じつはスズキはコンパクト・クロスオーバーの元祖のひとつなのだ。さらに、初代SX4は欧州ではイタリアのフィアット名義でも販売された。SX4は日本では知らない人も多い超カルト商品(失礼!)だったが、欧州ではメジャーなフィアットの提案型商品として、このジャンルの火つけ役の一角を担った......ともいえる。
古くはアルトにワゴンR、最近ではハスラー(第72回参照)といった軽がその典型だが、スズキはこういう新ジャンルの目のつけどころが非常に鋭い。しかも、スズキは徹底して"したたか"でもある。スズキは日本の軽ではトップメーカーとして自前で勝負するが、自分たちの知名度が高いとはいえない欧州では、こうして巨大ブランド(=フィアット)を味方につけて、結果的にちゃんと成功させる。
高い企画力はあるが、それを盲信して突っ走りすぎない。そういう先見性と地道さのバランスが、スズキという企業最大のツボといっていい。
ビジネス経営ネタとしても格好のサンプルになりそうなエスクロスは、ハンガリーから輸入するというスズキの戦法を見ても、日本での大量販売は見込んでいない。今年春に発売されたばかりのピッカピカの新型車だが、またまた失礼ながら、日本ではすでにカルト確定......と断言したい。それでも取り上げた最大の理由はもちろん、これがクルマオタク的に見て、とうていスルーできない存在だからだ。
あえていうが、この連載がスタートして以来、取材可能な"軽ではないスズキ"は、ほぼ漏れなく取り上げてきた。場合によっては、クルマのデキもよく分からない段階で、取材を申し込んだこともある。なぜなら、今の"軽ではないスズキ"はハズレがないからだ。そして、このエスクロスも、いつもどおりのツボだらけのスズキだった。
写真が下手なので分かりにくい(トホホ)かもしれないが、実物のエスクロスのデザインもいつもどおりの、なんとも抑揚があって筋骨隆々、ガバッと飛びかからんばかりの肉食系。国産輸入車問わずに百花繚乱のコンパクト・クロスオーバーのなかでも、もっとも存在感があって、クルマらしいクルマ好きのツボをくすぐるタイプのひとつといってよい。先見と地道に加えて、専門家や大人の審美眼に耐えるデザイン力も、スズキのツボである。
エスクロスは内外装やハイテクに必要以上のお金をかけていないのも、いかにもスズキ。室内の広さや開放的な高めの視界、荒れた舗装もシレッと吸収してしまうサスペンションの余裕など、あるべきツボを押さえて、じんわりと沁みる走りの良さもスズキである。街中や渋滞でテレテレ這いずっているだけだと、とくに感銘も受けないのだが、高速道路に入るとしっとりと落ち着いて、スピードが上がっても車内は意外なほど静かさが保たれるのは、エスクロスがスイフトやキザシ同様に、とにかく基本フィジカルを鍛え上げてあるからなのだ。
この連載では何度も書いているが、"軽ではないスズキ"最大のツボは、いい意味で"和製欧州車"としかいいようがないところ。これで200万円台前半なら欧州輸入車と考えれば安い......と思ったら、エスクロスは本当に欧州で生産されて、欧州から輸入されているんだった。
佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune